あの世?

暗い。冷たい。固い。痛い。

死んだのか。薄いブランケットに包まれている。緑色の床の上。ベッドの上ではない。病院ではない。キレイではないが広い部屋。身体が重い。足がふらつくが、この世界で私は生きている。這ってドアまで行く。開かない。ドアのガラス越しに若い色白の男性がこちらを見つめる。私服の男性は階段に座って、哀れそうにこちらを見る。目があって私が背けた。自分の身の回りを確認する。持ち物は全てない。服は着ているが上着はない。靴もベルトも抜かれている。身体は死んだように冷え切っている。ここは何処だろう。声も出してみる。呂律が回らない。


色々していたところで扉が開き、スーツ姿の大人たちが3人ほど入ってきた。さっきの若い人ではない。40歳くらいの背の低い男性がそこに立っていた。

私はかすれる声で尋ねた

「ここは何処…ですか」

大人は話しかける。

「身体は大丈夫かな。ここは〇〇警察署。あなたを保護しました。」

ここはじゃあ留置場みたいなところなのか。ショックを受けたが、一方で変に納得もした。お似合いかもね。

「私は飛び降りたんじゃ」

「危ないところだったよ。免許証から身元がわかったのであなたの家族に電話しました。もうすぐ来るはずです。」

「…」

床に顔を伏せてしまった。またしても迷惑をかけてしまった。後悔の念でいっぱいになってしまった。

警察のおじさんはニコッと笑って

「お酒もタバコもちょっと早いんじゃないかな」と。

私は泣いて謝った。

「ご迷惑お掛けして、申し訳ございません」

年齢不相応の謝罪文句なやや驚いたような顔を見せた。

「まぁ、いいよ。そう命を無駄にするもんじゃない。取り敢えず出ておいで。所持品の確認をするから。」

と狭い廊下の黒いベンチに誘導された。私の持ち物はバットのようなものに並べられている。警察官がこれは貴方のかと、いちいちチェックする。USBメモリが出てきた。こっ恥ずかしい遺書だけは読まれていないといいと思っていた。間違いなく受け取りましたというサインをした。黒い指紋も取られた。


そんなことをしているうちに母が来た。

「ゆう、大丈夫?」

としきりに確認して、その後に振り返って警察官に何度も頭を下げた。ご迷惑をおかけしました。何も話せないまま車に乗り込んだ。黙ったまま家に帰った。

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