第3話

 さとくもたくましきげんようけんとおえのりょくあまかけきゃくりょくゆうする。

 ――ほんとうなのだろうか、とアルタイルはあたまいためていた。

 ほしまつりからはんとしぎ、ベガもげんようけんらしい、おおかみのようなふうぼうちかづきつつある。

 からだこそじゅん調ちょうそだっているが、なやみのたねは、こころのほうだった。

ろよベガ、まれたばかりのおまえをつつこうとしたげんようからすだぞ」

 アルタイルはゆきもるたちうしろから、じゅっぐらいはなれたはんかわいたす。

 さきけずっただけのじりこうには、大人おとなふとももほどはあろう、むさぼるくちばしのようせいはくひょうをついばんでいた。

 そこは西にしりんかんにただひとつしかない、ようせいたちのいこいのみずなのである。

いまのおまえたら、きっとあいつ、びっくりしてみずをのどにつまらせるぞ? あいつより、ふたまわりもおおきくなったんだからな」

 アルタイルは、となりすわらせたげんようけんくびすじをぽんとたたく。

 そのたいにはこたえられそうもない、とわんばかりに、ベガはあるじしょうねんにまなざしをおくった。

「こんなりぐらいで、いつまでこわがるんだよ……」

 わかいうちはあるじにならい、じゅうじゅんなるままにじゃあくのことごとくへといどみかかる。

 ねんたぬうちにせいじゅくすれば、つがいになるべくてんまでのぼり、くるとしにてあらたないのちとす。

 げんようけんほんらいかたである。

 ところが、ベガはまれつきおくびょうだった。

 あまえたがりでもあり、いまもアルタイルのひざにべったりくっついて、しきようせいたたかうためのくんれんにまったくはいっていない。

 こんな調ちょうで、いちぞくにんげん、とりわけどうねんだいのアーミンやルースターたちをかえしてやれるのか、アルタイルがなやむのはからぬはなしだろう。

「ベガ、つよくならなきゃだめなんだぞ」

「くぅん、くん」

「ベガ! けってば!」

 アルタイルはじれったくなって、たちかわがめくれたところにげんこつをぶつけた。

 さすが、じゅれいひゃくじゅうねんといったところか。

 たりをされたたちのほうは、ものわりにはりのようなえだらして、たくさんのゆきをアルタイルにらせた。

 あたまやせ、というねんちょうしゃからのいましめである。


 せつめぐり、はるわりにさしかかったころだ。

「またげんようぎつねかされたな! ばんけんもできないのか!?」

 とうとうばくはつしてしまった。

 アルタイルはたなばたくにのトマトばたけで、あたまごなしにベガをしかりつける。

 べつはたけでクワをるっていたひゃくしょうむすのデボンが、うるさいぞ、やくたずどもはあっちけ、とってもおかまいなしだった。

おれはひとりでもつよくなったんだ。ベガもおれのようになれよ!」

「アルのそだかたわるいだけじゃん」デボンがへらへらする。「おやなし! ! おまえみたいなのにいぬかいびとはできっこないのさ」

 そのとき、アルタイルのおでこにあおすじった。

「……わかった。ベガ、しっかりまなんでくれよ」

 きょとんとするげんようけんしりに、しょうねんげる。

つよくなるほんせてやる」

「あっ、こら! とうちゃんが育ててるトマトをかっにもぎりゃっ!?」

 まだみどりいろつトマトがいきおいよくげられ、デボンのけんでぱんとはじける。

 はんにんはほかのだれでもない、アルタイルだった。

「な……なにするんだよ! にしみるじゃん!」

「おまえだって、めんどうがらずにこわれたさくなおしておくべきだったんだ! さいどろぼうはあそこからげてったぞ!」

「そ、そういうだいごとは、とうちゃんがやることじゃん」

げんようぎゅうはらどころか、のろまなところまでおなじなんだな!」

 このわるぐちにはデボンもまんならず、もうおこったぞ、とつくったばかりのうねにかってだんんだ。

 おりしくも、かれはクワをっていた。

 大人おとなになりきれていないしょうねんどうあとさきなんてすこしもにしていなかったのである。

「アル!! このぉ!!」

 はたけごとをかなぐりててて、デボンがずかずかアルタイルにせまる。

 そのままひらべったいれんてつをめいっぱいかかげ、おだやかなしをさえぎって、アルタイルのかおのてっぺんからまたあいだにまでかげばす。

 ――クワのをつかんでめて、それからきついいっぱつをおいしてやろう。

 アルタイルはからだじゅうちからめたが、しかし、はんげきするかいおとずれなかった。

 ベガがあるじわきけ、ひかりはやさでデボンにびかかったからである。

 デボンはなさけないかなごえをあげて、なかからたおれる。

 こしけたあいおおいかぶさり、わんわんたけるベガのこえが、姿すがたが、はじめてあかるみにしめされた。

 まるで、ぶんからやぶったような、ひとかわむけたかのようだった。

 たなばたくにに、あらたなあばれんぼうきばをむきはじめたのも、このときである。

「……いいぞ! かえしてやれ!」

 アルタイルはげきばす。

 おもわくどおりとはいかなかったが、ぶん辿たどったみちをまざまざせられているここになって、この調ちょうならつよくなれる、とりゅういんげていたのである。

 そうして、げんようけんおうごんひとみは、こうふんまっていた。

 ごとにあるじこととどかなくなり、いさんでけんをするようになった。

 あいまってアルタイルをつめたくあつかっていたので、とうほんにんはなかなかめたがらない。

 むしろ、ベガにとってのくんれんだ、やられるのはごうとくじゃないか、とたけだかだった。

 さいむかえるぎわつきに、ベガがいなくなるまでは。

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