第6話
Dランクの力。
今まで、一般人に毛が生えた程度の強さだった俺が獣以上の力を手にした。
ネット上での情報の上書きも完了し、これで名実ともにDランクのハンターになったわけだ。
ハンター専用のスマホアプリを起動した。
そして、参加可能ゲートを検索するとこれまでと段違いの量が表示されるようになっている。
久しく忘れていた、浮き足立つ感覚。
すぐにこの力を確かめてみたい。
守られるだけの俺じゃなくなったと気持ちが昂ぶる。
でも、先日の事を思い出すと脚がすくむ、手汗が滲む。
あの一件でわかってしまった。
このゲートのランクは絶対なものではない……。
「……やっと得た力。」
歩みを止めるのか?
ここまで来て、何度も死にかけてきて。
あの死線は数多く超えた中の一つだ。
なら、俺はまだ……
***
Fランクゲート。
最下位のゲートは誰もやりたがらない。
なぜなら、割に合わないから。
お金も、手に入る強さも。
しかし、誰かがやらなければゲートからモンスターが出てきてしまう。
出てきたモンスターが何をするか。
そんな事は聞くまでもなく殺戮だ。
一般人はなす術なく殺される。
そうならない為にFランクゲートはハンターに必要な手続きを行いさえすれば一人でも立ち入りを許可していた。
「手続きが完了いたしました。」
ゲートの前でスーツ姿の男の人がいた。
名前は上原と言った。
ハンター協会から派遣されたと言っていたがこの人は……間違いなく俺より強い。
全身からこれまで身近にいたCやDの人よりも格段に上の魔力を感じる。
まだ、会った事ないがBもしかしたらそれ以上の可能性もある。
こんな人が大企業じゃなく、ハンター協会にいるなんて……。
「失礼かと思いますがこの腕時計の装着をお願いします。
Fランクゲートとはいえ命の危険はありますので。」
手渡されたデジタルの腕時計。
見たことのない機種だった。
それに、ゲートの中ではバッテリーは長くは保たないはずだ。
「なんですかこれ?」
「それはハンターの血圧、脈拍などを計測しハンターの生存を探る物です。
緊急時にその赤いボタンを押していただければすぐに救助が派遣されます。
その腕時計は魔石が入っており中でも使用可能な作りになっており、腕時計そのもの強度はA級の僕でも壊せない程の物になっていますので心配になさらず戦闘してください。」
「はぁ……ってA級!?」
腕時計の説明の合間に自分のランクを告げたので聞き逃しそうになったが驚きのあまり聞き返してしまった。
なぜ、ここで自分のランクを言ったのかは腕時計の強度を示すためだろう。
しかし、なんとも無愛想な人だろうか。
A級と聞き返してしまうと(まだ説明の途中)と言わんばかりの顔をした。
まずかったと思い「す、すいません」と言い腕時計を装着した。
「取り敢えず腕時計の事はわかりました。
これって俺がずっと持ってていい物なんですか?」
「はい、一人でゲートに入った人経験のある人には一律に支給される物です。
これからもFランクのゲートへの参加をよろしくお願いします。」
そう頭を下げる。
「では、私はこれで失礼します。
ご武運をお祈りします。」
次の仕事があるのか上原さんは手早く車に乗り去って行った。
そして、誰もいなくなった俺しかいないゲート前。ゲートが帯びる魔力の光、青い光が辺りを照らす。
ゲートに入る前から心臓が高鳴っている。
まだ俺はゲートの前に立っているだけだ。
これまでも、何度も挑んできたFランクのゲートではあるが何度も死にかけた場所でもある。
前もって安全かどうかはハンター協会が確認しているから大丈夫なはずだ。
それに危なくなれば逃げればいいだけだし。この赤いボタン押せば助けてくれる。
でも、気を抜いてはいけない。
それに、まだ、Dランクに上がったばかり。
うまく力を使えるかもわからない。
素の身体能力も身体強化の魔法もどれだけ強くなっているのか。
空回りして力に振り回されたりしまわないか。
しかし、身についた力はぶっつけ本番でやってみるかしかなかった。
深呼吸をした。
少しの魔力がゲートから流れ出ている。
その魔力の風を浴びながらゲートに足を踏み入れた。
***
ゲート内部は洞窟だった。
周りは暗くなると光る夜光石の光が薄暗くも洞窟内部を照らす。
いつもなら、周りで騒がしくしているレイドのメンバーの人たちはいない、今回は完全に一人の戦い。
自分の足音がザッザッといつもよりも大きく鼓膜を揺すっている気がする。
いつもより、洞窟内で反響している気がしてならなかった。
今回のモンスターがどんなモンスターにもよるが足音はなるべく殺さなければどんどん寄ってくる。
ケッケッ!
