鬼神、いきなり、けんかする

1、みずうみのほとり


 鬼神、赤い果実を、ぱくりと食べる。

 酸っぱい汁が、口の中に、いっぱいに。

「うまい、うまい」よろこぶ鬼神。「どれどれ、もひとつ」

 六腕のうちの、右上腕。

 にゅーっと伸ばして、つまみ取る。

 人間の、こぶしぐらいのサイズした、固ーい固い果実である。

 枝のあたりは黄緑で、そこから黄色、黄丹色(おうにいろ)、そうして優しい赤になる。

「おお、酸っぱい。うまいわい」

 酸っぱ、爽やか、かすかに甘く、水分たっぷり、実はみっしり。

「・・・ようし。腹ごしらえは、ばんたんじゃ。もう一回、やってみよう」

 ぱん、ぱん、ぱんと、手を叩く。

 どどっと走る。

 六腕がばっと左右に広げ、バタバタ羽ばたき・・・

 波打つ水面に、高々と!

 ジャンプ!

「それ! 『力』のルーン!」


 ばっしゃあーん・・・ざぶん、ざぶん。


「・・・くそ。やっぱり、だめか」

 鬼神。

 ずぶ濡れ。

 ざぶ、ざぶと、岸に上がってくる。

 いったい、何の奇行か? 羽ばたき、水に飛び込むとは。気でも違ったか?

「よっ! それ、『力』のルーン! はっ! 『向きを変える』!」

 鬼神。

 なおもその場で、ジャンプ、ジャンプ。

 その姿。目にした者あれば『頭のおかしい巨人あり。ぴょんこぴょんこと跳ね踊る』と伝えたにちがいなし。

「くそっ。どうやっても、だめか!」

 鬼神、悔しがる。

 いったい、何をしようとしとるのか?

「『力』のルーンでは、空は飛べんのか。ええ思いつきじゃと思うたのに・・・」

 どうやら、鬼神。

 『力』のルーンで、空を飛ぼうとしとったらしい。

 最後にもう一回、やけくそジャンプ!

 ずるり。ぼて。足すべり、尻もちつく。「あいた!」

 そこに。

 巨大な影が、頭上から、ぶわっさと音立てて近付いてきた。

「うん?」


 近付いてきたのは、大砲の色した丸いもの。

 巨大な三日月かぶとに、剣のごときしっぽを持つ。

 つばさもないのに空を飛び、ぶわっさぶわっさと羽ばたきの音させる。

 そのシルエット、かぶとがにのごとし。

 ──ガンメタリック・かぶとがに・鬼神台であった!


「なんじゃ、相棒か」

 ずぶ濡れの鬼神、尻もちついて、六腕をつばさみたく広げた、ぶさいくな姿。

 ガンメタ鬼神台、そんな鬼神を目の当たりにして、空中で硬直。

 ぶわっさっさ!

「・・・おまえ! 笑いおったな!」

 鬼神、怒る。

「人がれんしゅうしとるのを盗み見て笑うとは、なんたる奴じゃ!

 何をしに来たのだ。呼んでもないのに。帰れ帰れ!」

 ぶわっさ!?

 ガンメタ鬼神台、怒る。

 ぶわっさぶわっさ! ぶわっさぶわっさぶわっさ!!!

「なんだおまえ! えらそうに! ああん? 私を連れ帰りに来たのか?」

 ぶわっさ。

「ばかめ。私は、さんぽ中じゃ! じゃまをするんじゃない」

 ぶわっさ? ・・・ぶわっさ!

 ガンメタ鬼神台、『さんぽだと?』っちゅう感じで傾き、『・・・ばかを言うな!』っちゅう感じで迫ってきた。

「ええい、うるさい。言うて聞かんのなら、すもうで勝負じゃ!」


2、鬼神と相棒、すもうをする


 ざざーん・・・

 波打ち際である。

 透明な水が岸辺に打ち寄せ、キラキラと輝きながら引いてゆく。

 晴れ渡った空に、くっきりと水平線が走っておる。そこまで、なんの邪魔するものもない。

 そんな胸のすくような景色の中で。

 鬼神と相棒、睨み合う。

「いいか! 先に言うておくがな!」

 鬼神。

 ビシッと指差して、怒鳴った。

「私が勝ったら、おまえはとっとと帰るのだ!」

 ぶわっさぁ!

 ガンメタ鬼神台、即答である。こっちもだいぶ怒っとるようである。

 ぶわっさ、ぶわっさ? 鼻面を動かし、剣のごときしっぽをビタンビタン動かして、なんか確認しよる。

「・・・ああ、おまえが勝ったらどうなるのか、と言うのだな?」

 ぶわっさ。

「おまえが勝ったら・・・まあ、好きにしろ」

 ぶわっさぶわっさ!

 ガンメタ鬼神台、怒った。上下にバウンバウンと弾んで怒りを表現した。

「ちっ。だまされんか。はいはい。わかったわかった。

 おまえが勝ったら、私は、黙っておまえに乗る。どこへでも連行するがいい。

 これでどうじゃ?」

 ・・・。

 ぶわっさ。ガンメタ鬼神台、納得した。

 鬼神。

 すーっと、笑いを消して、真顔になった。

「だが、これも言うておくがな。──私は、帰る気はないのだ」


 すもう開始。

 まずは両者がっつり組み合って、力くらべ。

 がぶ、がぶ、がぶ。ガンメタ鬼神台、がぶり寄り。三日月ヘッドを上下して、鬼神を突き押してゆく。

 するり。鬼神、巧みにいなして、体(たい)を入れ替える。

 鬼神には余裕がある。受けてやっとるという雰囲気。

 ガンメタ鬼神台、額の大砲を、格納スペースから、かぱっと出す。

 鬼神、大砲を掴み、ばしっと押し戻す。

「甘いわ」

 そう言うや、六腕でもって、かぶとがにボディを挟み込む。

「そりゃ。とっととカエレ! 『力』のルーン!」

 空の彼方へ、ぶん投げんとす!

 ところが!

 ガンメタ鬼神台、びくともせぬ。

「む!」鬼神おどろく。「やるな、おまえ。相殺を覚えたのか」

 ぶわっさ!


 相殺。

 相手の『力』のルーンに対し、まったく同じ強さで『力』のルーンを当てることで、動きを殺すわざである。

 これは、鬼神が義父から盗んだわざ。極めて高度な返しわざだ。

 一朝一夕(いっちょういっせき)にできるもんではない!

 それをやってみせるとは、まさに、鬼神の相棒にふさわしい。ナイスガイ、鬼神台。


 ふたたび組み合う。がぶがぶがぶ。するり。がぶがぶがぶ。するり。

 かぱっ。ガンメタ鬼神台、また大砲持ち上げる。

 ばしっ。鬼神押し戻す。

「おいおい・・・。そんなつまらん手を、何度m」

 その瞬間!


 どん!

 ガンメタ鬼神台、『力』のルーン!


「ぬおっ!?」

 ずざざざざーーーーー・・・っと、鬼神。何尋(ひろ)も押し流される。

 すぐに『力』のルーンで相殺しようとするが──その直前!

 鬼神のかかと、引っ掛かる!

「ぬう、木の根!?」

 岸辺近くまで伸びとる、木の根! かかと引っ掛かり、仰向けに、こけてしまう!

 このまま地面に着いてしまえば、鬼神の負けとなる!

「いやじゃ!!! 帰りとうない!!!」

 鬼神絶叫である。

「ぬおおおお、『向きを変える』!」

 ぐるりんこ。

 鬼神、仰向けに倒れながら、身をねじった!

 ガンメタ鬼神台を、引き落とす!


 どんばっしゃあああーん・・・!


 でっかい水しぶき。

 波が岸辺をざんぶざんぶ洗う。

 白い砂浜メッチャクチャ。砂にめり込む、力士ども。

 鬼神、立ち上がる。

 相棒、砂浜に逆立ちにめり込んで、しっぽ振り回しておる。鬼神が引っこ抜いてやった。

 だばー。

 かぶとがにの巨体から、水と砂が流れ落ちた。

「やれやれ。相討ちだな」

 ぶわっさ。


 家出神の去就(きょしゅう)を賭けた、湖すもう。

 引き分けとあいなった。


3、アルフェのみずうみ


「じっとしとれ。砂を流してやるから」

 鬼神、大きな手の平で、水をすくっては、ガンメタ鬼神台にぶっかけた。

 ざばー、ざばー、ざばー。六腕なので3セットである。

 かぶとがにボディには、ええ具合に隙間がある。

 砂は、綺麗に流れ落ちてゆく。

「それにしても、ここは綺麗なところだな」

 鬼神は水平線を見渡した。

「晴々した気分じゃ。私は、こんな大きな水たまりを見るの、生まれて初めてだ」

 ぶわっさ。

「おまえも初めてか。そうだろうな。うーむ。うむ」

 鬼神。知ったかぶった。

「なるほどのう。これが『うみ』というものか!」


 ちがいます。

 これは海ではない。みずうみなのだ。

 アルフェロンという、巨大湖である。

 その名は『アルフェの実のなるところ』の意。アルフェの実は、さっき鬼神が食っとった赤い実である。万病に効き、腹持ちが良く、保存も利き、さらには果実酒も造れてしまう! 夢みたいな果実なのだ。

 アルフェロンは、南方大陸の半分以上を占める超巨大湖です。

 あまりにでかいので、海みたいに波も立つし、月に従い満干(みちひ)もする。

 南方大陸では知らぬ者なぞ居らんっちゅうぐらいの名所なのだ。

 ・・・が、この巨大湖がどうやって誕生したかとなると、諸説あって定説がない。

 誰も証拠を持っとらんので、水掛け論になってしまうのです。

 ですから今日は、鬼神のお話とつじつまの合う説を1つだけ紹介しましょう。『巨人の涙』説です。

 

──

 『巨人の涙』


 アルフェロンは、遥か昔には、深い深い森であった。

 空が見えんほど木だらけで、ハイエルフでも拓けんほど、へびだらけであった。

 この森の近くには、巨人の一族が住んでおり、地震を起こしては人間を死なせておった。

 そこに、鬼神という乱暴者の神さまがやって来た。

 鬼神は地震の巨人に挑戦し、殴り倒した。

 とてつもなくでっかい巨人はぶっ倒れ、森の木は全部折れ、とてつもなくでっかいくぼみができた。

 さて。

 鬼神は倒した巨人の娘を妻にして、息子をたくさんつくった。のちのオーガである。

 息子が成人すると、鬼神は家を出てってしもうた。

 巨人の妻はこっそり後をつけた。だが、くぼみの地に来ると足が止まり、泣き出してしもうた。

 鬼神との出会いの日が思い出され、涙があふれてきたのだ。

 巨人の妻の涙は、見る見るうちにくぼみを満たし、湖となる。のちのアルフェロンである。

──


 ──いかがです?

 なかなか、つじつまが合いそうでしょう?

 ですから「六腕三眼、鬼の神」では、この説を採用いたします。

 アルフェロンは、くぼみの地が湖になったものである。とね。


 ま、ともあれ、鬼神はこの湖のほとりを歩いたわけです。

 アルフェロンの岸辺、いま私たちも歩くことができるその岸辺を、鬼神もお歩きなさったのだ。


4、ガンメタ鬼神台、きごうをかく


「さっきのは良かったのう」

 鬼神、ニコニコして、戦いを振り返る。

「余裕でいなしとるつもりが、木の根っこに誘導されとったとはな。

 さらに、大砲にこだわるフリまでして、私を油断させるとは。

 見事な策略じゃ。相棒。おまえはやっぱり、かしこいのう」

 ぶわっさ。ぶわっさぶわっさ。

「うん? 私も良かったか? わっはっは。まあな!

 『向きを変える』はとっさにやったのだが、なんとか引き分けにできたわい」


 『向きを変える』は、鬼神の持っとる『力』のルーンに属する、超常のわざ。

 力の向きをちょっと変えるだけの、地味なわざだ。

 すもうには役に立つ。それ以外で何の役に立つか、鬼神にはいまんとこわからん。

 冒頭、鬼神が奇妙な行動をしとったのは、その試験だったんである。

 『私も相棒みたいに空が飛べたらなあ』という期待があったのだ。

 それを、当の相棒に笑われた。それで鬼神はカッとなったのだ。

 相棒は相棒で、せっかくお伴に来たのに「帰れ」と怒鳴られたので、カッとなった。

 と、まあ、そんな感じである。


 ・・・ぶわっさ?

 ガンメタ鬼神台、キラキラと水を滴らせ(したたらせ)ながら訊いてきた。

「なんで帰りたくないかって? そりゃ、おまえ・・・」

 鬼神は手を止めた。

 ・・・? ガンメタ鬼神台、無言でかたむく。

「うーん・・・うまく説明できんのだが・・・。

 さんぽをしないと、だめだという気がするのだ。

 家が嫌いなんではない。奥さんとけんかしたんでもない。

 ただ、家に居ると、私は役に立たんという、そんな気がするのだ」

 ・・・。

 ガンメタ鬼神台、傾きを元にもどす。ゆっくりと、しっぽを振った。

「今回は、引き分けだった。お互い、口出し無用としようではないか。

 私も帰れとは言わん。おまえも帰って来いとは言うな。それでええか?」

 ぶわっさ。

 ・・・ぶわっさ、ぶわっさぶわっさ?

「なに?」

 ガンメタ鬼神台、ぶわっさぶわっさと説明するが、鬼神に通じない。

 困った彼は、地面に記号を描き始めた。

 垂直に立ち上がり(?)、剣のごときしっぽを突き立て、がり、がり、がり。

 みつばちが針刺すがごとくして、こんな記号を描きおった。


 □━ ・・・> ┃┃┃┃□┃┃┃┃


「なんだこれは。判じ絵か・・・?」

 ぶわっさぶわっさ! ぶわっさ。ガンメタ鬼神台、鼻面で「□━」の部分を何度も指す。

「・・・ああ。これは、おまえか? □が、かぶと。━が、しっぽ」

 ぶわっさ!

「あとのは、わからん。なんじゃこりゃ?」

 ガンメタ鬼神台、身振りとぶわっさで補足説明するが、鬼神には伝わらぬ。

 そのときである。

 ばちゃばちゃばちゃ・・・と、湖が細かく波立ち始めた。

「なんじゃ?」

 地響きがする。

 地面がぐーらぐーらと、横にゆっくり揺れ始めた。

「なんだ。地震か」

 鬼神は相棒の水洗いを再開した。

 砂は綺麗に落ち、水濡れたガンメタリックのボディが、鮮やかに陽光に輝いた。

「じつに美しい色合いだ」鬼神は感心した。「私が一人占めしては、みんなに恨まれそうだわい」

 ぶわっさ。

 ガンメタ鬼神台は簡潔に答えて、鬼神からちょっと離れ、ロール(進行方向を軸とした回転。横転)し始めた。

 ぶぉん、ぶぉん、ぶぉん・・・。タオル振り回すような音がどんどんでかくなる。

 さらに途中で回転軸を少しずつ変えて、変幻自在に回転する。どの方向が軸とも言えぬ、めくるめく回転である。

 まるで水浴びした後の、いぬのごとし。まあ、いぬは空中回転せんが。

 水飛び散り、ボディ渇き、すっかり元通りとなる。

「わっはっは。おまえ、器用に『向きを変える』を使うのう!」

 ぶわっさ。

「・・・さて。さんぽを続けるか」

 鬼神。歩き出す。まだ『さんぽ』と言い張るようである。

 ガンメタ鬼神台。伝わらんかった地面の図を残念そうに眺めたのち、鬼神についてった。


 ・・・ガンメタ鬼神台の、言いたかったこと。なんだったのか。

 気になる方には、今回の最後に「おまけ」としてお話しいたします。

 

5、鬼神、ひとだすけする


 翌朝。鬼神は地響きで目を覚ました。

 ぐーら、ぐーら。また地面が横揺れしよる。

「またか。連日だのう」

 ぶわっさ・・・。相棒も目を覚ましたか。ヨレヨレと空中に浮かび上がる。

「なんかの異変の前触れかのう?」

 ぶわっさ・・・?

