顔の知らないそっくりさん 11
クガツが蟻塚上階に辿り着き、王の間に顔を出せば皮のドレスをしたブロンドの女が土下座をしていた。
「お願いします……命だけは……」
「薬と、それとモニターに出てた人質。二つの在り処寄越せ」
「ひ、ひゃい!」
バタバタと今にも崩れそうな足取りで女は駆け出す。奥の部屋に向かい何かを持ってくる様子だった。
数十秒待つと、黒い金庫を荷台に乗せて女とそれに着く護衛が姿を現す。
「こ、これになります。この中にあるアンプルを指定の分量で補液に溶いて静脈注射すれば半年は持つかと……」
ブロンド髪の女はそう言い、部屋の隅にいる金髪の女を見る。マヤの方だ。マヤは一度目を見開いて硬直したが、すぐさま気だるげに壁へ寄りかかった。
クガツがブロンド女と護衛に言う。
「明後日、時間がある。蟻塚内のものでいいから医療機関の予約頼んだ。もうしばらくは此処らにいるから、伝票と予約票貰ってから帰るから」
「は、はい」
掌を上げてクガツは答え、マヤの方へと歩を進める。
先に口を開いたのはマヤの方だった。
「どうして、アンタをハメようとした複製体にそこまでするの?」
「どうもこうも。哀れだったからだよ。変に自我与えられて産まれて、勝手に死なされるだけってのはな。俺が猶予与えたんだから、せめて答え見つけてから一人で死にやがれ」
「何それ、勝手な人。頼んでもないのに」
複雑な表情をしてマヤはそれ以上何も言わなかった。
クガツがオリジナルのブロンドと護衛に向かって言う。
「あと一つ、人質はどこだ?」
護衛らは狼狽して仲間内で視線を合わす。解放して良いのか、そうすべきではないのかに答えを出せないでいる様子だ。
「ここだここ」
王の間入り口付近から、一人の小柄な人影が姿を現す。血だらけのオペ着をした少女。手首足首に拘束用の金具を取り付け、そこからはちぎれた鎖がじゃらじゃらと床を引いている。
「いつにもなく激情だったじゃんクガツちゃん。そんなにアタシが大切だったか?」
「うるせえな」
尾翼に親指を押し当て、逆の鼻孔から血餅を出す拘束具の少女。無害そうな背格好をしたミドルボブの茶髪の少女だった。
鼻で笑ってクガツが問う。
「何故囚われてた?」
「宿命」
「大爆笑もんだな」
「いや、割とマジで」
「どういうことだ?」
サラクは人差し指を中指を立て、それらを平行に動かしながら言う。さながら蟹のムーブメント。
「アンタも知ってるでしょ。アタシと同じ顔をしたマブい女子を消してまわろうとしてること。謎の不眠解消がなぜかできるソレ」
「あ、ああ」
「原理は分からないけど、アタシの手綱を握ってる"上"も、同顔殺しが
「は、はあ」
「それと、なんでこんな洞穴にかくまわれたかだけど──」
そこへ割り込んで来る言葉があった。
「ワシが説明する」
低い男の声。
気絶え絶えな口調で言うのは担架に乗ったマスター・ルゥー。彼も王の間へと来ていたのだ。
思わず身構えるクガツ。
「第二ラウンドか?」
「イジメんといてくれ。カンパイや。今日はな」
「今日は……」
「ともかく、今の西櫻会とセントラルについての情勢を説明する。長くなるからかけてくれや」
オリジナルの女の護衛が、椅子を準備し始める。
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