ダークエルフ、ルーン(12) ジャブジャブふたたび
ダークエルフ、ルーン(12) ジャブジャブふたたび
37、ジャブジャブふたたび
「うふふ。うふふ」
ウミ=ジャブジャブは上機嫌であった。
湖に横たわる黒い巨体をじゃぶじゃぶとくねらせ、金色に輝かせて。
アルフェロン湖の黒きドラゴンは、上機嫌であった。
「ハイエルフには、ずいぶん、いやな思いをさせられました。
しかし今日は、いい思いをする日です。
ハイエルフは、みーんな若くて、おいしいですからね」
ペロリ、ペロリ。
へびのごとき舌を出し入れする。
「丘の街を、攻め滅ぼして。
ペロリと食べれば、お腹いっぱい。
街には、タマを産みつけて。
私の子孫は、10万も超えるでしょう!
そうなれば、うふふ。
アルフェロン湖は、私の国。うふふ。うふふ」
三角形の、へびみたいな頭。
いかめしいトゲいっぱいのドラゴンヘッドに、ニヤリニヤリと、だらしない笑み浮かぶ。
「ああ!
我らが太母、偉大なる神竜(じんりゅう)よ!
私は成功しました! あなたの娘、ジャブジャブは!
この世でもっとも成功したウミ=ドラゴンとなった!」
ジャブジャブ。
ざぶーん、ざぶーんと波を立てて、長い図体をくねらせる。
前足でばしゃばしゃ水を叩いて、喜びを表現する。
「あの赤い大きな猿みたいなのにやられたときは、本当にみじめでしたが。
私はついに、成功──」
ジャブジャブ。
突然、真顔にもどる。
「そうでした。あの、赤い大きな猿みたいの。
ええと、き、き・・・鬼神?
そう。鬼神。あれに、そなえなくては。
好事魔多し、備えあれば憂いなし、です」
前足を浅瀬に突っ込んで、なにやら、穴を掘り始める。
ドラゴンの巨大な前足で、どろーりどろーりと、泥を掘り起こしてゆく。
何をしておるのか?
「このぐらいでしょうか?
あの鬼神が、すっぽり入るぐらいの穴は。
はい。それを、こうして。水草で隠しておきます。
はい。できました。
あとはここに、鬼神を誘い込むだけ・・・」
──それは、水中の落とし穴! はまれば死!
なんと、ジャブジャブ! ハイエルフだけでなく、鬼神まで手にかけるつもり!
恐るべしドラゴンの恨み! 鬼神あやうし!
「なるほど。底なし沼のわなというわけだな」
「そうです! あなた、なかなか、うまいことを言いますね!」
背後から、男の声。ジャブジャブ、振り向く。
そこにいたのは!
赤き猿のごとき、大男!
六腕組んで、浅瀬に立つ!
第三眼を静かに閉ざし、小っちゃな黄色い両目でもって、ウミ=ドラゴンを睨みつける!
「き、き、き・・・鬼神!!!」
「いかにも!」
六腕赤き大男!
ばっと手広げ、上の二腕で天あおぎ、中の二腕はぴたりと合わせ、下の二腕つばさのごとく羽ばたかせ!
三眼カッと見開いて! 力士らしく踏ん張って、ギロギロギロリ、黒いドラゴン睨め付ける(ねめつける)!
「六腕三眼(りくわんさんがん)、鬼の神!
ジャブジャブ! ふたたび見える(まみえる)ことになったのう!」
それは、鬼神!
ジャブジャブ、びっくり仰天!
「ひいい! い、いったい・・・いつから、そこに!」
「うふふ。のあたりからじゃ」
「初めから! い、いったい・・・どうやって? 音も立てずに、こんな近くに」
「ひみつじゃ」
鬼神。
六腕すべてこぶしをかため、ゴツン、ゴツンと打ち合わせて、凶悪な表情を浮かべた。
「そうですか・・・ひみつですか・・・」
「ひみつじゃ」
ジャブジャブ。ドラゴンヘッドに恐怖を浮かべつつ、作ったばかりの落とし穴の上を泳いで、じわじわ逃げる。
鬼神。回り込む。「踏まんぞ」
「ちぇっ」
ジャブジャブ。がっくり。
底なし沼のわな、不発である。
「・・・月の女神ですね?」
「うん?」
「お月さまの力ですね? 隠れて近付いてきたのは。
このまえ、いちゃいちゃしていましたものね」
「なに?」
鬼神、ちょっと、ひるんだ。
「いったい・・・どうやって知ったのだ?」
「ある日、大雨が降り、私はうれしくなって泥浴びをしていました」
「ああ。私が、おまえの宝玉で降らせたやつだな」と鬼神。
「泥んこになり、満足して、寝転がっていると、なにかが飛んできました」
「相棒だな」
「見ればそれは、私から獲物を横取りした、空飛ぶかぶとがに」
「横取りじゃないわ! 人助けじゃ」
「復讐せねばと思ってさらに見ると、あなたと月の女神が乗っているではありませんか。
神が2人もいては、この偉大なウミ=ジャブジャブでも、どうしようもありません。
あきらめて、泥にもぐり、素早く逃げたのです」
「おまえは本当に逃げ足だけは一流だな」
「それは否定しません。私が、死ぬ前に逃げる、かしこい竜だということは」
「くずめが」
「あなたは本当によくない気立てだ。すぐそうして暴言を吐く。
いつか思い知らせてやりますからね。その日を楽しみにしていることです。
──では、今日はこれにて、さようなら」
ジャブジャブ、逃げようとする。
鬼神、しっぽを踏んづける。
「待たんか」
「ぐええ」
「おまえは、この鬼神を殺そうとした。よって私は、反撃をせねばならぬ」
「や・・・やめてください。私はまだ、何もしていません。穴を掘っただけです」
「いいや、やめぬ。私は反撃をする。
それともうひとつ。おまえは、自分の子供に、ハイエルフを襲わせたな?
なんでそんなことをした。もう人間は襲わないと、約束したではないか」
「わ・・・私は、人間は襲っていませんよ。
私のアシどもがやったのです。私は、人間を襲っていません」
「やかましいわ。
やっぱりおまえは、かば焼きにしておくべきであったのう」
「ああ! せっかく、私の帝国ができるところだったのに!
こんなところで、猿みたいな奴に、殺されねばならないのでしょうか?」
「そこだがな」
鬼神は少し勢いをやわらげた。
「結局のところ、おまえは私を殺すのに失敗したわけだ。
それだから、私もおまえを完全には殺さずにおいてやろう」
「ほ、ほんとですか?」
「本当だ。じょうじょうしゃくりょうじゃ」
鬼神、無理して難しい言葉を言う。
「じょうじょうしゃくりょう?」
「なんか手加減することだ! そうれ!」
鬼神、説明キャンセル攻撃!
筋肉ゴツゴツのぶっとい足を、高々と上げた!
四股踏むがごとくして、水中に叩き込んだ!
「情状酌量! しっぽちょんぱの刑!」
ジャブジャブのしっぽを、ドッシーンと踏んづける!
『力』のルーン発動!
黒くてヌメヌメした巨大なしっぽ、ぶっつりと、ちょん切った!
「ぎゃああああ」
ジャブジャブ、びったんびったん荒れ狂う!
ざんぶざんぶと大波蹴立て、右に左に、うねり狂う!
鬼神! ちょん切ったしっぽを、ジャブジャブが掘っとった落とし穴に突っ込んだ!
「これでどうだ! 人喰いドラゴンめ!」
「ぎゃああ。ぎゃああ。鬼! 暴れ神!」
ウミ=ジャブジャブ、泣きわめきながら、逃げてった。
後には、その巨体が蹴立てた、もんのすごい波が残った。
その大波、なんと、川をさかのぼり、丘の街まで到達した。
戦の最中の水門にばしゃーんと当たり、アシどもハイエルフども、いったんなんぞ? と驚いたという。
ま、鬼神はなんともありませんがね。大波にばっしゃんばっしゃん体当たりされたぐらいで、鋼のごとき身体、『力』のルーンの所有者が、どうにかなるわけがないのだ。
「ふん」
鬼神。ずぶ濡れ。鼻息も荒し。
その耳元で、女の声がした。
「・・・もうええかに?」
「うむ」
「では元にもどすか。『隠蔽(いんぺい)』のルーン! 私の隠蔽も、おしまい」
鬼神の肩の上に、ゆらゆらゆらと、ハイエルフの女が現れた。
「助かったぞ。お月さんよ。おかげで話が早く済んだ」
「なに。吾が妻のためなれば」
鬼神と、月神。
アシ軍団の突然の侵略、その元凶は、ウミ=ジャブジャブであろうと、探しておったのだ。
そして、浅瀬でうれしそうにクネクネしとるドラゴンを発見。
月神の『隠蔽』のルーンで隠れて、接近したというわけである。
「で、なんで水鏡なのだ?」
鬼神は女神の腰のあたりをぽんと叩いた。
ぱっ! 月神の姿が、粉々になって消えた。
ゆらゆらゆら。元にもどった。
「・・・なにをするのえ。せっかく、位置合わせて座ったに」
「なんで私と話すのに水鏡の術を使うのだ」
「ジャブジャブは油断ならぬ。念のためえ」
「ははあ。なるほど」
「それに、私がそなたの肩に座っておるのを見るのは、なかなか楽しいものえ」
「変な趣味だな」
「うるさいえ」
「まあええが。おまえが楽しいのなら」
「楽しいえ。──にしても、こっぴどく痛めつけたに?」と月の女神。「しっぽ、ちょん切れておる」
「うむ」鬼神、うなずく。「ジャブジャブふたたび負けるの巻じゃ!」
38、ハイエルフ、はんげきす
「さて。こいつのしっぽだが・・・なんか、気持ち悪いな。溶けておる」
鬼神は水に突き刺したしっぽを見る。
なんと不思議!
ジャブジャブのしっぽ。トロトロと溶けて、水に混ざっていきおる。
「そやに。ドラゴンとは、エレメント。ジャブジャブは、水のエレメントたる竜。
死んだしっぽは、水にもどるということかに? 私にも、ようわからぬ」
しっぽ。
完全に溶けて、なくなった。
後にはひと振りの剣が残った。
鬼神、湖に突き刺さったその剣を抜く。
それは、射干玉(ぬばたま)のごとき、真っ黒な剣であった──
それは、竜の魔剣がひと振り!
人斬れば息ができなくなって死ぬ! 火を斬ればいかな猛火であろうと消え失せる!
恐るべき窒息の魔剣! その名も、ジャジャブレード!
「いらんわこんなもん」
鬼神、ぺきんと剣をへし折った。
ぽいっと穴に投げ入れて、上から泥をかぶせて、ばしゃんばしゃんと踏みつける。
「あれあれ」月の女神、笑う。
いまでも、アルフェロン湖にはこの窒息の魔剣が埋まっておるのだそうですよ。ですが掘り出そうなどとして水に潜ってはいけないのです。なんでといって、魔剣の力で息ができなくなって、死んでしまっては大変ですからね。
「さてと。ジャブジャブのやつはこらしめたが。
問題はアシだな」
「そやに。あとは、丘の街次第やえ」
「──現在、水門の右翼側にある正門に、敵軍が展開中。
水門が落とせなんだゆえ、二手に分かれて、正門から攻め込む様子」
丘の街。警備兵詰め所。
フォームラー隊長が、100人あまりの部隊を前に、任務を説明しておった。
空警の魔術師2班6名(隊長含む)。小剣と盾で武装した正規歩兵16名。弓を持つ狩人の義勇兵12名。そして、従軍経験者や外人兵などの選抜義勇兵が60名ほどである。
混成エリート部隊、といったところである。
その真ん中に、ガンメタ鬼神台のまあるい巨体も、存在した。
ルシーナとイリスと、そしてルーン嬢が、その巨体に腰掛けておる。
「一緒になりましたに」と輝く肌のルシーナ。
「ほんまに」ルーン嬢、ガンメタ鬼神台を撫でる。「心強いわあ」
ぺたんぺたん。ガンメタ鬼神台、しっぽで返答。
人形師のボレアス(自称おっさん)も、ガンメタ鬼神台の隣に立っておる。
さらに、太陽神殿の司祭ハナも、すぐそばに立っておった。ガンメタ鬼神台に同乗する予定なんである。
「──我らは、正門の敵部隊を叩き、駆逐する!
これは防衛ではない。
反撃作戦である!」
「は!」「おう!」「やってやるえ」「いてまうえ!」「アシを蹴散らすえ!」「おー!」「おー!」「とかげステーキ!」
「とかげ食べるん?」とイリス。
「みたいやね」とルーン嬢。「おいしいらしいんよ。鳥肉っぽいんやって」
「へえー。食べてみたい」とイリス。
「ええ・・・?」とルシーナ。
「きしにぃ号のお嬢さんがた。盾です」
補給員がやってきて、ルシーナとイリスに金属製の盾を渡した。
頑丈で重たい盾である。イリスは平気な顔してひょいと持ったが、ルシーナはだるそうにしておる。
「ほな、また後で」ルーン嬢が立ち上がり、ガンメタ鬼神台から離れた。
「またねー」
「がんばって、きしにぃ!」
ぶわっさ!
