第21話
「はーい、では自己紹介をどうぞ!!」
超絶ハイテンションで騒いでいる大人がいた。
場所が街中ではなく人通りの少ない路地裏で本当によかった。
とういか、自己紹介でここまでテンションを上げるやつは高校生くらいだと思っていたがどうやら違うらしい。
「四谷傑。」
「新垣葵。」
「……し、霜崎晶です。」
黒田先生と先輩2人のテンションの落差は一体なんなんだ。
驚いて舌を噛んだ、恥ずい……。
それと、その黒いジャケット何んですか?
俺ジャージなんですけど。
胸元にCWって社員マーク入ってるから会社の制服?
……俺もらってないんですけど。
「ちなみに全員同い年!
同じ歳の方がやりやすいでしょ!!
僕こういうところ気が使えるだよね。
とういうわけで班長の四谷傑君!!
後おねがーーい。」
「黒田先生が指揮するんじゃないんですか!?」
「あー……、霜崎。
あの人が何かしてくれるって期待するな。
そんで、あの人はお気に入りの……」
よいしょよいしょと黒田先生はバッグから何かを取り出そうとしていた。
「寝袋でゲートの前か入った後で寝る。」
「え……。」
思わず素っ頓狂な声が漏れた。
冗談かと思ったが本当に寝袋だ。
ガラはテーマパークのキャラ絵が印刷されていた。
「この寝袋めちゃくちゃいいんだよ。
うちの社員の提案してくれたA級ダンジョンの素材でできてて保温性抜群!!
それから……」
「もういいですから。」
四谷さんが話をぶった斬った。
そして、雇用主であるはずの黒田先生は壁に向かってブツブツと何か言って拗ねている。
「気にしない方がいいよ。
あの人、ただのかまってちゃんだからさ。
最初は上の人間だから嫌かもだけど大丈夫。無視する術を身につけようぜ!」
新垣さんが満面の笑みで親指を立てている。
この会社の上下関係はどうなっているのか。
北川さんを見てても黒田先生が最も下の人間に見える。
俺はその共感に苦笑いで誤魔化すしかなかった。
「霜崎、これから入るゲートの情報は既に知っているな。」
「はい、C級ゲートですよね。」
C級ゲートは初の挑戦だ。
それに、四谷さんも新垣さんもC級。
……そして、最も強い人は既に寝袋にくるまっている。
「そうだ。だが、俺達は今回が始めての挑戦だ。中途半端な連携は邪魔にしかならない。
だから、お前はただ全力で戦え。
俺達は魔法的にもお前のサポートだ。」
「四谷さんは何を使うんですか?」
「俺は弓を使う。」
そういうとポケットから掌サイズ筒のようなものを取り出した。
カチッと音がすると弓の形になる。
「弓矢はどうするんですか?」
「俺の魔法は鉱物を操る。」
地面から黒い、砂鉄が四谷さんの手に集まっていく。そして、それは弓矢の形へ。
黒光するほどの艶。
見た目から伝わる硬度。
感じる魔力も相当だ。
……すごい。
「それとさんはいらない。
葵にもつけるな。さんをつけるだけでコンマ数秒指示が遅れる。敬語もだ。
回りくどいのは全部抜きにしろ。
同じ命を張る、同じハンターだ。
同じ戦場に立つ以上そこに上下関係はいらない。わかったな。」
「わかりっ……わかった。」
上下関係に囚われない圧倒的な合理主義。
だから、説得力もあるし直ぐに納得してしまう。
「そういう事だ、よろしく霜崎!」
「よろしく、新垣。」
「おう!」
くしゃっとした笑顔。
よく笑う人なんだと思った。
「じゃあ、そろそろ私の魔法をお披露目するぞ!霜崎、お前の刀よこせ!」
「……え?」
俺の刀をと疑問に思っていると早くよこせと手を前に突き出してくる。
背中の袋から出して新垣に渡した。
「ふっ!」っと気合の入った声を漏らす。
俺の刀が一瞬青く光る。
そして、その新垣の魔力は刀に吸い込まれっていった。
「ほれ!」
その光景を見て何が起きたのかと刀を戻され、握った時だった。
刀から青い光が流れ出る。
そして、俺の手を包み込んだ。
「……血豆が治った。」
手を見るとここ最近の訓練でできた血豆が綺麗に治っている。
「なんだ、怪我してたのか?
ゲート入る前は小さな怪我でも治してこいよ。その少しの怪我が戦闘中に意外にも響いたりする。気をつけろ。」
「……すいませ……すまん。
次から気をつけるよ。」
不意に出そうになった敬語を押しとどめて謝る。
「よろしい!でだ、私の魔法の説明は今見たようにモノに回復能力を付与する。
戦闘中にいつ怪我してもその刀に溜めた分は回復してくれる。
安心して前で思いっきり戦え。」
新垣は俺の胸に拳を当てる。
「ありがとう。」
「ちなみに私はこの薙刀が武器な。」
背中に背負っていた長物。
新垣の身の丈よりも大きい薙刀だ。
「長物はいい。
敵をバッサバッサとできるからな。」
手にとって目の前でブンブンと振り回して見せてくれた。
細い見た目なのに薙刀の振る速度はかなり速く、空気を切る音が響き、風が巻き起こる。
「私も前衛で戦うから背中は私に任せろ。
しっかり守ってやる。」
「はい!」
ここで、俺も任せろとそう言えれば。
まだ、もう一月以上経つのにF級の時の自信は変わらずにいた。
でも、今回のゲートで自信を付けられるならとそう思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます