第16話

「クローズワークスに新人社員が一人。

……いつぶりだろうね。」


ゲート・カー本社で椅子を左右に揺らして遊ぶ、眼鏡をかけた男。

ゲート・カー社長【一ノ瀬一真いちのせかずま】。

ランクはS級。年齢は25歳だ。

その男は一枚の紙を持っていた。


「名前は霜崎晶。D級。

アイツが気にいるって事はどうせ一癖二癖ある人なんだろうけど。

どう思いますか、高城さん。」


紅茶を啜っているがまだ湯気が立っている。

入れたての熱々の紅茶だと見ればわかる。

口をつける前に熱いとわかる。

それなのに口をつけた高城さんは猫舌だ。

「あつ!」


思った通りの反応だった。

「まだ、湯気が立ってるじゃないですか。」


「緩くなったと思ったんですよ……。

喉だって乾いていますし……。」


頬を赤らめてコップを机に置き、両手で顔を仰いだ。

これだけを見ていると最年少、20歳でS級になったとは思えない人だ。

雷帝と言われている威厳はどこへやら。


「それで、クローズワークスに新人社員でしたっけ?」


「そうそう、黒田社長がまだ面白い子を拾ってきたと思ったけど調べてみても身体強化魔法以外は使えないみたいなんだよね。

履歴もF級を毎日こなした程度。

D級になる前はその最底辺のゲートで大怪我。

目新しいのはF級からD級に高飛びした事か。

確かに1年で2つもランクを上げる人はかなり珍しいけどさ。」


直近で2つランクを上げたと言えば2年前の18歳の頃の高城さんがCからAに上がった事くらいだ。


「まあ、あの人は変わってますし。」


「そうだね、変わってるね。

黒田社長が直接スカウトする人はたいてい一風変わった魔法使うしね。

そういう、高城さんも一時期クローズワークスに誘われていたじゃないですか。」


「私、あの人苦手ですもん。」

初めて会った時は凄いイケメンだと思った。

しかし、それは黙っていればという枕言葉が付いたのはすぐにだった。

言葉遣い、表情、どこか子供染みていて人との距離感もデタラメ。

近づくんじゃねぇと一瞬で思ってしまった。

でも、それ以上にあの青い目で全て見透かされているようで気持ち悪かったのがクローズワークスに入りたくない1番の理由だった。


「苦手なのは私も一緒だよ。

まあ、でも高城さんに興味を持った所は間違えじゃないみたいだけど。

身体強化に加えた神経、筋肉に電気を纏って超速戦闘。

過去に渡っても電気を纏う人は高城さん以外いないからね。」


そもそも、電気を使うハンター自体珍しい。

しかし、高城ハンター以外は皆揃って電気を放出しての攻撃手法だ。

高城ハンターを真似てやる人が出たらしいがついぞ出来る人はいまだいない。


「おかげさまで雷帝なんて呼ばれてますけどね。恥ずかしいって言ってもメディアの人はやめてくれないし。

ネットの人は萌えるとか訳の分からない事を言いますし。」


「良いじゃん、雷帝。

私なんか最高の水魔法を使う人だよ。

いいと思うけどな、二つ名。」


「やめてください!」


国民からの尊敬の意味で雷帝と呼ばれているがどうにも気に食わないらしい。

そもそも、二つ名がつくことが嫌だとか。

社内でも彼女を雷帝と呼ぶのは禁句になっていた。


怒らせてしまったようで緩くなったのか紅茶を一気に飲み干してテーブルにコップを勢いよく置く。


「失礼します!」


どうやら、本気で怒らせてしまったようで「ごめん。」と繰り返して言ったが扉のノブに手をかける。

許してもらえそうになかった。

なら話を変えようと思った。


「龍衝の練習なら付き合うよ。」

高城さんはまだ龍衝を使えない。

しかし、龍衝に対する強いこだわりは入社当時から示していた。


「いえ、お言葉嬉しいですが大丈夫です。

もう少しでできる気がするので。」


目の色が変わった。

本当にもうすぐできるのだろう。

いつも、戦闘以外で見せることのない真剣な目をしていた。


「そうか、わかった。」


「はい、気にかけていただきありがとうございます。では、失礼します。」


ゲート内で肩を並べて戦う物同士だが社内では社長と社員の壁は崩すまいと礼儀よく退出していった。


「さて、僕も仕事するかな。」

パソコンを立ち上げて、モンスターの整理された情報などに目を通す。

ハンター達には良質な情報を与えなければ怪我人、酷い時は死人を出してしまう。

そうならないために一つ一つの情報を見る。

だが、一つの気掛かりな情報で集中できずにいた。


黒田社長を襲撃した奴らの情報だ。

アレから一週間経つが目撃情報はひとつも入ってきていない。

防犯カメラからも顔は割れている。

なのに、何も入ってこない。

なんなんだ、コイツらは。


あの夜の黒田社長と襲撃者達の戦闘時の気配は思い出しただけでも鳥肌が立つ。

この襲撃者達をどうにかできたのは黒田社長だからだ。

私や高城さんで互角くらいだ。

よく被害をひとつも出さずに対処したもんだと黒田社長はさすがだと尊敬してしまう。


「まあ、性格面は尊敬はしたくないけど。」


考えても情報がない以上はできる事はない。

今は普段の仕事を全うしようと手と頭を動かした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る