ダークエルフ、ルーン(14) ボナス、グレイス

43、戦のあと


「イリス!」

「あ、ハル姉」

 戦のあと。

 警備兵詰め所の一室にて。

 ハルモニアーが、ベットの上のイリスのところにやってきた。

「あんた大丈夫? 落っこちたて聞いたえ」

「うん。落っこちて気絶してしもた」

 赤い肌のイリス。上半身起こして、ベットに座っとった。姉が伸ばしてくる手をにぎる。

「そやに、大丈夫え。治療師さまに『安静にしとけ』て言われたから、座っとるだけ」

「よかった・・・」

 ハルモニアーは妹の手を両手で包み、さすった。

「立とうとしたら、怒られてしもうた」

「あかん。安静言われたら、そうしとき」

「はーい。

 そえ、言われたとおりにしとって、よかったわ」

「なにがえ?」

「窮屈でもヨロイ着けとけて」

「あー、ルーンさんやったかに。言うてくれたの」

「ヨロイ着てへんかったら、背骨危なかった言われたえ」

 イリス。

 サイドテーブルに置いてある革ヨロイを指して、けろっと言う。

「ああもう・・・」

 ハルモニアーは自分よりでっかい妹をぺたぺた撫でた。

 髪を撫で、肩を撫で、腕を撫でて、ため息。

「・・・ルーンさんにお礼言わなアカンに」

「ほんまや。いまなら表に居るかな」

 イリス立ち上がる。ハルモニアー引き止める。

「アカンて!」

「あ、そうか」

「もう、イリスの阿呆。お姉ちゃんここ居るから、寝とき」

「あほちゃうもん」

 イリス、文句言いつつベットに潜り込む。

 ハルモニアー、革ヨロイをちょっと横に寄せ、竪琴を置く。

 部屋を見る。

 静かな部屋であった。

 向こうのほうで、空警の隊長が1人治療を受けておるのみ。

 表は勝利の大騒ぎ中だが、その喧騒も、やわらかい。

「・・・ええ部屋に入れてもろたみたいやに?」

「・・・運んでくれた人が、巨人の国のお偉いさんやった由」

「巨人の国て、」ハルモニアーは声を抑えた。「・・・父上の?」

「うん。外務大臣さん」

「へえー。兄者に助けられたわけやに」

「兄者?」

「巨人の国の外務大臣いうたら、たしか、父上の六男え。

 そやに、私らのお母さんちがいの兄者いうことえ」

「あ、そうか」

「イリス、あんた気付いてへんかったん?」

「・・・うん」

「阿呆」

「あほちゃうもん」

「あ、イリス居った」

 入り口のドアが開かれ、長姉のルシーナが入ってきた。

 ルシーナ。淡い金髪はすっかりほこりまみれだが、なおその美貌は輝かしい。

 胸に小っちゃい妙雅みたいなやつ(オクトラです!)抱いて、ベットのとこに来た。

「生きとるかに?」

「うん」

 イリス、ベットの中から返事。起きようとしてハルモニアーに押さえ込まれる。「寝とき」

「はー・・・。死んだか思うて、ぞっとしたえ」

「私も死んだ思うたえ」

「2人とも、やめて。恐ろしい」ハルモニアーが怒った。「大丈夫やけど、安静て言われたらしいえ」

 ルシーナうなずく。「寝とき」

「ひま。なんか食べたい」

「寝とき」姉2人、イリスを押さえつける。

 ここで、空警の隊長がこっち歩いてきた。

 隊長。3人を見て、軽く会釈する。「どうも。お加減はいかがですか」

「あ、フォームラー隊長」ルシーナがおじぎ。「どうやら、大丈夫みたいですえ」

「それはよかった。

 きしにぃ号のお嬢さんがた、ここを出てゆかれるときには、連絡先を残して頂けますか?」

「えーと、まだ宿を決めておりませぬ。決まったら、連絡いたします」

「ぜひそうしてください。フォームラー隊長に頼まれたと。

