第15話

「どうだった?」

廃墟ビルの一室で質問を投げかけられた。

だが、その質問には赤髪の男【イラ】の焼け焦げた姿と爛れた左腕。

そして、表情を見れば無事に終わったとは思えなかった。


「ダメ、アレは一万年前にもいなかった化物。私達じゃあ勝てっこないよ。」


同じく、黒田を殺しに行った女【ルクリア】が堂々と勝てないと言い放つ。

見た目は金髪で短髪の幼い少女。

だが、ルクリアの目は確かだ。

彼女が言うならまず間違いないだろうと思った。


「ルクリアの力でも無理なのか?」


「アイツの魔眼は全部見破る系。」


「相性最悪ってわけか。」

少し拗ねたように言うルクリアを見てクスッと笑ってしまった。

それを見て、女は怒ったような声を滲ませる。


「うるさいなぁ。

エシー、アンタが言ってきなさいよ。

アンタの力ならなんとかなるんじゃない?」


「嫌だね。めんどくさい。」

さっきまで人の事を煽るように質問をしといて、当の本人に行けと言えばこれだ。

石床に寝っ転がってあくびをして、顎髭を撫でる。

男の癖に肩につくほど髪が長い黒髪は行動もそうだが見た目もオッサンそのものだ。


「俺の魔法はすごい疲れる。

だから、戦いたくないの。」


「でも、あの人倒さないとやばいと思うよ。

全ての人間を守り通せる力持ってるし。

強き者は弱き者を助けるべきとか言ちゃうって顔に書いてあった。

アレがいる限り、一万年前の永久の魔法世界は作れないよ。」


「それは、困ったな。

なら、黒田を観察してくるよ。

それで、作戦を決める。」


声だけはやる気を見せるた。

だが、体の方は残念ながら起き上がる素振りも見せない。


「おい、エシー!」


さっきから珍しく黙りしていたイラが声を荒げてエシーを睨み付ける。


「どういう作戦であれ、アイツは俺がやる!

俺がこの手でぶっ殺す!!」


額に血管が浮き出るほどのイラつきを見せる。怒りがもう我慢ならないと声音が語る。


「勝てる自信あるのか?」


遠くから気配で戦闘を確認していたがイラに勝てる相手ではなかった。

それにアレでまだ黒田の奥底にある力はまたまだあんな物ではない事はわかる。

それはイラも気づいているはずだ。

しかし、イラの目には次は絶対に負けないという強い意志と荒々しく湧き出る魔力が伝わってきた。

何故と思ったが思い当たる物を見つける。


「なんだ、もしかして霊章を解放する気か?」


「悪いかよ。」


文句があるならお前もぶっ殺すと言わんばかりの顔。

怖くて目を逸らした。

あまり仲間を怒らせるのは気が乗らない。


「いいや、別に。

でも、使い所は考えなよ。

解放したら君、そう長く戦えないでしょ。

まあ、グーラみたいのだったらいつでも好きな時に解放してくださいだけど。」


そう言ったそばから更にイラの表情怒りを滲ませた。

やってしまったと思った。

上から物事を言うのは良くないとわかってはいるがやってしまう俺の悪癖。


あ、やば、めんどくさい。


そう思った時には手遅れだった。

顔の血管が更に浮き彫りになる。


「つーか、あのバカはどこにいる!!

五十年前に俺達と一緒に氷の封印から解かれたはずだろうが!!」


しかし、どうやら俺の指摘したことではなく、この場にいない四人のうちの一人に声を荒げる。


「残念ながら彼は封印から解かれてないよ。

一万年前に六神に捉えられて【ゼロの霊章】の引き金にされた後、バラバラにされて今の人間達を守る器官として動いてる。」


「何してんだ!!あの馬鹿が!!」


イラは近くにあった石の壁を砕く。

一瞬ヒヤッとしたが手加減してくれたらしい。

彼が手加減せずに殴れば爆発騒ぎでようやく見つけたこの世界での安息の場所が壊されてしまうところだった。


「まあ、彼はその内這い出てくると思うよ。

霊章を解放できる程度にまでもう少しで回復するでしょ。

それに、彼の力はバラバラの物を集約させるのは得意分野だ。」


「食い意地が凄まじいの間違いでしょ。」


「アハハハ、ルクリアそれ正解だ。」


そんな会話をしているとイラは立ち上がる。

そして、右手を振ると空間に裂け目ができた。


「どこ行くの?」


「寝るんだよ!」


イラは空間の裂け目の中に行ってしまった。

余程疲れたのだろう。

彼が空間の裂け目の中。

魔力が潤沢にある世界で身を休める事などそうそうない。


音もなく空間の裂け目が閉じるのを見守ると僕は立ち上がった。


「エシーもどっかに行くの?」


「さっき言ったじゃないか。

黒田の観察だよ。」


「気をつけなよ。

いくら、貴方が気配消すのが上手いって言っても彼の視界に入ったら見破られるよ。」


「気をつけるよ。」

イラとルクリアの様子。

遠くからでも感じた凄まじい魔力。

それでも、わからない黒田の限界。

気は抜けない。

普段めんどくさがっているが今回は少し本気で観察しないとやばいと予感がした。



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