第20話
「新人社員、強いの?」
「知らん。」
資料をパラパラ漫画のように茶色い髪を短くまとめて眼鏡をかけた女、新垣葵は目を通していく。
本当に読んでいるのかと思うが実際に読めているらしい。
「普通じゃない。
戦闘履歴、身体能力も。
ただ、魔力の吸収ってのは気になるかしら。
この人も
「あの人は別格だったからどうだろうな。」
心というのは元々、俺達と共にゲートを回っていた人だ。
年齢は18歳にもかかわらず、今はA級になっている、うちの会社では有名な男の名だ。
そして、A級の中で最もS級に近い人物と言われ過去に現れた龍を倒した人と同じ最強の炎魔法使いと言われるまでになっている。
「パッと見た限り性格も普通そうね。
心みたいに普段はビクビクして戦闘中のみクールでクソカッコ良くなるギャップがあったら面白いんだけどな。」
「本人はそんなつもりないらしいけどな。」
「会いたいなー、あいつに。
なんで、私らまだC級やってんのかしらね。」
「そうだな。」
本当になんでまだC級なのか。
それに俺も心には会いたかった。
しかし、今は日本各地に海外と色々なゲートを回っていて本部に帰ってくる事など稀だった。
できれば、一週間でもいいから体術をまた教えて欲しい。
「私にも黒田社長や心みたいに魔眼が発現すればA級になれるのかしらね。」
「無い物ねだりしても仕方ないだろ。」
「まあ、そうね。」
資料を読み終えたのか机の上に放り投げて、手元にあったコーヒーを飲んでいく。
「ところでさ、私勿論前衛で戦ってもいいわよね。最近、後衛に控えさせられて体動かしてなくてさ太ったんだよね。」
服の上から腹を掴んでため息を吐く。
「お前は俺が班長の時、大人しく後ろにいてくれた事なんてないだろ。」
「まあね。」
ウィンクをして満面の笑みで笑って見せる。
コイツうぜぇと思う時期もあったが同期で腐れ縁のせいかもう慣れてしまった。
それに、葵の回復魔法は特別だし、体術と身体強化は黒田社長に教わっている。
心配は別にしない。
「ただ、霜崎の面倒は二人して見るぞ。」
「そうね、連携は初めのうちは取れないだろうしね。それにもう一人は黒田社長でしょ。あの人、絶対にゲートの隅で寝るわよ。」
「……いないものとして考えて行動する。」
あの人を頭数にはとてもじゃないが入れれない。真面目にやってくれれさえすればS級ゲートすらも一捻りできる強さを持っているがあの人が本気になったところなど見た事がない。
「ゲートの序盤は霜崎の強さを見るためにも自由にやらせてみようと思う。」
「まあ、強さがわからないんじゃあ作戦も立てようがないしね。」
ただ、回復魔法はべらぼうに疲れる。
この人、怪我しないでいてくれることを祈らなくちゃね。
ポケットの中にあるスマホを取り出す。
今回の仕事はまさかのC級ゲートだ。
本来戦う私達3人だけならまず出撃許可が降りないゲートだが黒田社長がいるから降りてしまう。
「今回のゲート。黒田社長、遊ぶわよ。
霜崎と私達をいじめる気満々じゃない。
普通選ぶならD級でしょ?
しかも、私達4人での出撃。
あのクソ社長、死ぬってマジでこれ。」
「黒田社長いるから死なねぇよ。」
「死ぬほど痛い思いするんだ。
んなもの、死ぬのと変わんないわよ。
ハンター協会に動画付きで送りつけたろうかしら。」
パシャっとシャッター音が2回、響く。
1回目はスクリーンショット。
2回目は俺を移しての自撮りだ。
「何してんだ。」
「心に送るのよ。
アイツも私らの顔見たいでしょ。
それに、もしこっちに帰って来てたら駆けつけてくれるかもしれないじゃない。
ところでさ、心ってなんで色んなところ回ってるんだろうね。
確か、アレ自分からでしょ。」
「人探しだそうだ。」
「人探し?誰?まさか恋人?」
「なんでも、身元不明のハンターに襲われてそいつを追っているらしい。
なんの情報もないからまだ足取りすらも捕まえれてないんだろ。」
「ああ、あの事件ね。」
都心部消失事件。
一年前に起きたその事件はなんとか怪我人は出なかったものの重軽傷者は数万人に上り、都心部のビルは瓦礫の山になって消えてなくなった。
今も復興作業が行われている。
事件の発端はハンター同士の喧嘩と言われ、その1人が心だ。
だが、本人は襲われたと言っていた。
白髪の長い髪をした男に。
「せめて、映像か写真でもアレば事は今より進んだんだろうけど、あの場には何も残ってないからな。」
「助けに行きたいんでしょ?」
「いや、俺は……」
言われた通り、助けに行ってやりたい。
でも、アイツと俺の差は開くばかり。
助けに行っても足手纏いにしかならないと自覚している。
「別に隠す事ないじゃない。
私も一緒の気持ち。
だから、明日は気張るわよ。」
右手で拳を左手に打ち付ける。
その打ち付けた音は空気を盛大に震わした。
「心に追いつく!
でも、その前に新人の教育から。
頼りにしてるよ、隊長!」
葵は俺の背中を力強く叩いた。
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