第7話
恐怖と魔力が逃げていく焦燥感をそれを目の前にして感じた。
目の前の緑色の巨人はそれらを一瞬で感じさせるだけの威圧感と魔力を放っていた。
そのゴブリンから感じられる魔力は通常のゴブリンの比にならない。
体も一回りも二回りも大きい。
Fランクゲート。
E級ハンター10名。
D級なら5名なら簡単にクリアできると言われている。
簡単というのは最も死の危険が少ないという事。
だが、俺は今1人でこのゲートに入れる最低基準だ。
ならなぜ、俺の出撃を許可されたのか。
理由はボスには絶対に挑まないと思われているからだ。
いくら最低ランクのゲートだがボスの強さは一度でもボス戦を経験した者になら一つ頭が抜けた強さだと知っている。
誰だって、命は惜しい。
上原さんが足早に帰ったのはいち早くこのゲートへの出撃の準備をするため。
俺に求められているのはボスまでの道を作るための雑魚狩りのはずだ。
それを表立って言わない理由はハンター協会がボス狩り専門業者と思われたくないから。
ボス狩り専門なんて最低な奴らがやる事だ。
しかし、国もゲートが出現した時から財源の確保に躍起になっているから仕方がない事なのかもしれない。
でも、俺が倒す。
国には悪いけど、この身につけた力を試す一番の機会を渡すわけにはいかない。
それに、俺はD級ハンターで終わるわけはいかない。
目指すべき場所は、A級以上の強さだ。
一瞬でも気を抜けばおそらく死ぬ。
逃げていく魔力が一定以下になればボスにはまず勝てない。
決めるなら速攻。
「グルルゥゥ…!」
これまでの笑い声とは別の声。
怒りを滲ませたうめき声をゴブリン達は発する。今にも地面を蹴り出そうとジリジリと地面を鳴らす。
取り巻きが4体。
その4体も通常のゴブリンよりも強い魔力を感じる。
アイツらを倒しつつ魔力を貯めるほどの余裕があるかどうかが今回俺が攻略できるかの一つの壁になる。
ゴブリン達は今までの奴等と違い、すぐに襲ってこず身構えている。
隙を与えてくれなかった。
あっちはボスを倒されなければ勝ちのなのだから当然の作戦だ。
ならばこちらはボスを倒せば勝ちであるのも道理。
しかし、取り巻きを倒さずにボスを倒す事は不可能。
ダンッ!という音が洞窟内で響く。
急加速する身体。
これまでの通常のゴブリン達はこれだけの速度を出せば対応できずにいたがボスの取り巻きだけあってカウンターするために腕を振り上げ、向かってくる。
しかし、それすらも今の俺には怯える対象にはならなくなっていた。
このゲートに入って何十体もゴブリンを狩ったことによる勝ち癖による確固たる自信。
感じていた魔力よりもずっと行動は遅い。
振り上げる速度、踏み込むタイミング、何もかもがスローモーションみたいに遅く、時間が圧縮されていく。
周りがよく見える。
カウンター後に全員で襲撃するつもりなのだろう。
ボスも含めた全員が狙われた一体に注視し、地面を蹴るのが見えた。
左に2体。
右に1。
目の前のゴブリンの背後にボス。
全員の位置とモーションを頭に入れ、目の前のゴブリンのカウンターを回避して拳で腹めがけて一撃をくりだす。
そのゴブリンは紫色の血を撒き散らせて吹っ飛び、ボスにぶつかり、衝撃でよろめいた。
その一瞬、その時間を使って残りの取り巻き三体を手早く倒さなければならないと思った。
それが、こいつらの僅かな隙だ。
初めに左側の2体。
右拳を突いた体勢。
拳での迎撃は無理だ。
なら!
腰を大きく捻った右足での回し蹴り。
雷閃にも似た速度の蹴りが一体目の顔面にめり込み、首の骨、顔面の骨を砕いた感触を足に伝える。
そして、そのまま振り抜き、2体目の脇腹に入った。
筋肉と内臓が骨が潰れ、砕ける音。
手応えで間違いなく、2体同時に迎撃は成功したはずだ。
しかし、安堵の息を吐いている暇はなかった。残りの右の1体が迫ってくる気配。
視界の片隅でそれを捉えた。
体制は立て直す前にゴブリンの攻撃の方がコンマ1秒速い。
突きつけられる黒く霞む爪。
肉と骨が軋む音がして、顔面に当たるギリギリで爪が止まる。
左手でゴブリンの右手首を掴むことができた。
そのまま、ゴブリンの身体を引き寄せて、右手で顔面に一発。
爆竹が弾けたかのような音とともにゴブリンの顔面が弾け飛び、体は宙を舞った。
高まる魔力と強靭になっていく体を感じながら大きく息を吸い、一瞬も力が抜けないよう歯を食い縛り息を止める。
思考を意識をボスの全てに傾ける。
視野は一点ではなくボスの全体図を捉えた。
そして、そのボスは体にのしかかってきたゴブリンを払い除け、立ち上がったところだった。
完全に臨戦態勢を整えるまでには後コンマ数秒残っていた。
無傷でゲートをクリアするための絶対に無駄にできない一瞬。
溜め込んだ魔力を全て拳に集める。
密度の高い魔力は青い光を発する。
拳は青い光を浴びて、炎のように渦巻いた。
魔力は辺りの空気を押し退ける。
「うおおおおお!!!」
ホブゴブリンの懐に潜り込む。
あまりに凄まじい魔力の圧力。
それに、気圧されてホブゴブリンの表情が歪む。
恐怖を感じるのか焦りで出た大振りはどうしようもなく遅く姿勢を下げただけで頭上を通りすぎ、地面を砕いた。
地面を踏み込み、腹に目がけた溜め込んだ全ての魔力を込めた渾身の一撃。
これまで以上の凄まじい威力のはずだ。
「ふっ!!」
魔力の本流と凄まじい衝撃でゲート内部が激しく振動する。
その衝撃にホブゴブリンの肉体では吸収し切る事がでぎず身体は腹から背にかけ穴が開き、血飛沫すらも背中から吹き出した。
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