サデュザーグ

藤田桜

Prologue

第一話


 世の中はサデュザーグとかいう化け物のせいで緊急事態宣言やら意識不明が何万人やらとおかしくなってしまったというのに学校生活はまた再開されてみんな文化祭に向かってせわしなくしているので僕もその通り動かなければならず、ひさしく訪れていなかった病室のベッドの上には長いこと外に出ていなかったからかすっかり白皙になってしまった幼なじみが眠っているのだけれど、産毛が生えたままの頬に口づければくすぐったくて仕方ない。


「リク君」


 話しかけても答えが返ってくるはずがないのは分かっているもののまるで真っ白な部屋に一人だけ取り残されたような心持ちがしてつい彼の病衣に縋ってしまうのは僕の弱さか。


「僕は、君を奪ったあの化け物を許さないよ」


 憎悪をこめて呟いたけれど僕みたいな一般人では政府が主導になっても捕まえられないようなサデュザーグをどうこうできるはずもなく、窓辺から射す光がすっかり橙色になるまでその寝顔を見つめている他なかった。


「また、来るね。ばいばい」


 もうこんな時間かと驚きながらずっと椅子に座っていたせいで鈍くいたむ腰を上げて通学鞄を右肩に帰り始めたはいいものの電車に揺られているうちに空は紫に染まっていき、もう今日は家に着いても何もできなさそうだなと溜め息を吐く。

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