「きしにぃめろめろやに」ルシーナがガンメタ鬼神台に乗る。巨体に盾あずけるようにしてかまえる。
次いで、人形師のボレアス。太陽神殿の司祭ハナ。この2人は盾なし。
最後に力持ちのイリスが乗って、3人が落っこちんよう手すり掴み、盾でボレアスとハナを守る。
「──よし。飛行兵、離陸!」
空警の空飛ぶ魔術師どもが地面を蹴って、宙に浮いた。
今回は歩兵との共同作戦ゆえ、ハイエルフの頭に当たらん程度の低空飛行である。
ガンメタ鬼神台もふわ~んと優しく浮かび上がり、ぴたりと静止した。
義勇兵どよめく。「おお」「浮いた」「空飛ぶフライパン」「あな巨体して、スムーズなり」
「右翼攻撃隊、出陣!」
まずは空警隊員2人が先行する。偵察要員である。
その後ろにガンメタ鬼神台と、フォームラー隊長ら魔術兵4人が続く。この部隊の火力を担う、空飛ぶ砲兵であった。
空飛ぶ砲兵の左右を、正規兵が隊列組んでついてくる。最後についてくるのは義勇兵である。
「・・・人、増えたに」とルシーナ。
振り向いて見れば、警備兵詰め所はいまや、義勇兵でおしくらまんじゅう状態であった。
広い庭からもはみ出して、あちこちで編成が行われておる。それが市内のあちこちへ出発してゆく。
「義勇兵第七班! 市内丘側のアシを駆逐する!」「おー!」「おー!」
「義勇兵第八班! 市内湖側のアシを駆逐する!」「おー!」
「・・・千人ぐらい居るかに?」とイリス。
「まだまだ増えますえ」太陽神殿の司祭ハナが応じた。「7千は集まるはず」
「そんなに?」イリスは誰にでも質問をする。「ここ、どのぐらい人住んでるん?」
「街の周辺含め、1万ちょいというところでしょうかに」とハナ。
「1万しか人居らんのに義勇兵が7千も出るん?」
「ハイエルフは歳を取りませんからに」
「?」
「100歳でも200歳でも、石投げるぐらいはできますえ」
「あー・・・」ルシーナがうなずいた。「そうか。子供以外は、みな走り回れるし、石も投げれるわけやに」
「そういうことですに」
「なら、防衛成功まちがいなしやね!」とイリス。
「・・・そやに」司祭は言葉に詰まった。「ところで、この・・・きしにぃ号?」
「きしにぃがどうしたん?」とイリス。
「乗り心地いいですに!」ハナ、ほほえむ。「ふわふわと、まるで、雲に乗っておるがごとし!」
「そやろ!」イリス得意気。
フォームラー隊長がちらっとこっちを見てきた。
「あ、すみません。私語アカン?」
隊長、「いえ」と、小さく首を振る。そういうことではないらしい。
「なんやろ?」
「・・・ま、小声にしとこかに」とルシーナ。
「ハーイ」小声でイリス。
街角を曲がり、大通りに出る。
この大通りは、かつてルーン嬢が初めてこの街に来たとき、ガンメタ鬼神台と歩いた坂道であった。
今日はその坂道を、城門へ向けて下ってゆく。
前方に正門が見えた。固い城壁と城門が。
番兵どもが城壁の上に並び、盾に身を隠して、アシどもを睨み下ろしておる。
下り坂の先ゆえ、城門の向こうも、よーく見えた。
アシ。アシ。アシ。
城門の先の大通りに、左右の空き地に、森の中に──
ウロウロウロウロと、数百。あるいは、千。
「全体、止まれ!」
フォームラー隊長、鋭く命じた。
城門まで1町(109m)。投げ槍の届かぬ距離である。
「正規兵、前へ! 2列横隊!
