第4話

 ひらり、とおき。

 たなばたくにのおいかりだ。

かえらぬものしきものにんげんようせいへだてなし』

 ただいちぶんが、ベガのすえあんしていた。

 ほうっておけば、いぬかいびとつらよごしである。うにも、るにも、こまるだろう。

 だから、アルタイルはほうぼうをやった。

 あさゆうなにけずりまわり、あきれもわすれ、いつしかこおりにしりもちをつく。

 ほうてのくびきもえず、ふうふうかじかむじゅうさいしょうねんは、ひとりだった。

「……ベガ。おまえ、どこにいるんだよ……?」

 アルタイルはゆみつえわりにして、たなばたくにかわこうにそびえるふゆうずやまさがす。

 あいにくのてんだった。よいのしるべとなろうつきほしは、げんようねずみさながらのくらくもでほとんどかくれている。

 あおじろしゃめんすべかぜつぶったゆきせ、アルタイルのかたほおをすこともあった。

 あゆみはしきりにまってしまうが、かえしはしない。

 もうと、ベガにえなくなりそうながしていたから。

とおえがこえたのは、このあたりのはずなんだ」

 はんときほどまえのことである。

 やまおろしのとどろきをけるように、それはうっすらとどいてきた。

 きっとベガがいたんだ、ゆきあなかぜとおったって、ああはるもんか、とあるじしょうねんしんじてうたがわない。

 そのひたむきなおもいが、ぐうぜんぐうぜんをつないでせきとなった。

 ふと、かぜよわまり、ゆきぐもれ、アルタイルの彼方かなたつきかりへととどかせる。

 ぎんにきらめくながあしに、きんにつやめくするどいまなこのげんようけんを、まがうことはなかった。

 アルタイルはさけぶ。草鞋わらじのかかとでゆきばしながら、ひたはしった。

 ようやくつけたベガのもくぜんに、せいじんよりおおきくなったかのじょゆううわまわる、げんようひぐまのようなくろきょたいがあったからだ。

とうみんしててもいいころなのに……!」

 アルタイルはこししたき、すぐさまゆみにつがえる。

「けだものめ、おれろ! がらなきゃってやるぞ!」

 そうげるも、なおきつりつしてベガをすえていたため、アルタイルはくろきょたいよこがおめがけてかためたゆみいた。

 ちょくうずやまがびゅうとく。

 はなたれたよこなぐりのかぜにやられ、くろきょたいまえれてしまった。

 ここでくろきょたいが、んできたほうにあたまける。

 アルタイルはいっしょちゅうれたのだとさっするや、いまのうちだ、げろ、とベガにびかけた。

 こえつたわっている。にもかかわらず、げんようけんあるじしょうねんしたがようはなかった。

 あおじろしゃめんあしり、はなづらげてうなるばかりである。

「どうしてげない!? かないっこないだろう!?」

 そううったえるアルタイルに、そうごえでベガはこたえた。

 アルタイルはいきみ、はっと、おさなかったます。

 ――そういえば、してくれたもりやくも、おなじだった。

 ひるまず、おくさず、てきなにものだろうとげたりしない。

 その姿すがたつづけて、あこがれて、ああなりたい、とねがい、づけばもりやくまえていた。

「……おまえも、そうなりたかったんだな……」

 ベガはつよくなりたいいっしんで、やまごもりにてっしていた。

 アルタイルのたいそむいたわけでは、なかったのである。

「いいぞ、ベガ!」いぬかいびとけっしんする。「いっしょたたかおう! いっしょに、つよくなろう!」

 かれことうれしくて、げんようけんはにっときばをのぞかせた。

 りょうしゃきずなかいいまくろきょたいにけだものらしくゆうはなくなっていた。

「……つよさのたんきゅう。それが、おまえたちのえにしというわけか」

「わっ、こいつ、しゃべったぞ!?」

とうぜんこと使つかいもしよう。われこくおうであるぞ」

 くろきょたいおごそかにほうとなえる。すると、ひるあざむひかりつつまれ、みるみるからだしろくなっていった。

 そうして、ゆきしたかくしてあったかぼちゃのかんむりあたまにかぶり、げんようしろくまのミルキーウェイななせいほんとう姿すがたあらわす。

 アルタイルとベガがおどろいたのは、うまでもない。

 ともにしょたいめんだったからである。

「こ、こくおうさまなんかが、どうしてこんなやまに!?」

にすがりつくげんようけんは、おうおうにしてよくぶかようせいとなる。えなくなるまえに、だれかがまつせねばならんのだ」

「つまり、おれのところからはなれたベガを、こくおうさまが……?」

 おそおそるたずねるアルタイルに、ミルキーウェイななせいはうなずいた。

「だが、アルタイルよ。おまえまつするというのなら、さきほどのかくめんじてまかせよう」

まつだなんて、そんなこと……」

「けじめをつけねば、かえれぬぞ。いぬかいびととして、いちぞくにんげんみとめられたいのではなかったのか?」

 ミルキーウェイななせいわれ、しばし、アルタイルとベガはつめう。

 たがいのひとみおくそこに、れぬおもいをそれぞれかんじとっていた。

「……かえりません」

 やがて、アルタイルはそっとゆみおさめる。

いぬかいびととして、まずはベガにみとめてもらわないと」

 ほこたかだった。

 ミルキーウェイななせいむねたれ、そうか、とことずくなにものおもう。

「……ゆきも、かぜも、とうにやんでおる。つきかりを辿たどってゆけば、とおからず、ひとれぬもりのぞめよう」

ひとれぬもり、か。あばれんぼうにはちょうどいいや」

 アルタイルはベガにうながされるままに、ぎんなかへとまたがる。

「さようなら、こくおうさま

ぞくちょうにはわれくちからつたえておこう。ゆくがよい」

 ミルキーウェイななせいは、うずやまちょうじょうす。

「……行ってきます」

 あるじしょうねんがおじぎしたのをはからって、ベガはおもいきりゆきり、くもっていった。

 ろせば、たなばたくにじょうけいあり。

 けれど、ひとりといっぴきは、ぎょうてんほしつづけていた。

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