第14話
「あー、クッソ!
なーんで、仕事入ってるんだ!」
「貴方、社長ですよね?」
「北川さん、マジレスやめて。
余計にへこむ。」
僕専属の運転手。
茶髪でイヤリングに指輪とチャラチャラと色々つけているがスケジュール管理が上手い。そこがいいし、その部分で専属なんだけど……。
「時間はどれくらい?」
「3時間を予定しています。」
それを聞いてため息が出る。
他の同じ事業を行なっている人達との食事会。めんどくさいな。
でも、うちの子達が嫌がらせされるのはもっと嫌だし仕方がないか……。
ていうか、そんなに話してどうするのか?
中身の話をしてくれるのか…。
大抵、いつもいつも媚を売ってくる奴らばかり。飽き飽きする。
まあ、晶の訓練は道門に任せたし。
体術に魔力の操作も基本的な事なら彼に任せれば大丈夫だけどさ……。
それでも、愛しい人が他の所で成長していると思うとなんか嫌なんだよね。
それに、僕クラスならいいけど今の晶のレベルじゃあA、B級ゲートには武器は持たせてあげないと。
道門にメールで〈剣術も教えといて〉っとメールを送る。
武器は最高級品を持たせたいが武器頼りの戦い方になって欲しくはない。
それではつまらない。
武器庫に〈僕の選んだ晶の為の武器〉と書き置きを残した。
武器のレベルは中の上くらいのそれなりに良い刀。
気に入ってくれるといいな。
あー、でも、僕自身が渡して目の前で晶の喜ぶ顔が見たかった。
「適当に愛嬌振り撒いて早く帰ろ。」
「社長の言う事じゃありませんね。
しっかりとお金を巻き上げるくらいの事はしてきてください。」
「うわー、性悪。」
「社長が送迎先でもらったお金の半分はくれるって言ったからですよ。」
「なに、他に買いたいものがあるの?」
「いえ、シンプルにお金の束見てると気持ちがいいじゃないですか。
それで、手渡しとか余計に。」
「金の猛者だね。
まあ、それで仕事を完璧にこなしてくれるんだから安いもんだよ。」
ピクッ……。
なにか不吉な風が肌を撫でた。
モンスターの魔力?
いや、もっと異質な感じだ。
国一個滅ぼすとかほざいていたS級ゲートのモンスターよりも嫌な感じ。
「ねぇ、近くでゲート破られた報告は?」
「いえ、そのような報告はありません。」
場所は高速道路。
時刻は午後6時。
帰宅ラッシュや運搬業社の仕事。
まだまだ、車通りが多い時間。
でも、車は一つもない。
「先に行ってて。」
「わかりました。」
時速100キロで走る車から飛び降りた。
夜闇を照らす街灯が道路を照らしている。
異常なまでに静かだった。
ただ、何かいる。
「あー、そこか。
何やってるの君?
魔力をそんなに飛ばしてどうしたの?」
街灯の上に人影があった。
目に魔力を流して、その人影の全てを視覚化する。
魔力量はそれなり。
筋肉もなかなかだ。
おっと、コイツも見えないな。
晶と同じでどんな魔法かが見えない。
でも、僕のお気に入りにはなりそうになかった。
悪い子だと感じたからだ。
「お前こそ何者だ?
この世界に魔力が巡り始めて月日はそんなに流れていないはずだが。
なぜ、そんなにも力を持っている?」
男の声。
声とともに街灯から飛び降りた。
血のような赤い色をした髪。
目つき、顔つきは最悪だ。
年齢は20そこらか?
「なぜって?だって僕天才だもん。」
「そうか。だが、私よりかは……!」
その男の足元にあったコンクリートが砕けた。
速いな。
雷帝の光ちゃんと同じ速度くらいか。
まあでも……
僕よりかは遥かに遅いけど。
「私よりかは……なんだって?」
相手の首後ろを掴み、右腕を後ろに回して折れる寸前のところで止め、コンクリートに埋まる勢いで地面に叩きつけた。
それにしてもコイツ人間か?
