お前の旅 01

 船舶用コンテナヤードのある大型プレハブ内で、クガツは缶コーヒーを片手に木箱に腰を下ろしていた。コーヒー缶の内容量は2割といったところ。そのクガツの横へと白衣の少女が歩を進める。


 「やあ」

 「お前も来てたのか」


 夏季休暇前、ジョウトウ区域内でのビルで行われた3つの勢力の対談。ジョウトウグループ、西櫻会、クラウドノースが集結しその夜にクガツがK3の無力化を試みた時のこと。あの夜に特殊空力ミサイルを配備した技術者だ。


 一帯では10代半ばに差し掛かるかといった背格好の少年少女らが汗を流しながら物資を運んでいる。


 「なんだか、俺が顎で使うみたいでこうやって働かすってのも気が引けるな」

 「雇用を生み出してるんだよ。立派なことだ」

 「だったらいいけどさぁ」


 クガツはコーヒー缶の飲み口に視線を移す。荒んだ瞳だった。


 このコンテナヤード一帯は貸倉庫だ。ただの保管から、保管物の変性予防に関した介入。ユニオンムーの、ジョウトウ区画付近に生活の拠点を置く身元・出生不明の孤児学生らがここで働いている。


 「いつのも兄貴分の遺品と、抗争後の行方についてか?」


 技術者の白衣は問う。


 「ああ。ずっと行き詰まってるけど、もう一度見直そうと思ってな」

 「アテはあるのか?」

 「……ない。脱出用機構まわりがグズグズになってて、その後がわからん」

 「けど、多量の出血痕と生体情報が一致してるんだろう? ならもうオダブツじゃないのか?」

 「そう……だろうな」


 クガツはグイと微糖コーヒーを呷ってから言う。


 「いつまで俺はこうやって二の足踏むつもりなんだろうな……」

 「自分の自己満で始めたことなんだから、自分が満足する落とし所みつけるまででしょ」

 「自己満……? いや、自己満か。自己満だわな」


 下唇を軽く噛んでクガツはコンクリートの足元に視点を移す。そのまま言葉を口にすることはなかった。もう少し中に無いのかと、せがるように数度空のコーヒー缶を呷る。


 「あ、クガツさん。お客さん来てますよ」


 作業着姿の少年が駆け足でクガツの元へと向かってくる。ほうけたような声を漏らしてから、クガツは膝を叩いて腰を上げた。


 「ありがとうな」

 「向こうの出入り口に」

 「オッケー。また今度飯行こうな」

 「ほんとッスか!? じゃあ他のメンツの日付も聞いておきますから!!」

 「あんまり大人数はやめてくれよ。金欠なんだからさ」


 汗で肌に張り付くインナーをパタパタとさせてクガツは歩を進める。出入り口付近に立つのは2人の影。スーツ姿の男が2人だ。


 「どうも、自分が久住クガツですが。どちら様で?」

 「ええ、中央管理セントラルの関係者です。こちらを」


 顎ヒゲの男。年齢は20代後半か。男が差し出すのは名刺。以前見たことある名前だ。


 「以前、会いました?」

 「1年以上前の冬頃ちょっと前でしたかね。中央管理セントラルの出した臨時求人で協力してくれた時に、一度挨拶を」

 「ああ、あの時の」

 「僭越ながら、クガツさんの身元を調べさせてもらい……その、お力になれるかとこちらを」


 クガツの前に小型のジュラルミンケースが差し出される。


 「今ここで開けて?」

 「ええ」

 「情報媒体……」


 中に入ってたのは梱包されたUSBメモリだった。顎ヒゲの男は言う。


 「中には、XO-77の一件の後の呉土シラタカの詳細を」

 「……ッ!!」

 「こちらで把握できている分だけになりますが……今後とも、中央管理セントラルとよろしくお願いします」


 頭を下げてからクガツは駆け出した。手元のUSBを自分の持ち運ぶ大型端末に接続して中身の確認をいち早くしたかったからだ。


 「決着、つきそうじゃん」


 白衣の女技術者が言う。


 「ああ」

 「よかったね」

 「感謝でしかねえぜ」

 「挨拶、行っておくよ」

 「頼む。ありがとう」

 

 白衣の少女は、スーツの2人の元へと歩を進めた。

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