「ちょっと、空から見てみるか」


 相棒に乗って、空を飛んでみたところ。

 めっちゃめちゃになった街が、森の向こうにあった。

 地震で家がひしゃげ、壁倒れ、火事となり、ハイエルフどもが血相変えて走り回っておる。

「大変そうだ。ちょっと行って、助けてやろう」

 2人は空から駆けつけた。

「おおい! 助けに来たぞ。力仕事があったら、言うがよい」

「ひい!? 空飛ぶ大猿!」

「6本腕・・・もしや、ハイエルフの国を滅ぼすという、鬼神さま?」

 この街のハイエルフは、鬼神のことをよく知らぬらしい。おびえた。

 だが、緊急時。鬼神が瓦礫を持ち上げ、横にどけて見せると、受け入れた。

 鬼神には『力』のルーンがある。崩れた家や城壁を取り除くのは朝飯前なのだ。

 ガンメタ鬼神台は、消火用水を運ぶ手伝いをした。バケツを満載し、空飛んで速やかに運ぶんである。

 そうして火事を消し、救助をしとるうちに、魔術師の一隊が飛んできた。

「部族の魔術師さまがいらっしゃったえ!」

「下がれ、下がれ! 家を壊すに、周囲から離れよ!」

 家を壊しておった(延焼を防ぐためである)消防隊、下がる。鬼神も下がった。

 魔術師ども、ごうごう燃えとる家の前に並ぶ。

「『魔弾』用意・・・撃て!」

 『魔弾』の呪文を一斉に燃える家に撃ち込む。家はぶっ壊れ、ぺしゃんこになった。火が渦巻くが、すぐ下火となる。

「隊長。あちらの瓦礫の下に、生命の反応あり」

「わかった。私がやる。担架を用意せよ──『ステップ』!」

 『ステップ』の呪文は、人間を垂直に上下テレポートさせる。瓦礫に埋もれた人を、一瞬で空中に引き出せるのだ。


「見事じゃ」鬼神、感心する。「さすがは、ハイエルフの魔術師」

 ぶわっさ。

「おう相棒。そっちも一段落か」

 救助も火事も一段落。あとは、燃え残りに砂や水を掛けてゆくだけである。

 魔術師どもの隊長がやってきた。鬼神にあいさつする。

「鬼神さまですに? 御勇名は、存じ上げておりまする」

「うむ。鬼どもの神、鬼神。たまたま通りがかったので、手助けをいたした」

「かたじけのうございます。すぐに、宿を手配いたしまする」

「いや。災いのときじゃ。負担をかけとうない」

「そやに、正式な御礼・・・また、貴国との調整もいたしたく、それにはお時間が少々・・・」

 隊長必死。

 そりゃそうだ。ハイエルフからすれば、他国の先代国王(しかも神)に救助された形。

 外交的調整をせねばならぬ! っちゅうわけだ。

 しかし、鬼神。

 そういう手続き、嫌いである。

「しょうがないのう」鬼神、相棒を呼びつつ、言うた。「ではこうしよう。鬼神というのは、うそじゃ」

「は?」

「私の名はリッキー。なぞの六腕鬼、リッキーじゃ! では、さらば」

 鬼神、ガンメタ鬼神台に飛び乗って、逃げる。

 隊長、ため息をつく。「六腕の時点で、謎やありませんに・・・」


「そうなのだ。こういうのだ。私がやりたかったことは!」

 鬼神。

 寝っ転がって、御機嫌で、相棒に話す。

 今日はもう遅いので、昨夜と同じ湖岸の森にもう一泊である。

「フラフラと旅をし、人助けをし、さっと去る。これよ!」

 ぶわっさ・・・。

「相棒。そんな気のない返事をするな。おまえが居ったことで、生命が助かった人だって居るのだぞ」

 ぶわっさ。

「だろう?」鬼神、しばらく、嬉しそうにした。「・・・ま、寝るわい。おやすみ」


 湖の波の音を背景に、夜は静かにふけていった。


おまけ、ガンメタ鬼神台の、言いたかったこと


 □━ ・・・> ┃┃┃┃□┃┃┃┃


 □━ 呪文版としっぽ。つまり、ガンメタリック・かぶとがに・鬼神台。

 ・・・> 通信。空飛ぶ台同士の、人間には聞こえない高速通話。

 ┃┃┃┃□┃┃┃┃ 呪文版と塔8基。つまり、妙雅(みょうが)。


 というわけで、


 □━  ・・・>  ┃┃┃┃□┃┃┃┃

 私から 通信で 妙雅に(伝えてもかまわんか?) でした。


 じつは、妙雅に頼まれておったんである。

<きしにぃ。ばかなおじちゃんを連れ戻してください。絶対に、連れて帰るように>

 きしにぃ(鬼神台兄ちゃん)。

 鬼神と妙雅のあいだで、板挟みだったんである。

 すもう勝負で引き分けたところで、いったん連絡しておこうと思ったわけだ。

 こっそり通信せず、ちゃんと確認をしたところに、彼の性格が出ていますね。伝わらんかったが。


 ・・・で、どうしたかって?

 はい。結局、こっそり通信しました。


 鬼神を見つけた。帰らんと言うとる。しょうがないので、ついていく──とね。

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