第1話
ゲートはSからFランクと7つに部類され、ハンターも同じように7つにランク分けされており、このゲートは最も簡単なFランクだ。
そして、この場にはFランクゲートをクリアするには十分な10人のハンター。
「……とっとと終わらせましょう。」
「ああ、そうだな。
このメンツでFランクのゲート失敗なんかしたら私の顔に傷がついてしまう。」
「それ以上、道門さんのシワが増えないよう、頑張りますよ。」
「……まったく。
おしゃべりはここまでだ。」
最前線でボスを前にたわいない話をする道門とレイドのメンバー。
その余裕は自信の表れだろう。
だがなぜ、こんな会話をしている間もあの騎士は動かない。
普通のモンスターなら即座に襲いかかってくるはずだ。
自らの城に入り込んだ侵入者を倒す為に。
ただ、あのモンスターはただ鋭い眼差しで俺達を凝視するだけで動かない。
なんだか、胸がざわつく。
しかし、俺がそんなことを思っている間に足手まといの俺と回復役の日和さんとその護衛を置いて、8人が騎士に向けて走る。
「魔法で援護を頼む!!」
その声が響くと瞬時に炎の球が騎士に向けて二つ放たれる。
「避けた所を狙い打て!!」
そして、近接タイプのハンター6人が3人に分かれて左右からの挟み撃ち。
騎士の前方には火炎。
左右にはハンター。
逃げ場はない。
「……え。」
しかし、注視していた次の騎士の行動に全員の足が止まった。
轟音を立てて、爆発するはずの火球が音もなく空気と一体になっていく。
魔法の失敗?
……いや、違う。
騎士の片手からオレンジ色の塵が舞う。
握り潰した!
騎士の手から溢れる火の粉を見てそれを認識した。
『Fランクのモンスターどうやって?』
そう思った時、俺の視界から騎士は姿を消した。
「……キャッ…」
わずかに響いた悲鳴。
次に視界に入った時、騎士から数十メートルは離れていた後衛の魔法系ハンターの側にいた。
「エッ……--。」
日和さんが声を漏らした。
漏らした理由は分かりきっていた。
血が舞ったからだ。
剣を横薙ぎ振ったのだろう。
血が床に扇状に染みている。
魔法使い二人の頭部がゆっくりと氷の床にゴトッと音を立てて滑り落ちた。
あまりに一瞬だった。
俺が最低のFランクだからそう見えたのか……。
しかし、その考えも周りの人の顔色を見ればそれは違う事だとわかった。
全員、何が起こったのか理解ができていないと青ざめた表情をしていた。
「全員!距離を取れ!!」
静まり返り掛けた空気を道門さんが震わせた。
その声に我に帰れていない人も反射的に騎士から距離を置いた。
「なんだ今のは!?」
「Fランクのゲートじゃないのかよ!」
周りから戸惑いの声が出始める。
人間の生存本能がボスに対する緊張の糸を切ろうとしているのを感じた。
今すぐこの場から騎士から視線を逸らして背を向けて、逃げろと本能が叫ぶ。
「皆んな!扉に向けて走れ!!
このゲートはFなんかじゃない!!
走れ!!」
道門さんも瞬時にこのゲートが最低ランクのものではないと判断し、撤退の命令を出す。
「日和さん!霜崎くん!
扉を開けるんだ!!」
急いで振り返り扉に手を伸ばした。
しかし、背筋に悪寒が走った。
何かしないと。
そう思った時には日和さんを突き飛ばしていた。
バンッ!!
そんな背後から岩が盛大に砕ける音がした。
振り返った瞬間だった。
体がバラバラになりそうな衝撃が走る。
「はぁ、はぁ……。」
騎士の剣が俺の腹を射抜いていた。
背後の石床にも深々と刺さる程の一撃で。
痛みはなかった。
アドレナリンが大量に出ているからだろう。
しかし、段々と腹の感覚が戻りだす。
痛みでようやく自分が刺されたのだと自覚した。
痛い、痛い痛い……
騎士が俺の腹から刃を引き抜く。
引き抜かれる時間は一瞬だったはずだ。
しかし、俺には途轍もなく長い時間に感じた。
刃が1ミリ動くたびに俺の皮膚を肉を内蔵さえも切り刻み、抉り出される感覚。
Fランクという、なまじ生命力だけはあるせいで痛みで意識を飛ばせずに苦痛にもがく。
燃えるような、目眩がするほどの痛み。
息をすれば口から血が滴り、腹からも絶えず血の雫がポタポタと音を鳴らして青白い氷の床を赤く染めていく。
だが、それでも本能がすぐに騎士から距離を置こうと体を走らせようとするも足を出すが激しい痛みと血に濡れた地面に足を滑らせて崩れ落ちた。
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