第13話
例えるなら白亜の塔。
全部で50階の大きな建物。
【クローズワークス】本社。
この会社がゲート内で入手された素材、加工されたアクセサリーや服、食品、ハンターの武器や防具を販売する店がこの一つの建物に全て詰まっている。
更に上層30階からはこの会社で働く人達の移住区となっているらしい。
代表取締役である黒田修司が20歳の時に設立し、今では日本が誇る最大規模の会社になっている。
「本当に俺なんですよね……。」
しかし、そんな会社から一月前にD級に上がったばかりの俺がスカウトを受けていた。
「ハハハハ。安心しなさい。
メール、電話からも社長さんは君に興味深々で夜も寝付けないと連絡が入っている。」
そう、自分の会社の社長の状況を説明してくれる道門さん。
先日、道門さんが【クローズワークス】の社員であることを聞かされて驚いた。
今まで聞きはしなかったがなぜ、黙っていたのか。
道門さんがこの会社の社員でしかも人材を探す役職と聞かされればきっとレイドどころではなくなる。
それに道門さんに人が集まる。
人材を探すどころではなくなるからと聞かされて納得した。
「ねー、あの人って黒田社長じゃない!」
「本当だ!!」
周りがざわつき始め、シャッター音と光が行き交い始める。
それで、ビルの入り口に目を向けた。
スーツ姿に真っ黒な髪、年齢以上に顔立ちは少し幼さがのこるが凄いイケメンだった。
それだけ見れば大学生から社会人になりたての人みたいな雰囲気があった。
でも、その人は何度もテレビで見た事もあったし、モデル雑誌の看板を貼っていたりする、
しかし、それ以上にその人を目の前にした時の威圧感は今までのどんなものよりも圧倒的ななにかを感じた。
「こんにちは!
僕の事は道門から聞いてるよね?
クローズワークス代表取締役、黒田修司です。
よろしく、霜崎晶君。」
「よろしくお願いします。」
差し出された手を握った。
「ここに来たって事はうちに興味がある、もしくはもう入社希望って事でいいんだよね?」
「はい、それはもちろん。」
こんな大企業に誘われて断る人はまずいない。それに加えて、社長が直々にお出迎えしてくれた。
緊張で鼓動が早く打っているのがわかる。
「よし!じゃあ、今日は一日仕事体験だ。
新人社員としての初日と思わず、十分に楽しんでいってくれ。」
本社40階。
俺が通された場所は大広間だった。
そこはまるでグラウンドのような場所。
土があり雑草が生え、天井のライトが太陽のようにこの空間を照らしていた。
「ここは訓練場。
壁、床は最高級の素材で出来ていて防音式。
どれだけ暴れても誰にも迷惑を一切掛けない僕一押しの部屋だよ。
他の社員達もここで時々訓練とか運動をしてる。
それで、晶には今日は訓練を受けてもらう。もちろん、僕が直々にね。」
「黒田社長が直々にですか?」
うれしい申し出だが、こんな大物からいきなり訓練を受けさせてもらうなどありえる事なのだろうか。
「あれ、嫌だ?」
「いえいえ、そんな事は!!」
嫌ではない気持ちを全力で口にする。
嫌な顔をされていないか恐る恐る顔を見ると黒田社長はニコニコとした顔をしていた。
「あー、よかった。
いきなり、嫌われちゃったと思った。
後ね、僕の事は呼び捨てでいいよ?
どうにも堅苦しいのは苦手で。」
頭をカキカキと堅苦しいのは苦手アピールを前面に押し出してくるが恐れ多くてそんな事をできるはずがなかった。
「まあできないよね。
じゃあ、これから僕は晶に教える人だ。
だから、黒田先生もしくは修司先生でもいいよ。
ほら、先生ってなんか生徒と近しい存在でなんかいいじゃない。」
うんうんっと言って「さあ言ってみて」と言われた。
なんか、とても接しやすいというか距離を凄まじい勢いで詰めてくる人だと思った。
「じゃあ、黒田先生。
今日一日よろしくお願いします!」
「まっかせなさーい。
君の事は道門からある程度聞いてるよ。」
まあ、君の戦っている映像もしっかりと持って何度も見返してるけど。
いいね、やっぱり本人を目の前にするとやっぱりいい。
少し浮き出た筋肉。
体中を巡る魔力。
身体強化。
どれもまだまだ未熟そのもの。
でも、それがいい。
未知の可能性、成長。
あーーーーーー!鍛えがいがある!!
ビシッ!!
唐突に黒田が自分の顔をビンタする。
ビクッと晶は驚くところを見るとよかったと胸を撫で下ろした。
口に出てなかったか。
いかんいかん。
素が出ては怖がらせてしまう。
鼻の下も伸びてないな。
自分の鼻下を触り確認。
それと頬を赤らめてないか熱を確認。
どうやら、ポーカーフェイスは出来ていたようだった。
「身体強化をしてからの体術。
まあ、他のハンターもやってる基本だね。
それなりに体も鍛えているようだけどまだまだ筋肉に心肺機能も十分には足りてない。
だから、ビシバシ行くから覚悟してね。」
「お願いします!」
ウィンクをし、最後の語尾にハートがつきそうな言葉だったせいか背筋になぜか悪寒が走った気がする。
どこかむず痒さを感じた。
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