司祭さま、『祈願』たのみます」
号令が飛ぶ。
歩兵が駆け足で前方に並び、盾をかまえる。
気の早いアシが何人か槍を放って来たが、届きはせぬ。無駄撃ちもいいところであった。
「わーい」「阿呆め」「アシのあほう」ハイエルフども、やんやとヤジ飛ばす。
ガンメタ鬼神台は指示に従って空き地に着陸。
ハナ司祭が、ガンメタ鬼神台に乗ったまま、『祈願』を開始した。
「天の女神の裳裾になびく、清き御霊のましましたまえ・・・」
きらきらと目にも眩い光が集まってくるのを見て、イリスが口を開けた。ルシーナがその口を押さえる。
司祭1人でのマナ招集は、当然、水門のときより速度が遅い。
隊長は正門の様子とマナ招集の様子を交互に見守り、しばらくしてこう言うた。
「・・・人形師殿。祝詞はおできになられますかに?」
「・・・うむ?」と、ボレアス。「祝詞は知っておりますが、神殿の所属ではありませんに」
「私が許可します」ハナ司祭が祝詞の合間に素早く言うた。
「では人形師殿、祝詞の補助を」
「了解。天の女神の裳裾になびく・・・」
ハナ司祭に合わせ、ボレアスも祝詞を唱え始めた。
イリスが目をまんまるにした。口はルシーナに押さえられたままなので、なんも言えん。振り向いて、目でルシーナに訴える。
「・・・静かにおし」
イリスうんうんうなずく。
ルシーナ手を放す。「で、なにえ」
「・・・おっちゃん魔術師か思うたら、祝詞も使いよった」
「・・・そやに」
「・・・いったい、何者?」
「・・・さー?」
「──よし。『銀貨の盾』を歩兵に配布! 2枚!」
「──よし。きしにぃ号の乗り手に、同じく2枚!」
命令するフォームラー隊長。
合間に、こっそり訊いてきた。「きしにぃ殿にも、盾配りますかに?」
・・・ぶわっさぶわっさ。
「いらん言うてますえ」とルシーナ。
「了解。──義勇兵前衛に2枚!」
延々と時間をかけて、『銀貨の盾』の配布が行われる。
ちなみに、水門防衛のときに配布されたのはとっくに時間切れ。全部張り直しである。
この『銀貨の盾』、盾1枚作るのに、銀貨が1枚いる。時間切れになると、後に残るのは銀のクズだけである。これをかき集めて鋳造しても、元の銀貨の10分の1ぐらいにしかならんそうである。つまり、マナ招集すれば無限に使えるという類の呪文ではないのだ。
そういうわけだから、義勇兵は前衛のみの配布となった。ただ、義勇兵の中にもルーン魔術の心得のある者は居って、そういうのは自分で勝手に『銀貨の盾』張って準備をしておる。歩兵にして魔術師というわけである。
「──よし。土石人形用意!」
「この世に立身せよ。『土石立身』!」
ず、ご、ご、ご・・・。
ガンメタ鬼神台が着陸しとる空き地の、目の前の地面に、ひび割れ走る。
身の丈10尺の魔法の人形が立ち上がる。
1体、2体・・・今回は、2体だけであった。
「いまいちなり」とボレアス。
「十分ですえ。
命令は、隊長の私を追尾。および『魔術兵が蛇魔弾を撃ったら、その相手を攻撃しろ』で」
「停止命令は?」
「いりませぬ」隊長は小声で答えた。「・・・正門の敵を撃破後、水門の敵とも連戦する腹積もりですに」
「了解。
土石人形! フォームラー隊長についてゆけ!
土石人形! 魔術兵が『蛇魔弾』を撃ったら、その相手を攻撃しろ!」
「──よし。番兵!! 閂(かんぬき)を外せ!」
隊長、大声で怒鳴った。
門番ども、城門から駆け下り、重厚な扉の閂を外した。
「番兵!! 門の左右にて待機! 正規兵、駆け足、陣形そのまま、門前へ!」
「は!」
「きしにぃ号、我に続け! 義勇兵諸君、土石人形に続け!」
16人の正規兵が、盾をかまえたまま、駆け足で城門へ。番兵は正規兵に道を開けるように左右へ。
アシどもが、しゃーしゃーと威嚇の声上げる。状況が動くのを理解したんであろう。
その敵意渦巻く城門へ、ガンメタ鬼神台は前進してゆく。
どしーん・・・どしーん・・・土石人形が後ろからついてくる。わーわー声上げながら義勇兵がついてくる。
「──城門開け! 攻撃開始!」
ハイエルフの反撃が、始まったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます