第19話 三人目の相談者『花城乃亜』3

 俺は正直な感想を漏らす。


「そこは普通、『なんでいるの?』から入るところじゃないのか?」

「いや、だって普通に見えてたし」

「まじか」


 部員たちはよく、俺たちのことをを見て見ぬ振りしてくれてたものだ。


 鷺ノ宮が怪訝そうに話しかける。


「それで、伝えたいことってなんですか?」

「ああ。今、花城先輩のことを応援してるみたいだったから、言っておこうと思ったんだけど……」


 そして井上は単刀直入に言い放った。


「葉川はロリコンよ」

「「やっぱりか……」」


 俺たちの予想は正しかった。だって、ロリ感溢れる花城先輩が大人なパンツを履いていて、ため息を吐いたのだ。


「え、もしかして二人、気づいてた……?」


 井上が申し訳なさそうに言ってくる。


「え、まぁ薄々感じてはいたけど……、でも確かな情報に変わったから良かったよ」

「はい、ありがとうございます!」


 俺と鷺ノ宮は、慌ててフォローする。


「そういえば、岩野先輩とは最近どうなんですか?」


 鷺ノ宮が興味津々で尋ねた。しかし、どこか不安そうにも見える。


 自分が考えた告白のアドバイスをしたのはもちろんだが、なんと言っても井上は最初の相談者だ。当然だろう。


 しかし、それは杞憂だ。


 同じクラスなので井上の様子を伺い放題な俺が保証する。


 現に井上が、浮かれたテンションでのろけ話を始めた。


「あー、仲良く過ごせてるよ。毎日楽しいし〜。本当に二人のおかげだよ!」

「それは良かったです!」


 心底鷺ノ宮が嬉しそうに返す。


「うん。本当に楽しいの。ごうね……」


 井上の目に、狂気が宿り始めた。ごうとは、岩野の下の名前だったはず。ちゃんと恋人してるんだな……素直に「良かった」とは思えないが。


 井上から、「闇」とか「病み」のオーラが溢れ出す。


「ウチ以外の女とは絶交してくれたし、いつでもデートする時は飛んできてくれるし、家に行ったらもてなしてくれるし……」


 岩野、奴隷じゃね!? ……あー、でもそういえばそうか。あいつ、恐怖のラブレター作戦で、井上に脅される感じで結ばれたからな。


 結ばれたって言うより、井上が岩野を縛っているだけのような気もするが。


 まぁ、でもそんなことは気にしない! 俺たちは俺たちのやり方で精一杯、「昨年度のクラスメイト」としか見られていなかったところを、恋人まで漕ぎ着けたんだ!


 むしろ、この功績を自信に思うべきだ。


 そして今は、花城先輩の相談に応えなくてはならない。


「じゃ、じゃあ、俺たちそろそろ行くな。わざわざありがとう」

「ありがとうございました!」


 そう言って、俺たちは階段の方へ足を向ける。


「あ、うん。じゃあねー!」


 ピタッと正気に戻って、手を振ってきた井上に相槌を打った俺と、元気よく手を振り返した鷺ノ宮は、部室を目指して歩き出した。


 内容の良し悪しは置いといて、このような形で以前の相談者が喜んでいるところを見られた。


 なんだか、井上に元気付けられてしまった。

 

 ***


 部室に帰ってからというもの、俺たちはあることをずっと考えていた。


「先輩、なんか思いつきました?」

「うーん。やっぱさっきから言っている、『ランドセルを背負う』というのが一番なんじゃないか?」

「なるほど〜。でもそれだとちょっとベタすぎません?」

「じゃあ、幼稚園の制服を着てもらうか?」

「それは流石に……、合法ロリって感じがします」


 側から聞いたら、俺たちは相当馬鹿げた話をしているだろう。むしろ、かなり危険な匂いもする。


 そう。俺たちは、「どうやって花城先輩を完全なるロリに仕上げるか」を考えているのだ。


 これに関しては恋愛とかは関係ないので、珍しく俺も頭を働かせている。


 そんな時だった。ドアがノックされずに開いたのは。


 吉沢先生かと思ったら違った。花城先輩だ。


「どうしたんですか?」


 聞くと、花城先輩は即座に答える。


「さっきので葉川君に効果があったのか確認しに来たのよ」

「部活は……?」

「そんなの『用事がある』って言って抜けて来たわ」

「いいんですか、それ……」


 すると花城先輩は少し、ドヤ顔をした。


「三年生だからね。それくらいなんとも思われないのよ」

「……あと数ヶ月で引退なんですし、一回一回を大切にしたほうがいいのでは?」


 鷺ノ宮が遠慮がちに聞いた。

 しかし、花城先輩は強く宣言する。


「私は、部活より恋愛が大事なのよ! ……卒業までに、葉川君とっ!」

「そういうことですか」


 鷺ノ宮が一人、深く頷いた。

 そして、先輩に向かってビシッと指を差し、声高らかに宣言する。


「なら! まず、その喋り方を変えるべきです!」

「どういう意味かしら?」


 首を傾げる花城先輩に、即座に鷺ノ宮が指摘する。


「まず『かしら』を、『なの』に変えましょう!」

「……どういう意味なの? これでいいのよね?」


 すると、また鷺ノ宮は指摘する。


「それも変えましょう! 『よね』を消した方がいいです!」

「どういう意味なの? これでいいの? ……なんか変な感じがするわ」

「『わ』も消してください」

「どういう意味なの? これでいいの? なんか変な感じがする」 


 復唱する花城先輩。おい、鷺ノ宮……お前、花城先輩の言葉遣いを幼くさせるつもりだな……めっちゃ名案じゃん。お前マジ天才。


 鷺ノ宮が、人差し指をピンと立てる。


「じゃあ、今のを踏まえて、自分なりに葉川君への告白の練習をしてみてください」

「わ、分かった」


 一度深呼吸する花城先輩。


 真面目な面持ちで、言葉を紡ぎ始めた。


「葉川君、いつも守ってくれてありがとね。私はあなたのことが好きです。付き合ってください! ……こんな感じ?」


 赤くなりかけた顔を誤魔化すように、勢いよく首をひねって確認する花城先輩。


 対して、鷺ノ宮の反応は鈍い。確かに、俺も今のはよくなかったと思う。


 う〜んと考えながら鷺ノ宮が、一つ一つ解説を始める。


「まず、最初の『ありがとね』は『ありがと』のほうがいいですね。『私はあなたのことが好きです』は、『あなたが好きです!』って短くしましょう。そのくらいですかね……まぁ、『葉川君、だぁぁぁぁーいちゅきっ!』だけでもいい気がしますが」


 最後に、鷺ノ宮が小声で付け足した。それだ。絶対最後のやつだけでいい。

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