 それでは、お邪魔いたしました」

 フォームラー隊長、出てった。

「なんで連絡先いるんやろ?」とイリス。

「褒美やと思うえ」とルシーナ。「ボレアスのおっちゃん、活躍したし」

「あの人誰やろ?」

「さー?」

「ふつうやないよね」

「うん」

「誰?」とハルモニアー。

「ごっつい強いおっさん。きしにぃに一緒に乗った」とイリス。

「あー・・・あの、ハイエルフの。子供みたいな男のひと?」

「うん。子供にしか見えへんけど、土石人形出すわ、祝詞は唱えるわで」

「イリス落ちたあと、飛び降りてアシと斬り結んだりもしておったえ」

「うそやん」

「ほんまえ。あなおっさん、素人ちゃうえ。歴戦兵にちがいなし」

<・・・あ、その件で、ちょっとよろしいですか?>

 ルシーナの胸元でオクトラが小声でしゃべった。

「うん。なに?」「あ、妙雅」「妙雅居ったんや」

<はい。あんまりしゃべらないようにしてるんですけどね。いま、誰もいませんし>

 フォームラー隊長の退出後、治療師も出てったので、いまは三姉妹だけである。

<三の姫を守ってくださったその御方に、伝言をお願いしたいのです>

「なんて?」

<巨人の国の外務大臣が、ぜひ、お会いしたいと申しております、と>


44、ボレアスの、しょうたい


 があああ。

 正八角形した平たい虫みたいなのが、金属の柱を駆け上ってゆく。

 虫みたいなやつ。背中には大砲、お腹には車輪がついており、そのお腹の車輪で金属の柱を挟むがごとくして、垂直に駆け上ってゆくのである。

 金属の柱は頭上でカーブして、天頂方向、およそ8尋(14.4m)ほどの高さで、円形の梁に繋がっておる。

 虫みたいなやつはそこまで行って、止まった。

 ぎーん。ぎーん。音を立てて、首を振る。

<いかがです?>

 と、妙雅が自信ありげに言うた。

<この防空曲線路射撃ユニットは>


 ここは、空中に浮かぶ妙雅の、中央甲板。

 8基の浮遊塔を外郭に浮かべた、いつもの妙雅の堂々たる姿である。

 ただ、以前とちょっと変わっとるところあり。

 それが『防空曲線路』であった。

 ひとことで言えば、骨組みだけのドームである。

 金属の柱が8本、ドームを構成しておるが、壁もなければ天井もない。ホネだけである。

 その骨組みにあたる金属の柱を、正八角系した虫みたいなやつ──射撃ユニットが、があああ、があああ・・・と、上下に走るわけである。柱8本に合わせ、射撃ユニットもちゃんと8台あった。

 それを見守るのは、大きな鬼と、小さな鬼と、2人のコボルド。

「射撃ユニット・・・ということは、あれが弾を撃つわけか?」

 と、大きな鬼が言うた。

<そうです。2種類の弾を使い分けて、迎撃をする。

 もって、上空から侵入しようとする不埒者をぶっ飛ばすわけです>

「・・・その不埒者とは、私のことか?」


 大きな鬼。誰あろう、鬼神である。

 兄妹げんかで妙雅をぶっ壊しかけて以来、久しぶりの乗船であった。


<他に誰が?>

 ギロリ。

 凶悪なツラした虫みたいなやつが、鬼神を睨み上げてきよる。

 建築ユニット。射撃ユニットとそっくりの身体して、ひとつ目と6本足備えとる歩行型の作業ユニットである。常に凶悪な表情をしておるが、これは妙雅のセンスがちょっと変なだけである。怒っとるわけではない。

<他に誰が、この妙雅の大切な甲板に穴を開けると言うのです?>

「・・・おまえ、私を撃ち殺そうとして、これを造ったのか?」

<おじちゃんこのぐらいで死なないですよね?>

「まあ、死なんが」

<まあね。真面目な話をしますとね?

 私は、おじちゃんが落ちてくるのに対処もできず、いいようにぶっ壊された。

 『天空大臣』などと名乗っておりながら、あの体たらく。

 思い上がっておったと、反省したわけですよ>

「いや、あれは、私もやりすぎた。すまんかった」

<その話はもうなし>

「おまえが始めたんだろうが」

<許してやると言うとるんじゃ! 蒸し返すんじゃないわ!>

「おまえ一度も許すと言うとらんだろうが! それに、蒸し返したのはそっちじゃ!」

 兄妹げんかはじまる。

 すると、小さな鬼が「まあまあ」と2人をなだめてきた。

 小さな鬼。堂々たる鬼の若者であった。背丈もハイエルフの2倍ぐらいある。ただ、鬼神にくらべれば、子供みたいに小さい。

「まあまあ父上。

 妙雅は立派な女ですよ。

 負けたこと、恨むのではなく、改善につなげたのだから」

「・・・そうだな。見事じゃ」

 があああ。があああ。

 射撃ユニット、上下に走り回る。

「面白いのう」

<でしょう? 試作品だったのですが、使えそうだったので、そのまま実装しました>

「うむ。柱に沿って走るというのが、空飛ぶ台とはちがった面白さがあるわい」

<そうでしょうそうでしょう>

 があああ。妙雅は射撃ユニットを上下させた。

「これ、掴んだら、上まで上がれるかのう」鬼神、手を伸ばす。

<やめんか! こわれる!>妙雅、あわてる。

 建築ユニット、がばあと鬼神の足にしがみつく。

 射撃ユニット、天頂方向へ逃げてゆく。

「冗談じゃ」

 鬼神は足にへばりついた建築ユニットを撫でた。

 ぱちくり。建築ユニット、凶悪なひとつ目を閉じたり開いたりする。

「・・・ま、なんだ。見違えたわい」

 鬼神。

 鬼の若者に向き直った。

「礼鬼(れいぎ)よ。おまえもな」

 鬼の若者。

 鬼神の六男、礼鬼(れいぎ)。巨人の国の外務大臣であった。

 赤きトゲトゲの服を着て、背後に2人のコボルドを従えた姿、じつに、大臣っぽい。

「イリスを助けてくれたそうだな」

「いえ、私は運び込んだだけです。

 『私の親戚なのでどうかよろしく』とは言いましたが、その程度です」

「そうか。うむ。

 その、なんだ・・・みな、元気にしとるか?」

「みな元気にやっております。母上も」

「そ、そうか」


 鬼神が巨人の国を出て、はや、1年以上。

 愛人つくり、娘でき、月で泳いだりして、ずいぶんはしゃいだ。

 その間、国にはいちども戻らず、手紙も出さず、伝言もせず。

 ・・・気まずいなんてもんではなかった。


「あー、いや、なんじゃ。あれじゃ。

 そうそう! おまえ、立派になったのう。見違えたぞ」

「ありがとうございます」

 礼鬼は、いかつい顔をちょっとうれしそうにした。

 取ってつけたみたいな鬼神の言い方であったが、『立派になったな』の部分には真心を感じたんである。

「いやあ、しかし、兄者には怒られてばっかりですぞ」

「元鬼(げんき)か。あいつはかしこいからな! 私でも敵わんわい」

「ははは。ま、国王陛下が甘くては、みな、たるみますからね。厳しいほうが、ありがたい」

「そうか・・・」

 鬼神、感心してうなずく。

 で、妙雅の外側を見る。

 8基ある外郭塔のひとつに、闇の球あり。

 真っ昼間だというのに、まったく見通すことのできぬ完全なる暗黒。うずくまっておる。

「・・・エスロ博士も、お元気かな?」

<はい。おかげさまで>

 エスロ博士の声が、建築ユニットから聞こえた。

 建築ユニット、頭に黒い球をくっつけておる。この黒い球に緑の光がキラキラと流れると、エスロ博士の声が聞こえてくる。

 『会話球(かいわだま)』。離れた相手と通信できる魔術の球であった。

<久しぶりだというのに、こんなですみません>

「わっはっは。かえって懐かしいけれどもな」

<いやはや。この『闇』を出すのも、久しぶりです>

<──ご歓談中のところ、失礼いたします>

 今度は、妙雅の声がした。

<閣下。先方と連絡がつきました>

「おお。それで?」と礼鬼。

<『ただの無職のおっさんですが、それでもよろしければ、喜んで』とのこと>

「それはよかった」

 礼鬼、鬼神のほうを見た。

「父上」

「なんじゃ?」と鬼神。「人払いしたいなら、私は、飛び降りようか?」

<たまには安全な降り方を試してみられてはいかがです? 神さま>

「私を落っことしたおまえが言うんじゃないわ」

「ははは。いや、逆でして。いまからお客さまをお迎えしますが、一緒にいかがですか? と」

「ふむ? かまわんが、誰じゃ?」

「ボナス閣下。エスロ博士の、お師匠さまです」


 待つことしばし。

 丘の街のほうから、ガンメタ鬼神台が飛んできた。

 鬼神、礼鬼、立って迎える。外郭塔の闇の玉もフラッと動いた。たぶん、その闇の主が立ったのであろう。

 ガンメタ鬼神台、中央甲板に着陸。

 4人の人物が、降りてきた。


 2人は、鬼神の娘である。ルシーナとハルモニアー。

 ルシーナ、「父上」と鬼神に抱き着いた。離れた。「くさっ」

「いきなり何を抜かすのだ」

「父上、川で暴れて、水浴びしとらんに? くさいえ」

「おまえだって、川くさいぞ」

「女にくさい言うな。阿呆」

「ハルモニアーも無事か? イリスはどうなのだ?」

「はい。イリスは安静と言われて、寝ておりますえ」

「おい! それは、大丈夫なのか!?」

「大丈夫ですえ。大声出しなえ」とルシーナ。「アカンかったら真っ先に言いますえ」

「そ、そうか」


 3人目は、ダークエルフのルーン嬢であった。

 泥にまみれた革ヨロイ姿のままで、めっちゃ恐縮しておる。

「あの・・・おひさしぶりです、鬼神さま。お、お、お招きにあずかり・・・あのぅ」

「おお、ルーンお嬢さん。大変だったらしいのう。

