顔の知らないそっくりさん 09

 筋肉男、マスター・ルゥーは力任せのファイトスタイルだった。獅子の様に駆け、ゴリラのような腕でクガツを打ち付ける。

 その一撃一撃で、大銅鑼が鳴るように湧きあがる歓声ッッ!!


 「おい! マスターが出てるぞ!」

 「ルゥー!! ルゥー様が戦ってますわぁ!!」

 「でもあの小僧も只者じゃねえ!!」


 荒々しい途切れめのないルゥーの攻めッ!! しかし、クガツもそれを浴びせられて倒れては無かった。


 的確な防御と、コンパクトな腕捌きと足運び。ルゥーの洪水のような奔流の打撃は、クガツに直撃せずすり抜けるように吹き抜ける。

 そして、洪水には”ムラ”ができる──土砂を多く含んだ水塊もあれば、そうでない水も。


 緩急を見逃さなかったのはクガツ。側頭部へ向かう打撃をカバーするように畳んだ腕を振り上げ、同時に肘先が鋭い軌道を描く。ルゥーの顎先を下からカチ上げた。

 続くクガツの手刀、肘のコンビネーション。

 追撃の右ストレートを叩き込むクガツ。その気迫に、ルゥーはヤクザキックで迎撃──


 「お、おい! ルゥー様が押されている!?」


 クガツは宙へ軽く跳躍し、ルゥーの胸元に手を当てて押す。ヤクザキックの初動、その出鼻を挫かれたルゥーは姿勢を崩して尻もちをついた。


 ルゥーの胸元を押してトランポリンの様に跳ねたクガツは、膝を畳んでそれをルゥーの喉元へと向ける。


 「クゥアアッッ!!」


 ルゥーが吠えた。大気をかき乱す衝撃波に、クガツは跳ね返された。着地に受け身をするクガツと、それを見ながら膝を立てて姿勢を立て直すルゥー。


 「……超常ちからはOKの闘技場だったか」

 「ニイチャン、ルールはちゃんと把握しときな。武器の持ち込みと、殺し以外は何してもええ。参った言わせた方が勝ちや」

 「先に切らせたから、判定はコッチに分があると思ってたがそう甘くはなさそうだ」

 「プロレスの心得があるのォ。ワシも好きやッ!!」

 

 再度駆け出したのはルゥー!! 両腕に大気が渦巻き、真空の塊二つをブン投げるッ!!

 クガツも漆黒の力が渦巻く両腕でそれらを叩き切る様に弾いた。


 そこへルゥーのとび膝蹴り!! 疾風の塊を弾いてすぐの腕では防御に間に合わなかったッ!!


 「モロだ!! ルゥー様の勝ち!?」

 「あの小僧、オダブツだぜ」


 顎から上がグチャグチャになったクガツ。脳漿を噴き出している。

 逆に言えば──クガツとクロスレンジのルゥー!!


 頭の無くなったクガツが跳躍するルゥーの足首を捉える。大男の足を握り、それを足場へと叩きつけ、さらに跳躍しもう一度直下させたッ!!


 「頭が無いのに動く!?」

 「oh!! ZONBI!? ZONBI・FIGHTERッッ!!」


 足場にめり込みになるルゥーに、今度はクガツの猛攻が止まらず襲い掛かる!!


 サムライブレードのような鋭利な手刀を繰り出す両腕ッ!!

 そのラッシュの最中に首から上に黒い瘴気を上げる──


 「あ、あれは!?」

 「カマキリ!?」


 鎌だ。蟷螂の前足のような鎌が1本、大木のような太さで形成されていく──ッ!!

 それが直下ッッ!! 宙を裂く重低音が、ルゥーへと叩きつけらたッッ!


 コロシアムを叩き割り、亀裂は一帯へと拡大していく。地盤を割って、崩落しさらにそこへと黒い鎌が3度直下したッッ!!


 液状化した地盤。その地中置くへとクガツは黒い力を流す。巨人の肩甲骨めいた岩片が跳ね上がる。

 平らになったそこへとクガツは着地。続いて、岩片の縁によじ登るルゥー。


 「こりゃワシも出し惜しみできないねぇ」


 泥だらけになったルゥー。


 「いや、創部から泥そのものを流している!?」

 「耳を澄ませてみろ。会場はクライマックスって感じだ! 抜けや、真剣」

 「良いだろう」


 奈落の底で巨星が姿を現すッッ!!

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