顔の知らないそっくりさん 13
「なんだ貴様は──!?」
「……」
「ウグゥ!!」
クラウドノース郊外の地下、配管が熱を帯び蒸気が漏れ出る穴蔵の一帯で抗争が起きていた。
FPアーカイブスの移動後拠点だった。作業服の男らはアサルトライフルを手にして指定ブロックへと向かっていく。
FPアーカイブスの戦力数十名以上。
VS──
『目的対象は1名、至急各自武装を用いて対象を迎撃せよ』
内線アナウンスが鳴る中、ミザリがレザーグローブを装着しながら大型の鉈を手にする。それに対して黄仙が言う。
「ミザリ、貴方は地上へ逃げなさい」
「え、でも!?」
「未来ある若者が、そう安々と命を捨てるものではありません」
黄仙はミザリの肩に手をやってそう言う。押し黙るミザリは瞬時に駆け出す。言い争いをするよりも、何よりもこの地下を脱出し情報を伝えることが黄仙という上司へのせめてもの敬意と礼儀だと肌で感じたからだ。
黒礼服のメガネの男は駆け出し、有機サーバールームへと向かう。
水槽で脈動する、起きさ3メートル弱の白い肉塊。その水槽の前で立つのは黒い雨合羽をした男──身長は180cm以上と言ったところか──
「誰だかは、わかりませんがお引取り願えませんか? コソ泥に渡す情報と金などありませんよ」
「……」
黒のローブを頭に羽織った男は何一つ口にしない。黒のレザーブーツが床を撫でる音を小さく上げ、適切な重心バランスの調整を行っている。
その気配を黄仙は感じ取った。
「言っても無駄みたいですねッ!!」
黄仙が一気に距離を詰め、クロスレンジコンバットを展開──ッ!!
黒ローブを男は大型のサバイバルナイフを振り、黄仙へと付きたてる。が……黄仙の装着する防刃防弾グローブを貫くことはなかった。
瞬時に黄仙に訪れるアドバンテージ。刃を握って砕き、手刀のラッシュを浴びせるッッ!!
直撃する黒ローブの男。3発までをモロに浴びせられ、4発目から打撃の進行方向と同じになるよう体重をずらして後方へ飛んだ。
(吹き飛びましたね……ダメージは与えましたが、致命傷ではない)
黄仙の小指から手根骨にかけてには手応えがなかった。
黒ローブはペッ! と血糊を吐いて態勢を整える。同時に、ローブ内側へ伸びる腕──ッ!!
「……ッ!!」
黄仙は駆け出していた。黒ローブの取り出したモノはハンドガンッッ!! 直撃すればひとたまりもない!!
駆け出した黄仙は素早く銃口の先端を薙ぎ払い、発砲の直撃を回避する。そのまま勢いに乗せたトウキック──ッッ!!
革靴のつま先は男の喉元をえぐって対象を吹き飛ばした!!
「来い!!」
黄仙は指を鳴らす。上空から瓦礫を撒き散らし、現れたのは配管の塊ッッ!!
イソギンチャクの様に鉄の配管をうねらせてその塊は黒ローブの男へと直下した!
「アイアン=ゴーレムくんです。行きますよッ!!」
黄仙が駆け出す。スーツ内側から取り出したのはナイフ。下敷きになった黒ローブの男へと駆け出して一閃を試みたッッ!!
「……ッ!!」
が、黒ローブの男は掌底でアイアン=ゴーレムくんを弾き飛ばす!! その先は──黄仙の方向!!
「ッ!!」
黄仙もアイアン=ゴーレムくんを乗り上げるようにしてそれを回避した!
上空から勢いに任せ、黒ローブの男を捕らえる!!
アイアン=ゴーレムくんを弾き飛ばしてすぐだ。黒ローブは低い姿勢で蹴りの硬直をとっている。
(この距離では迎撃はできない!! もらったッ!!)
黄仙の予感……それは──的中せず。
十数cmの距離をとる様に黒ローブの男は腹壁からローリングを行っていた。
床にナイフを突き立てる黄仙。
「フゥー……フゥー……」
「……」
正対する二人、沈黙に蒸気の拭き上げる音が響く──!!
駆け出しのは──同時ッ!!
黄仙の斬撃を、黒ローブの男は肘を用いて的確に迎撃した!! ローブ内側にはプロテクターがあるのか、硬化カーボンに刃物を打ち付けたような余韻が黄仙の掌に伝わる。
ナイフが飛ぶッ!! 肘による打撃で黄仙の掌から滑り飛んだのだ!!
すかさず黒ローブの掌底が続く!!
「ッ!!」
手根骨尺骨側による削り取るかの様な右掌底、右手刀、左手刀、カチ上げる様な右肘、左手刀──右ストレートォォ!!
見にも止まらぬ神速の連撃!! 打撃の嵐が黄仙の体力を一気に削り取ったッ!!
黒ローブの男が衣服の内側から拳銃を取り出す。
チェックメイト!!
「……!?」
それが脳裏に浮かんだのは、黄仙の方だった。
主語”こちらの”を付け加えて!!
配管めいた触手が黒ローブの男を襲う!! 一気に締め上げられた男は骨の砕かれる音を上げ、掌から拳銃を落下させる!!
「ウチのアイアン=ゴーレムくんはその程度ではノビませんよ。私は、”彼”のため時間稼ぎをしていたまでです」
メガネの位置を整え、黄仙は姿勢を起こす。
配管で黒ローブを締め上げるのはアイアン=ゴーレムくん。鉄の塊はただ忠実に人工知能の判断に任せ、男を締め上げフレッシュな血が床へと落ちる。
「吐いてもらいましょうか、貴方と裏につく詳細を」
黒ローブの男は身じろぎするも、数十秒後には沈黙した。
鮮血がポタポタと落下する音だけが、蒸気の音にわずかに混じる。
「やれやれ」
絶命を予期した。生体情報の解析と、それに伴う所要時間を早期した黄仙はゲンナリとした気分が全身に満ちた。
「──!!」
その瞬間だった。黄仙の視界を照らしたのは青白い光──ッ!!
瞬時にそれはアラマサ=ホールディングス傘下の企業が開発するレーザー武装だと確信した!!
青白い光は一帯とアイアン=ゴーレムくんを襲い、瞬時にそれらを灰と化した。
月光と星空。天井を貫く大穴にはそれらが浮かんでいる。
そして──
黒い残光を縦に描いて墜落するのは黒い影。
月明かりに無機質な存在感を持つそれは特有の流線型で光沢を帯びていた。
「ホワイトフロント……?」
黒く塗装された人型のそれは、アイアン=ゴーレムくんを上から押しつぶして着地した。地響きのような衝撃を上げて鋼の触手を押しつぶす。
黒ローブの男は、寝起きとも言うべきか。首を鳴らしながら上体を起こす気配があった。
内側から大型サバイバルナイフを取り出し──それでもなお姿勢を低く保ち不意打ちに警戒しながら黄仙へと寄る。
(一枚上手か)
黄仙の脳裏によぎる。
「……完敗です。一想いにやってください」
「……」
「痛いのは嫌ですからね」
「……」
黒ローブは声を出すことは無かった。
アイアン=ゴーレムくんを下敷きに、起動兵装用大口径アサルトライフルが配管の塊を始末する音だけが夜闇に響いていた。
分厚い平ベッたい鉄塊が肉と軟骨を貫く音を上げ、それから一帯は沈黙した。
十数分後、黒ローブは黒の機体へと搭乗し北北東の方向へとブーストを吹かす。
対象は本土からの輸送機。民間企業の用ることのないマスクされた輸送ジェットだった。
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