 妙雅から、ちょっとだけ聞いてはおるのだが」

「妙雅いうのは、これえ」ルシーナがオクトラ見せて説明した。

<いやそれ本体じゃないですからね?>と建築ユニット。

「はあ・・・」ルーン嬢、ちんぷんかんぷんである。


 4人目は、ハイエルフの少年(?)であった。

 自称おっさん。人形師、ボレアスである。

「お初にお目にかかります。鬼神さま。礼鬼閣下」

 おじぎ。

「ボナスと申しまする。

 『荒風寺院(あらかぜじいん)』の先代族長、また、魔術大学の学長をしておった者でございます」

「え」

 ルシーナが跳び上がった。

「ボレアスと言うておったに?」

「うむ。あれは、若い頃のあだな」

 ボレアスあらため、ボナス。

 ルシーナに向き直って、説明した。

「お嬢さん方が仮名のようでしたので、私もあだなを名乗りましたのえ」

<いまでもそう呼ばれますに>

 建築ユニットから、エスロ博士の声がした。

<荒風のボレアスといえば、ルーン魔術師のあいだでは有名ですえ。

 メチャクチャな暴れん坊魔術師として、知られておりまする>

「こりゃエスロ。真面目なあいさつのときに何を抜かす」

「あー・・・」

 ルシーナ、半歩下がった。

「偉い御方やったに。私とイリス、おっさんおっさん言うてしもた。すみませぬ」

「なに。事実、おっさんゆえ、かまいませぬ」

「魔術大学はどうなさったのじゃ?」と鬼神。

「辞めました」

「なんでじゃ?」

「弟子どもが分裂し、無実の者に死刑判決を出した。このこと、責任を取って、辞めました」

「責任だと?」

 鬼神はじーっとボナス閣下を見た。

 いや、睨んだ。

「学長辞めた程度で、釣り合うと思っとるのか?」


45、鬼神、おこる


「・・・。」ボナス閣下、固まる。

「父上」礼鬼が口を挟んだ。

「いや。言わせてくれ」

 鬼神。

 見るからに怒った顔して、強引に礼鬼を黙らせる。

「なんとか助かったからええようなもんの、博士はあやうく殺されるところであった。

 学長辞めただと? そんなもん、生命と釣り合うか。ばかめ!」


 鬼神が持ち出したのは、エスロ博士が無実の罪で死刑にされかかった件。

 鬼神が、武力でもって強引に博士を救出した、過去の大問題であった。

 2章の『空飛ぶルーン魔術師(前)(後)』で、お話をいたしましたね。


「私たちは、生命の危険を冒して、博士を救い出した。

 私の長男次男は大怪我をした。

 相棒の鬼神台なんぞ、もうちょっとで死ぬところであった!

 そなたはどうだ? そなたは何をしたのだ」

「なにも」

 とボナス閣下。

「エスロの容疑について話を聞かせてくれと言われ、私は愚かにも誘い出された。

 知らぬあいだにエスロの裁判が行われ、死刑判決がされ・・・。

 『尋問』が終わったときには、大監獄が鬼神さまに破られた後でした」

「ぬけぬけと!」

 鬼神はいらいらした。

 その怒りの表情だけで、ルーン嬢やハルモニアーは足に震えが来るほど。ガンメタ鬼神台が2人を支えた。

「なにが英雄魔術師じゃ! 弟子も救えん、腰抜け! 間抜けめが!」

「父上!」

「黙っとれ!」

「いいや黙らぬ! 私が招待したお客さまに、侮辱は許しませぬ!」

 礼鬼は鬼神の恐ろしい気配にも負けずに言い返した。

 が、ボナス閣下が頭を下げ、折れた。

「いえ。閣下。鬼神さまのおっしゃる通りですえ。

 私には、学長として、研究員のエスロを守る義務があった。

 先代族長として、部族の若者を守る義務があった。

 そやに、私は、物事を甘く見ておった」

<学長。私はあなたのせいだとは思いませぬ>とエスロ博士。

「いやちがう。これは権限と責任の問題やえ。

 私には、力があった。大学長としての権限、前族長としての影響力があったのえ。

 エスロに対する悪評を打ち消すこと、私の力をもってすれば、できたはず。

 それをせなんだ。この責任、罪は、私にある」

 ボナス閣下。

 エスロ博士の方向を見た。

 闇の球。じーっとしておる。

「エスロよ。そなたの死刑判決は、不当である。『緑の魔術の国』の大誤審である。

 そなたは空飛ぶ台をこの世に生み出した。本来、勲章を受けるべき人物である。

 このこと、私は抗議したが、通らなんだ。私の力不足を許してもらいたい」

<閣下・・・>エスロ博士が返答に詰まる。

「ふん」

 鬼神は鼻を鳴らした。

「謝るなら初めからそうせんか。言われてからするんじゃないわ」

<・・・。>

 建築ユニットがジトーッとした目で鬼神を睨んだ。

 鬼神、ちょっと動揺した。なんせ、捨ててきた妻には一度も謝っておらん鬼神である。

「・・・ま、まあ、なんじゃ。私が言いたいことは、これで全部じゃ」

「いえ、父上。それでは不当ですえ」

 ルシーナが口を開いた。

「なんだと?」

「ボレアス・・・ボナス閣下は、イリスの生命の恩人ですに。

 父上からも、感謝を述べて頂きたい」

「ぬ・・・こいつに、感謝しろだと?」

「不要ですえ」とボナス閣下。「戦において、友軍が助け合うは当然」

「いえ。イリスがきしにぃから落っこちたとき、閣下は──」


「──なんだと!」

 説明を聞いた鬼神。

 しばし複雑な表情をするが、ボナス閣下に頭を下げた。

「ありがとう。恩人よ。イリスは私の大切な娘じゃ。

 そうとも知らず、一方的に怒鳴りつけてしもうた。すまぬ」

「いや。こちらこそ、目が覚めましたえ」

「いやいや、こちらこそ」

「いやいやいや」

 鬼神とボナス閣下。

 しばらく、まるで睨み合うがごとく、互いの顔をじっと見た。

 そして。

 鬼神。ニカッ。

 ボナス閣下、ニヤリ。

 2人、笑顔となり、手を差し出して、握手した!