魔力の感じはモンスターのそれだ。
「……貴様!!」
眉間に皺を寄せて、僕を睨む。
そして、次の瞬間凄まじい魔力を放出して魔力で僕の身を叩いた。
掴んでいた右腕が振り解かれて、そのまま突きが顔面に飛んでくる。
牽制の突きじゃないな。
よく、下になっている状態でこんなにも攻撃に集中できる。
ドンッ!
硬いものを殴る鈍い音と爆風。
「氷だと!」
拳と頬の間に氷の壁が隔てる。
厚さはそれほどないが僕の魔力で作り上げた最高強度を誇る壁だ。
どんな人でも壊す事はできない。
だから、正直この氷の壁に傷ひとつつかないと思った。
しかし、よく見るとヒビが入っている。
「……凄い威力。」
「ぬかせ!」
「別に煽ってる訳じゃないよ。
純粋に凄いから褒めただけだ。
それと、あんまり長く触れない方がいいよ?」
男の手に指を刺す。
霜が降りる程に凍りついた腕を見て男は飛び退いた。
「それで、君は何者なの?」
「貴様に答える義理はない。
だが、お前のような強い奴が邪魔だと思ってる奴がいると言う事だ!!」
男の魔力がさらに強くなる。
空気が地面が振動する。
「こーえが揺れーるー…」
声がブルブルと振動する。
ダイエット機器のブルブル揺れる機械に乗ってるみたいだった。
「あー……おもしろ。」
「ぶっ殺す!!」
楽しんでいるとなぜか男は怒った。
どうやらまた、煽っていると思われてしまったらしい。
しかし、このままコイツを暴れさせると高速道路がめちゃくちゃになってしまう。
「殺せないよ。」
手に魔力を集めた。青い光が手を灯す。
上空に飛び上がり、重力加速を乗せて突っ込んでくるが敵を捉えるためにある程度手加減をして攻撃しなくてはいけない。
まあ、手足もぐ程度なら大丈夫か。
手から魔力塊の蒼い玉が八つ生まれる。
それを見て、男の表情が歪んだのがわかった。
気づくのが思ったより速いな。
でも、逃がさないよ。
「
八つ全てがこの世に現れた最強の生き物である龍を迎撃できる威力を持った魔力の塊。
S級ゲートのモンスターも木っ端微塵にできる威力はある。
殺してしまうだろうか?
いや、最強のゲートのボスよりも嫌な魔力。
丁度いいだろ。
八つ全てが敵に向かって飛来する。
逃げ場はない。終わりだ。
「あーあ、何やってんの。」
女の声。
気配は感じない。
目の前の敵に意識は集中させつつ、周りにも意識を向ける。
……見つけた。
高速道路の右脇にあるビルの上。
そこから、目の前の男と同じくらいの魔力を感じた。
ドンッ!!!
爆発音が響いた。
男に龍衝が直撃した音だ。
「……かわされた?」
爆炎が晴れると不自然な形で男がいた。
青い目で男を見るといつのまにか男を象った魔力の虚像に変わっていた。
「安心して、この人避け切れてないから。」
男がビルの壁面につかまってぶら下がっていた。
身は焼け焦げているが四肢の欠損は見られない。
手加減し過ぎたか。
「お前は絶対、俺がぶっ殺す!!」
「なに?逃げるの?」
「ちょっと、挑発しないでもらえる?
その男、キレやすいんだから。」
「うるせぇーぞ!!」
「はいはい。」
女は間の抜けた返事をすると僕に向かって何か投げた。
攻撃?
それを炎を投げて撃ち落とすと煙が充満する。
煙幕か。
僕が視覚系の魔法を使ってるってバレたか。
体に纏わりつく煙。
なかなか、視界が晴れない。
警戒していたが敵は襲ってこなかった。
ちっ、逃したか。
見た事ないな。
虚像、幻影を作っているのか?
それに加えて逃げ足も一流か。
本人達は気配を消して、何処かに消えている。
遠くから車の音が聞こえ始める。
女の方の魔法で工事現場でも再現して道を塞いでいたのか。
「何者だ、アイツら?」
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