ZEROの霊章

安太郎

プロローグ 

第0話

F級ハンター霜崎晶しもざき しょう

位置付けられたランクは底辺も底辺。

普通の人より毛が生えた程度の強さ。

俺の扱える魔法は少し強くなれるだけの弱すぎる身体強化魔法。


そんな魔法を何処で扱うのか。

それは光る石が視界を照らし、怪物が徘徊する穴の中の世界、俺が立っているゲートの中で戦うための力だ。


ボロボロの血の滲んだジャージ。

危ない世界に身一つでここにいる。

武器は持っていない。

とんでもなく高価で手を出せないかった。


「なんで、ハンターなんてやってるんですか?」


栗色の髪の色をした女の人が質問しながら俺の傷口に手を置いた。

そして、青い光が傷口を包み込む。

その光は暖かく、少しずつ痛みが和らいで傷が塞がっていった。

その光を眺めて自分がなんで、ハンターをやっているのかと思った。


ハンターをやる理由はお金、名誉、地位と色々挙げる事はできる。

それでも、死と隣り合わせの世界。


昔、俺の住む地域でゲートが破られ、モンスターが出てきてしまったことがあった。

その時の俺はあるハンターに命を救われた。

意識は朦朧としていた。

でも覚えている。

その掠れた景色の中、救ってくれたその人影にどうしようもなく憧れた。

なりたかった。

人を救える人に。

しかし、現実は甘くはなっかた。


「ハンターにこだわる理由があるんですか?」


とても、冷ややかな目を向けられていた。


高校卒業して2年も経っているんだ。

まともに働きたくない人だと思われている。

当然だ。結果が伴っていないから。


だから、俺は苦笑いするしかなかった。

それを見て女の人は溜息をつく。


「すいません、日和さん。」


「勘弁してください。

でも、応援はしてますよ!」


しかし、そんな俺にも笑顔を見せてくれる。

夢のためと言ってもこの人なら決して馬鹿にしないだろうけど、どこか恥ずかしくて言えずにいた。


日和さんが立ち上がるとモンスターにやられた傷は無くなっていた。


「はい! 頑張ります!」

しかし、このゲートも終盤だ。

残るはこのゲートの主とその取り巻きだが、ただの雑魚ですら俺にとっての強敵であるのに主と取り巻きに俺が敵うのか……。


「おーい、こっちにボスの部屋らしい場所が見つかったってよ!!」


洞窟の暗がりから響く声。

見つかったダンジョンの最奥へと足を運ぶ。


「霜崎君。」


不意にこのレイドのリーダーに当たる人、道門さんが話しかけてきた。

年齢は五十歳くらいの男の人だ。


「ボス戦中はなるべく後方にいてくれ。

万が一、レイドメンバーが危険な状態になった時、救助を呼ぶためにな。

その万が一の時にレイド全員の命が君に掛かっている、よろしく頼むぞ。」


「……はい、任せてください!」


気を使って言ってくれてはいるが俺が足手纏いで、ただ守られる側の人間なのだとヒシヒシと感じてしまう。

常に後衛ですぐに逃げる役などモンスターと戦えず、お金も稼げないから誰もやりたがらない役割。

だから、一番弱い俺がやるのは必然的なことだった。

俺ならもっと出来る。そう思いたいがそんなのはただの思い上がりだ。

自分の弱さは一番理解している。

理解出来てしまうからこそ悔しくて堪らなかった。


そんな感情を抱きながらも歩みを進めていくと、だんだんと気温が下がり始めるのを感じた。そして、目の前に大きな扉が立ち塞がる。


「はぁ……--」

体が震えていた。

気づいた時、冷え切った空気で息は白さを帯びていた。


「あんな扉があるダンジョンって私は初めて見ました。」


これまで何度となくダンジョンに入ったが建造物らしいものがある置いてあるダンジョンは始めてだ。


「開きそうか?」


「ああ、見た目より簡単に開く。」


道門さんがその扉に手をかけると重々しい音とともにゆっくりと開き始める。

すると、扉に押し込められていた冷気が凄まじい勢いで外気に漏れ出す。

扉越しに感じていた寒さとは比べ物にならない冷気。

視界が白い霧に包まれるが段々と晴れ、その部屋の全貌が見え始める。


「おお……」

周りから声が上がった。

部屋の中は一面銀世界という言葉が似合う程の氷の世界が広がっていたからだ。

しかし、中にいるはずのモノが見当たらない。


「ボスが……いない?」


扉越しに伝わっていた威圧感は間違いなくダンジョンのボスのものだった。

しかし、いざ中を見ると部屋の中央に銀世界に似つかわしくない灰色の大きな石があるだけだった。


「全員、警戒しろよ。」


道門さんはそう全員に声をかけ、中に入り中央の灰色の石に向けて歩みを進める。


「なんだ、この石は?」


その石に触れてみるが何も起きない。

他のメンバーもその石をまじまじと見つめていた。

大きな円形の台座の上で浮遊する大きな灰色の石。


「あのここに何か書いてありますよ。」


日和さんが台座を指刺した。

その場の全員がそこに集まり視線を送る。

霜で白く濁った文字。

日和さんが霜を拭き取ると文章が浮かぶ。


【その身が罪人でない事を示せ】

【王に力を示せ】

【王の出現をもって終幕とする】


そこに書いてある刻まれた三文。

なんのことだと思いながら淡々と読み上げる。


「なあ、みんなこの文字が読めるか……。」


「なぜか、読めます……。」


周りから戸惑いの声が上がった。

俺はそれが疑問で仕方がなかったがもう一度読み返してようやくわかった。


逆になんで、読めた……。


見たことのない文字だった。

少なくとも日本語ではない。


ドンッ!!


もう一度読み終わった時だった。

大きな音を立てて扉が閉まる。

周りから、驚きの声と少しの悲鳴が上がった。


「なんだ!?」

「閉じ込められた!?」


「霜崎さん!! あれ!!」


俺が扉に気を取られている時、日和さんは全く違う場所を見ていた。

部屋の最奥に蠢く何かがいた。

氷を砕き、その下にある石の床を削る音。

その右手に持つ身の丈ほどの大きな剣を持った身長は3メートルはあるだろう騎士のような格好をしたモンスターがそこにいた。


「アレがボスなのか?」

「やばいんじゃ……!」


モンスターの見た目の重厚感と威圧感から臆した声がハンター達から漏れる。


「大丈夫だ、皆んな落ち着け!

このダンジョンは一番難易度の低いことを忘れたか?」


道門はリーダーらしくたった1人、臆する事なく前に出て皆を鼓舞するかのように剣を抜く。


「全員、構えろ!!

狩りの時間だ!」

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