「鬼神じゃ」

「ボナスですえ」

 互いに改めて名乗り、固く握手する。

「エスロ博士には、本当にお世話になった。 

 まこと、よい人物を、巨人の国に紹介してくれた」

「こちらこそ。

 弟子にまたとない機会、正当なる評価をくださった。

 感謝の言葉もございませぬ」

 わっはっは。

 2人、外郭の闇の球を見て、笑う。

「さてと」

 鬼神は息子に頭を下げ、下がった。

「外務大臣閣下。勝手をして、すまんかった」

「はい。

 ──ようこそ、ボナス閣下。巨人の国、空軍旗艦、妙雅へ」

「礼鬼閣下。お会いできて光栄でございまする」

 礼鬼とボナス閣下は、互いの国の内情について、情報交換を始めた。

 どうやらこれは、非公式な外交のようである。

 鬼神は2人から離れた。

 ルシーナ、ハルモニアー、ルーン嬢の3人を手招きする。

「博士がひとりぼっちになっておる。話をしようではないか」

「あ、あの、私は・・・」

 ルーン嬢は居心地悪そう。

 その肩を、ルシーナががばっと抱いた。

「ルーンは、私の友だちえ」

「えっ?」とルーン嬢。

「自分の国をなくして、なんとかしようと頑張っておる。私はそこに惚れたえ。アカンかに?」

「い、いや、アカンっちゅうことはないけど」

「なら友だちえ」ルシーナ強引である。

「娘は、地球には友だちが居らんのだ」と鬼神。「良ければ、仲良くしてやってくれい」

「は・・・はい・・・!」

「父上がそんなこと言うたら、断れんようになりますえ」とハルモニアー。

「む。それもそうか。ま、ともかくだ。博士のところへ行くぞ」


46、グレイスの、しょうたい


 ガンメタ鬼神台、娘どもを乗せて、浮かぶ。

 鬼神、乗るスペースがないので、ぶら下がる。

 闇の球に向けて、ふわっと飛ぶ。


「博士。いま、そちらに降りるぞ」

「どうぞ。こちらは『生命探索』で見ておりまする」

 ガンメタ鬼神台、降下。

「あ痛」鬼神落ちる。「つま先ぶつけた」

 本当になんも見えんので、着地するだけでもこんなことになる。

 そんな鬼神の側に、誰かがすとんと着地した。

「うん? ルシーナか?」

「そですえ」

「おまえ・・・なんじゃ? 周り、見えとるのか?」

「見えませぬ。そやに、状況はわかりますえ」

「なんじゃそれは」

「私もわかりますえ」とハルモニアー。「父上はここ」タッチしてきた。

「あの・・・」とルーン嬢。「お二人、ダークエルフ・・・ではないですよね?」

「ちゃうえ。なんでかに?」

「いや、ダークエルフなら、周りがわかるのは当然かなと思うて」

「ルーンお嬢さんもわかるのか?」

「はい」

「ああ」とエスロ博士。「ダークエルフは、目を使わずとも周囲が見えるらしいですに」

「ほう? そうなのか」

「はい」とルーン嬢。「距離というか・・・どの方向、どのぐらいの距離に、何かがある、ぐらいはわかります」

「なんとまあ!」

 鬼神は関心してから、思い出した。

「・・・そう言えば、母上もそうだったな。見た目はハイエルフみたいだのに。忘れとったわ」

「月はいっつも明るかったですからに」とルシーナ。

「父上のいらっしゃるところは明るく保つように、母上が言うておられましたのえ」とハルモニアー。

「そうだったのか」

「・・・あの、月とは?」とルーン嬢。

「月の宮殿」

「え!? 月の女神さまの宮殿のこと?」

「うん。私ら、そこの竹で育ったのえ」

「た・・・ええええ!?」

「なんじゃ。言うとらんかったのか」

「うん。着いたら戦になっておって、話する暇もありませんでしたえ」

「え? 月て。・・・え? うそやん」

 ルーン嬢が混乱しとる声がする。

「ハイエルフみたいな姿で、月の宮殿にお住まいて・・・

 え? うそやん。あの御方しかおらへんやん」

「わかった?」

「う・・・うん・・・」ルーン嬢びびる。「ダークエルフをお守りくださる、女神さま・・・」

「当たりー」

「先に言うて・・・」ルーン嬢が崩れ落ちる音がした。「それ・・・ルシーナもハルも、女神さまやん・・・」

「そんなに気にせんでもええぞ」と鬼神。

「無理です・・・」


 ルシーナが戦のことを報告し、崩れ落ちたルーン嬢も、開き直ったか、乱戦の経験を話した。

 鬼神も、ジャブジャブをどうしたか、娘どもに教えてやった。


「魔剣が出たが、へし折って捨ててやったわい」