突然、そんな笑い声が聞こえた。
それに身体がピクッと反応して立ち止まり、周囲を見渡した。
今俺がいるのは、一本道。
横幅はかなり広い。
声は前から聞こえた。
さっきの笑い声は嫌というほど聞いたことがある。
Fランクゲートの鉄板モンスターであるゴブリンの声。
俺が指で数えるほどしか倒していないモンスターは全てゴブリンだ。
Fランクの強さでも倒せるほど脆く、運動神経も大した事ない。
連携を取れるほど賢くもない、
しかし、ゴブリンの厄介なところは量が凄まじく多いところだ。
洞窟の奥地からケラケラと複数の笑い声。
ゴブリンは夜目が効く。
あっちは既に俺の事を捕捉しているはずだ。
息を呑んだ。
最弱のモンスターと言っても俺は何度もこいつに手傷を負わされた経験がある。
そして、ゴブリンの爪は病原菌の塊と言っていいほど醜悪でヒーラーのいない今、手傷を負うわけにはいかない。
聴覚も視覚も嗅覚さえも音が聞こえた方向に神経を集中させた。
ジャリ…--!
地面を蹴った音が聞こえた。
複数、聞こえる足音。
姿勢を低くして身構える。
暗がりから大きな黄色い目、緑色の肌をした小人を目視した。
前衛に3体。後衛に3体。
計6体のゴブリン。
今までの俺なら防御一辺倒になるか逃げる数。いつもなら、恐怖で足は動かず腕も重くなっているはずだ。
……遅い!
目を見開いた。
Dランクの力はここまで違う物なのかと驚いた。
ゴブリンが右爪を突き刺そうと迫ってくるがどこも隙だらけに見える。
集中し、圧縮された時間の中では止まって見えるほどに。
「……ここだ!」
右脇腹に思いっきり力を込めた拳を撃ち放つ。
メリメリっと生々しい音といつもと違う感触。深く拳がめり込んでいくようなそんな感覚だった。
ゴブリンは吐血し、凄まじい速度で後衛の1匹も巻き込んで吹っ飛んでいく。
……凄い。
これが今の俺の力なのか……。
これでも、まだ全力でないと思う。
それにさっきよりも少し身体が軽く、力がさっきよりも湧き出る感覚がした。
感じる魔力量が増えている。
何度かゴブリンを倒した経験はあるが実感するほど強くなった事はない。
しかし、その魔力は体の芯から湧き出してくるような感じはしない。
増えた魔力はただ纏っているだけで毎秒ごとに空気中に逃げていっている感じがした。
何だこれと思ったが時期にわかるはずだ。
それに目の前にはまだ、ゴブリンが4匹。
奥地には十数、数十体とまだまだいるはずだ。
このゲートをクリアした時には何かわかるはず。
それまで……
「悪いが付き合ってもらうぞ。」
***
力についてわかってきた事があった。
俺がゴブリンを攻撃、防御をすれば、正確にいうと触れていればゴブリンの魔力を吸収し、自分の魔力に変え身体能力は上昇し続けていた。
体は羽が生えたように軽く、力は化け物みたいについていく。
そして、だんだんとゴブリンの飛距離が上がり始め、一発で何体も巻き添えで倒せるようになった。
今の力ならどれくらいのランクだ?
しかし、そんな事を気にしても仕方がない。
力は一秒毎に何もしなくても減っていく。
一時的な上乗せされた力などに興味を示しても仕方がない。
「あと何体だ?」
40体を倒したところで数えるのはやめた。
隅に置いてあるリュックはゴブリンから取り出した魔石で収まり切らない量になっている。
どれくらいの時間が経ったかはわからない。
だが、そのゴブリンの連戦も終わりが見えてきていた。
一回で襲いかかってくる量が最大で20体だったのが3、4体まで落ち着きを見せているがそれが示している理由もうすぐ、このゲートの最奥ということだ。
わずかにボスの魔力を感じられている。
ボスは恐らく通常よりも図体のでかくなったゴブリン、ホブゴブリンだろう。
「力が全部逃げる前に倒さないと。」
ここまでゴブリンを倒しまくって付けた力。
蓄積し続けたこの力を一気に解放したらどれほどの威力になるのだろうか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます