第4話 ブラックコーヒー


どこで、この糸は、ほつれていったのだろうか。












もし、あの日、あの時、あの瞬間に戻れるなら僕は、離れそうになった糸を手繰り寄せる事が出来るのだろうか。


あの手が離れた瞬間とき、結びかけていた僕らの運命の糸はほどけていったのかもしれない。






会う約束しようと何度か連絡したけど、受話器から聞こえるのは圏外の音声メッセージだけだった。それでもと思い、メッセージも送ったけど、夏休み中に彼女からの連絡は無かった。

相当お父さんが怒ったのかもしれないと思い。

夏休み明けに、僕も謝りに行こうと決心して学校に向かったけど、彼女の姿は教室に無かった。

先生が言うには、彼女は夏休み中に事故に遭い、かなりの重傷を負ったらしい。

地元の病院では、手の施しようが無く、東京の病院まで搬送されてなんとか一命は取り留めたらしい。


僕も、それを聞いた途端、教室を飛び出し、彼女の家に向かったけれど、誰もでてこなかった。


いつまで待っても。


誰も帰ってこなかった。


寒い。お腹も減った。

けれど、彼女は、そんな事も言えない、、、




その日、人目を気にせず泣きながら帰ったのを覚えている。





出会いの1年が終わり、ひとつ上の学年になった。


雨が、アスファルトの匂いを連れてくる季節に、別のクラスの奴から聞いた。


彼女は、記憶は曖昧で、外傷も酷いため、元の彼女を知らない土地で暮らした方が良いのかもしれないと、そのまま東京で住む手続きを進めている。


短い言葉だったけど、僕には長く重い言葉だった。




もし、あの時、彼女と仲良くならなかったら、何かが変わったのだろうか。


もし、あの時、手を離さなければ、何かが変わったのだろうか。


もし、あの時、”好きだ”そう伝えていれば、何かが変わったのだろうか。


ただ、同じ空気を吸っていたかっただけなのに。

ただ、同じ時間を共に過ごしたかっただけなのに。

ただ、君の笑顔が見たかっただけなのに。


たった、それだけなのに。。。




あの瞬間とき、ほんの少しの勇気があれば、何かが変わっていたのかもしれない。


それでも、その未来は、今はもう見えない先にある。






今でも、たまに夢をみる。





この、終わることの無い後悔が始まる日。

誰にも話したことは無く、これからも話す事はないだろう。



そして、『この記憶は、もう僕の中ににしか無いのかもしれない』 そう考えると消す事も出来ない記憶。



人生は、コーヒーのようだ。


ブラックコーヒーの様にほろ苦い。


このほろ苦さに慣れる時は来るのだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ブラックコーヒー shin @shin_cocotasu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