「もったいな」とルシーナ。

「ジャブジャブですか」エスロ博士が感慨深そうに言うた。「私が、あばら折られた相手かもしれませんに」

「そうなのか?」

「はい。おそらく。『荒風寺院』が討伐に失敗し、取り逃がしたドラゴンではないかと」

「ジャブジャブめ、しぶといやつだな」

「ボナス閣下はえらいお強いですに」とルシーナ。

「ええ。それはもう、恐ろしいおっさんですえ」と博士。

「きしにぃさまもすごかったですよ」

 ルーン嬢はガンメタ鬼神台を褒めた。

「最初に飛んできてくれたときは、夢か思いました。

 乱戦のあいだも、ずーっと見てましたもん。頼りがいあった」

 ぶわっさ! ガンメタ鬼神台、デレる。

「気付いてた」とルシーナ。「こっち見てたん」

「私ら、目合うたもんね」

「うん」

「この一族はみんな優秀だからな。

 あ、そう言えば、エスロ台は近くに居るのか?」

 ぶわっさ。

 ガンメタ鬼神台より高い声が応答した。鬼神の背後のほうである。

「おお。そこか」

 鬼神、手探りで近付こうとする。

 ぶわっさぶわっさ!

「なんじゃ?」

<万が一にも落っこちんように、フチで待機しています。近付かないで! だそうです>

 ルシーナの胸元のオクトラがしゃべった。

「なんじゃ」鬼神止まる。「ひさしぶりだし、撫でようと思うたのに」

 ぶわっさぶわっさ・・・ぶわっさ。

「なんじゃ。その微妙な反応は。

 ・・・あ、そうか。手が汚れとるからか」

 鬼神、手を目の前にかざす。全然見えん。

 ぶわっさ。

「手を洗ってくれと? ごもっとも」

「あの川、えらいくさいに」とルシーナ。「手紙もグチョグチョなってしもたえ」

「あそこ排水口やから」とルーン嬢。

「そえ。父上。きしにぃがね」とハルモニアー。「ルーンさん助けようとして──」

 ぶわっさぶわっさぁ! ガンメタ鬼神台、慌てて止める。

「なんじゃ? 相棒が焦っておる」

 ぶわっさぶわっさ・・・ぶわっさ・・・ぶわっさ・・・。

「ははあ。さてはおまえ、ルーンお嬢さんが心配で、むちゃをしたな?」

 ぶわっさ!?

 みんな笑うた。

「博士が突っ込んできたときも、びっくりしましたえ」とルシーナ。

「あれは、私の相棒が突っ込みまして。迎撃されそうになり、慌てて『闇』を・・・」

<『三の姫が落っこちた』と、きしにぃが伝えてきましてね。

 エス子母ちゃんが即断即決で突っ込んだのです>

 ぶわっさ。

「なるほど。この母にして、この鬼神台ありじゃ」

「まことそうですに」

「ダークエルフ外人兵は、この闇で、めっちゃ助かったんですよ。

 みんな『救いの闇や』言うて、喜んでアシを押し返してました」

「おお! 役にも立っておりましたか!」エスロ博士喜ぶ。

「ルーンのとこ、正門から水門までずっと激戦やったからに。

 上から見とって、ほんま心配やったえ」

「そうなん?」

「いちばん敵多いとこにぶつかっておった」

「・・・知っとったら、逃げたかも知れんわ」

「大変だったのう」

「いえ。この剣のおかげで・・・」

 ルーン嬢はここでちょっと迷った。

「・・・あの、鬼神さま。じつは私、秘密にしとったことがあって」

「うん?」

「じつは、私の剣──しゃべるんです」


 しゃらり・・・。

 優雅なる鞘走りの音がした。

 すると、なんとしたことか! 

 オレンジ色の輝き! 『闇』のルーンのただ中に、ほとばしる!


「あれ? 見える」とルシーナ。

「『闇』のルーンをしりぞけておる」とエスロ博士。「もしや・・・ルーンのはたらき?」

「いかにも」

 オレンジの剣から、声がした。

「「剣がしゃべった!」え!」鬼神とルシーナが叫ぶ。

 しゃべる剣。

 自信たっぷりに、自己紹介した。

「我が名はグレイス。

 我が母、太陽の女神より、『断つ』のルーンを授けられたもの。

 そのはたらき、ありとあらゆるものを真っ二つにする。『闇』といえども、例外でなし」

「・・・え?」とルーン嬢。「ルーン持っとったん?」

「うむ」

「初耳やねんけど」

「秘密にしておったからに」

「太陽の女神が、母上ですか」とエスロ博士。「で、銘はグレイスと」

<神剣“グレイス”──ですね>

「いかにも。

 我は剣。我は神。

 太陽の女神の長女グレイス、ここにあり」


 なんと、しゃべる剣のグレイスは、剣の女神であった!


