第17話 三人目の相談者『花城乃亜』1
「言ったわよ」
そう平然と答えて、花城先輩は生徒証を見せてきた。どう見ても、確かに「三年」と書いてある。
「ご、ごめんなさい! なんか失礼なこと聞いちゃって」
「すいません……」
「別にいいわ、よく言われるし。それに、自分でも自覚してるわよ」
俺と鷺ノ宮が謝ると、花城先輩は、快く笑い飛ばしてくれた。
それにしてもどうしたものか。何となく話し方が大人っぽいというか、お姉さん口調だから容姿にそぐわなすぎて違和感を感じる。
だが、鷺ノ宮はあまり気にしていないようで。
「花城先輩が告白しようとしている人は、どんな人なんですか?」
完全にいつも通りだ。鷺ノ宮がその調子なら、俺もやりやすい。
それまで悠々としていた花城先輩が急に、俺たちから目を背けて顔を赤くしながら話し出した。
「えっと……、私、この容姿のせいでね、さっきの二人みたいに驚かれるだけならまだしも、いじられたりするのよ。特に部活で。……だけど、今年に入ってから、新入部員の
途切れ途切れに紡ぎ出された言葉は、とても心がこもっていた。
そうか、もう五月も中旬に入ってきている。新入生との恋愛が始まってもおかしくない。これからは、一年生の相談者も増えてくるかもしれないな。
俺は鷺ノ宮に聞いてみる。
「葉川ってやつ、お前知ってるか?」
「知りませんよ。というか、先輩以外の男なんて基本的に興味がありません」
「あ、そう……」
あまりにも真顔で言われたので、ゾッとしてしまった。
「どこの部活に入ってるんですか?」
鷺ノ宮が花城に尋ねる。俺もそれは聞いてみたかった。「特に部活でいじられる」というのに、ひっかかっていたのだ。
「吹奏楽部よ。そこでサックスをやってるから、楽器の大きさとわたしの体格を比べられがちで……」
「なるほど。そういうことですか」
ふむと頷いた鷺ノ宮と共に、俺も頷いておく。確かに、近くに楽器があると余計に身長に目が行ってしまうだろう。
急に、花城先輩の表情が曇った。
「……葉川君は私のこと、先輩としてしか見てないのか、少しは好意を持ってくれてるのか、分かんなくて」
「そんなの関係ないですよ!」
俺は、反射的に言っていた。それも当然、俺は恐怖のラブレター作戦にまんまとやられた、岩野という男を知っているからだ。笹田に関しては、元々から斉藤に好意があったのかは分からない。
だから現時点で葉川が花城先輩のことを先輩としか思っていなくても問題ない。
花城先輩が、怪訝な視線を向けてくる。
「どうして?」
「鷺ノ宮にかかれば、そんなの問題ないからですよ!」
俺に視線を向けられた鷺ノ宮が、少し嬉しそうな表情を見せて、デカい胸をはる。
「はい、私たちに任せてください!」
まぁ、ヤンデレ化するという代償付きだが。
そんなことを知っているはずもない花城先輩が、嬉しそうに呟いた。
「うん、お願いね」
***
「まず、ギャップを与えることが大事だと思います!」
「ギャップ?」
鷺ノ宮の提案に、
「はい。幼く見られる先輩が突然大人っぽいところを見せたら、葉川君は惹かれるんじゃないですか? 彼が今、花城先輩のことを意識していても、いなかったとしても」
「でも、そんなのどうやったらいいのよ……」
「ラッキースケベです」
「は?」
なんか鷺ノ宮がよく分からないことを言ったので即座にストップさせる。
ちなみに花城先輩は「ラッキースケベって何?」と言って、不思議そうにこっちを見つめてきている。……まじか、この人、そういうの知らない系の人か?
鷺ノ宮が、俺たちの疑問を一気に応えるかのように言い張った。
「では、今から実際にやってみましょう」
「見せて見せて!」
花城先輩は興味津々で食いついてきた。
ああ、また始まったよ……。絶対俺が部室の床に移動させられるやつだ。
これ、恒例行事にならないといいな……。
鷺ノ宮が立ち上がり、部活の床を指さした。
「先輩、今回も『補佐』として協力してください!」
ほらやっぱり。なんか「補佐」って意外と大変なことが分かってきたぞ。特にランジェリーショップに連れて行かれた時は大変だったなぁ……
だが、これがこの部活のスタンスなので俺は文句一つ言わずに移動するのだ。部室の中央辺りの床へ。
「で、俺はこの後どうしたらいいんだ?」
「そのまま立っててください!」
相変わらず幸せそうな表情で鷺ノ宮は言うと、すたすたと俺の前までやってきた。
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