「今日の戦ではだいぶ目立ってしもうた」とグレイス。「そろそろルーンにも味方が必要と思うておったゆえ、ちょうどよかったえ」

「・・・。」

 ルーン嬢、応答なし。

 いまの話で一番ショック受けとるのは、持ち主の彼女であった。

「・・・あれ?」とルシーナ。「ということは、私らの従姉やに?」

「そやに。グレイスの姉者。よろしゅう」とハルモニアー。

「うむ。ルシーナ、ハルモニアー。イリスにもよろしゅう」

「神剣か」と鬼神。「生きた剣とはな」

「はい。初対面のおりには隠れておってすみませぬ。鬼神さま」

「いやかまわぬ。私は、他人の秘密はそっとしとく主義なのだ」

「寛大なお言葉。そやに、鬼神台殿には見抜かれまして」

 ぶわっさ。

<私ら、『生命探索』しますからね。なんか生きてるなあとは思ってました>

「うむ」とエスロ博士。「魔術師には気付かれておるでしょうに」

「うそやん・・・」

 ルーン嬢、いまごろ崩れ落ちた。

「グレイスも・・・女神さまやったんや・・・」

「ルーンは神さま引き寄せておる」ルシーナ、笑う。「めでたい才能やえ」

「いや・・・まさか、女神さまやとは・・・めっちゃ頼りにして、甘えてしもて・・・」

「それはお互いさまえ。私も、地下に落っこちて身動き取れぬところやった。

 『グレイス』と名付けられたときは、こやつ気付いておるのかと、びっくりしたえ」

「全然・・・

 こ・・・今後は、お供え物するね」

「いらぬ。というか、すな。叔母上に『信者取った』言われるに」

「叔母さん?」

「月の女神は、我が母上の妹君やに」

「あ、そうか」

「姉者」

「なにえ。ルシーナ」

「姉者は、ふだんは太陽のあたりに居られると、母から聞いた覚えがありますに、なんで地球に?」

「・・・え。いや、そ、それは」グレイスどもる。「ちょっとその、下界が気になって、」

「気になって、降りて来られたのですかに?」

「いや・・・その・・・覗いておったら、すべって、落っこちた」

「姉者はイリスか」


47、鬼神とお月さん、小川にて


「父上ぇー!」礼鬼の声がした。「閣下が、そろそろお戻りになられるとのことでー!」

「おう! いま行く! 博士。では、またな」

「はい。せっかくのときに真っ暗にしてしもうて、すみませぬ」

 みんな笑うた。


 中央甲板へ戻る。

「ボナス閣下。相棒に送らせよう」

「あいや、話がありますゆえ、エスロに頼みまする」

<真っ暗闇でよろしければ、喜んで>

「いつまで出しておる。とっとと消さんか」

<お伝えしましたに。一度出すと、消せませぬ>

「阿呆! 使うなら消す方法も見つけておけ!」

<ごもっとも>

「・・・こわ」とルシーナ。

「おまえたち、宿は決まったのか?」と鬼神。

「全然」

「あ、ほんなら、宿紹介しましょか? 私が初めて来たときお世話になったとこ。よそ者にも親切にしてくれるから」

「ルーン、ありがとう。たのむえ」

「父上はどないしますのえ? きしにぃ返すとき・・・」

「む。そうだな。どうするか」

<オクトラをお伴させましょう。連絡もつきますし、きしにぃと合流もできます>

「おう。助かるわい。では、オクトラ引っ掴んで落ちるとするか」

<掴まんでええわ! 飛べるっちゅうんじゃ!>

「合流と言えば・・・父上。母上はいずこに?」とハルモニアー。

「わからん。どっかそのへんに居るはずだが、隠れてしもうてのう」

 ルーン嬢がちょっと青ざめておる。

 彼女からしたら、月の女神は、まさに神さまの中の神さまである。毎日のように祈っとる相手なんである。

 そんなルーン嬢の肩に。

 ルシーナ、にっこりと、手を回す。

「ひっ・・・ル、ルシーナさま、なにか?」

「さまはなし」

「は、はい・・・ルシーナ」


 ガンメタ鬼神台、丘の街へもどる。

 闇の球も、丘の街へもどる。

 鬼神、オクトラを引っ掴んで飛び降り──ようとしたが、かわされた。<おっと、そうは行かない>

 オクトラ、鬼神の魔手を逃れ、先に降りてゆく。

「ちっ、かわされたか。

 ──おーい、お月さんや! 降りるぞう!

 そこらへんに飛び降りるから、居るならどいてくれい」

「いやいや父上!」 

 礼鬼が慌てて止める。

「そんな、万が一があるようなことはやめなされ!

 陸号に送らせますから!」

「りくごう?」

「私の相棒ですぞ。陸号! おいで」

 礼鬼の声に応じて、真っ赤なかぶとがにが飛んできた。

「・・・赤色鬼神台?」鬼神、ルシーナと同じ反応をする。

「なんでじゃ」

「改造したんか」

「そうです。『鬼神台兄者みたいになりたい』と言いましてね。

 成人したら、かぶとがに型になってよしと、こう決まったわけです」

「おお・・・!」

 ぶわっさ!

 陸号(りくごう)。元気良くあいさつ。鬼神の足元へ着地。

 ぶわっさ、ぶわっさ! 気合満タン。ジャンプジャンプ!

「わっはっは。そうかそうか。では私も、喜んで乗せてもらおう。重さは大丈夫かな?」

「巨人のお弟子さんを1人乗せたことはあります」

「なら大丈夫だな」

 鬼神はそーっと乗って、胡座をかいて座り、手すりを持った。

「では、陸号よ。たのむ」

 ぶわっさ!

 陸号、ぐいっ・・・と力強く浮かび上がる。

 『力』のルーンを持つ巨大型のガンメタ鬼神台とは比較にならんが、十分に確かな上昇感覚であった。

「おお。これは頼もしいな。いまはみんな、これか?」

「ええそうです。壱号も弐号も、そんな感じですよ」

「ありがとうな。おまえたちには心配もかけ、腹も立ったであろうに、妹を助けてくれて」

「うむ。父上には言いたいことがたくさんありますが」

「うぐっ」

「妹に罪はありませんからね。イリスは、見た目も我々に似てますし」

「・・・うむ。ではな」

「気をつけてゆかれよ。たまには手紙ぐらい書くんですぞ!」

 どっちが父親だかわからん。

「やれやれ。まったく、手強くなりおって!」


 陸号。暮れゆく陽光に赤いボディを輝かせ、鬼神を地上へ送り届ける。

 鬼神。若き台をねぎらって優しく撫で、送り返した。

 ふう、とため息。

 すると、鬼神の真後ろにゆらゆらゆらと月の女神が現れた。

「・・・楽しそうやに」

「うおっ。びっくりした。・・・また水鏡か」

 鬼神、でこぴん。

 月の女神の姿、ぱっと散って消える。

 ゆらゆらゆら。もどってくる。「なにをするのえ」

「いやいや。待たせてすまぬ。あやまる。ごめんごめん。だから、姿を現わしてくれい」

「くさい。近づきとうない」

 月の女神の姿、鼻つまんでくさいくさいする。

「なんじゃまったく! すねおってからに。

 わかったわかった、水浴びするわい」

「こっちに小川があったえ」

 月の女神(の水鏡の像)がテテテと歩き出す。鬼神ついてった。

 オクトラを木の影で待たせ、服を脱いで、小川に入る。

 小川すぎて全然入らん。手ですくって身体流すしかない。

「・・・しかし、びっくりしたぞ。ルーンお嬢さんが、神の剣を持っておってな!」

「グレイスか?」

「なんじゃ? 知っておったのか」

「いや、推測。姉上に頼まれたに。

 『グレイスどっかいってもうた。見つけたら、教えてたもう』と」

「ああ。お日さん、剣がなくなって困っておるのか」

「困りはせぬ。心配しておるのえ。

 私は、ルーンが祈りで言うておったことを思い出した。

 『めっちゃ斬れる剣見つけました』『太陽の剣にちなんで、グレイスって呼んでます』と。

 はて? もしや・・・となり、湖の巫女に手紙を書かせ、ルシーナに持たせた」

「手紙はグチョグチョになったと言うておったぞ」

「あほな」

「相棒がミスしたらしい。ルーン嬢を助けようとしてのことだ。許してやってくれ」

「ふうん・・・。許す」

「おまえも上に来て、ルーン嬢に『返せ』と言えば良かったろうに」

「阿呆。ぶった斬られるえ」

「なんでじゃ?」

「グレイスは気難しい子やに。物体扱いなんぞ、もってのほか。

 ルーンはうまいこと付き合っておる」

「ああ・・・。ルシーナも、お嬢さんを気に入ったようだわい」

 ぴちゃ、ぴちゃ。

 鬼神の背後で、足音がした。

「うん?」

 振り向くと、白い裸体。

「冷たいぞ?」

「それは平気・・・」

 月の女神、素っ裸で、鬼神の背中に抱き着く。

「そんなに寂しがらんでも、どこにも行かんぞ」

「そんな者は居らぬ」

「うん?」

「いつまでも一緒に居れる者など、この世には居らぬ・・・」


※このページの修正記録


2022/11/02

「43、戦のあと」

 ヨロイを着とけとすすめた人物を間違えていたので、修正しました。

 『ハルモニアーがすすめた』みたいな話になっていましたが、正しくはルーン嬢です。作者が記憶違いしてました。

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