気色悪い独占欲だぜ 08

 クラウドノース郊外。管理区画の外でサラクとクガツは居た。

 そこへやってくるサスペンションむき出しの武骨な武装車。クガツはそれに向かい親指を立てて片腕を上げる。


 「おやおやお二人とも目にクマができてんじゃん。お盛んだね」


 からかうように言うミザリ。クガツは硬いソファの上で寝られず魔法の水を啜り、サラクも欠伸をして目元を擦っている。

 乗りな、と扉を開けられ二人は武装車に乗り込む。


 「暫く休みとっておいたンスけど、こんな早く作戦結構日決まるんだと後の日何するか迷いますね」


 クガツのぼやきに、ミザリはハッハッハと大声で笑って答える。


 「クラウドノースで遊ぶところって無いしな~。オフィスビルばっかりで、公共交通付近の地下で飯にするか……あとは港区付近で珍味巡りとか」

 「飯くらいしかないじゃないですか」

 「大人は飯くらいしか楽しみは無いのさ」

 「大学生くらいじゃないんです? そっちも」

 「大人になりたくねー」

 

 夏の熱気を押しのけて岩と砂の悪路を駆け抜け、フロントガラス越しには崖が垣間見えた。崖の外は岩場、だがいくつか人工物が垣間見える。


 「ちゃんとつかまっとけよ~」


 ミザリがそう言って一段階武装車の速度を上げた。

 

 「このまま行くんですか!?」

 「おう、もう作戦圏内だからね!!」


 車両が宙に飛び出した時だ。装甲を貫いて車両はバラバラになり、3人は中空に投げ飛ばされたッ!!


 青空と灰色の岩と砂。ボロボロの鉄格子のある一帯の奥から、目測1km以上の距離の先に──力の集中を感じるッッ!!


 「砂ダツの狙撃だッッ!!」


 砂ダツ。砂中を泳ぐ超常魚類の一種。だが、跳躍力が桁違いだ。この距離を突破するほどのデータは無い。


 クガツはサバイバルナイフを、サラクはカランビットナイフを取り出し肘と膝でダツを迎撃する。ミザリはやっとの思いで体を翻し、被弾を防いでいた。

 着地に備えたいが、ダツの群れが姿勢を崩す。


 「サラクッ! 俺の分まで防げ」


 クガツはそういうと黒い力を集中させる。サラクは宙を蹴って2人のやや前方へ位置取りを行い魚類の迎撃に徹する。


 黒く渦巻く力。クガツはそれを地面に向かってぶっ放した。岸壁が翻し、さながら畳替えしの要領で魚類の嵐を跳ね返す。

 着地するクガツ。周囲に目配せを行いながら呼びかけた。


 「問題ないか?」

 「なんとか」


 返事する二人。ミザリは息を荒げていたが、サラク含めて大きな支障はない様子だ。


 「ミザリさん。俺と、サラクが力を振るって庇える規模はどれくらいになる?」

 「ええ~。黄仙さんに聞かないとわかんないよ。まあでもジョウトウの砂浜でやった巨大化はやっちゃダメだろうね流石に」


 直立する岩壁に亀裂が走り、陽光が差し込み始めるッ!!


 「だろうなッ!!」


 岩壁が割れた瞬間に3人は駆け出した。クガツは進行方向へ無数に黒い力の矢を放ち、それらを纏うように並列してダッシュッ!!

 わずかに先を行く黒の矢達が砂ダツと相殺して空中爆散していくッッ!!

 

 「この様子だと、あと20秒後くらいにはダツの射出点に着くだろうな」

 「それだといいけど、そうもいかなさそうだよ」


 クガツの憶測に、サラクは目を細めて答えた。


 地中から巨大な砂ダツが飛び出す──いや、魚猿だッッ!! 類人猿の体躯と魚類のウロコを持つ生命体が足元から飛び出し、刃のような爪先がサラクの顎先へと向かうッッ!!


 「こっちを片付ける。先頼むよ」


 身体を捻り、肘で弾くサラク。同時に鎌のフォルムをしたナイフ突き出し魚猿の鰓を深く傷つけた。

 痛みに激昂する魚猿と、サラクの格闘戦。それを尻目にクガツとミザリはより一層速度を上げて駆け抜ける──!!


 目標地点のこり僅かッ!! 眼前に姿を現すのは巨大なエビ。ハサミからは砂が流れ出し、砂ダツが滝の様にこぼれ出ている。


 「無茶苦茶なスナイパーだぜ」


 砂ダツのショットガンが2人に向けられたと同時に、クガツも力を集中させ黒い矢が飛び出す。

 ハサミと甲殻を内側から粉砕して片腕を潰し、姿勢を崩したエビのもう片方のハサミへと黒い力をぶつけた。ハサミはひしゃげ、中に溜めた砂とダツの群れが重低音を上げて爆裂ッ!!


 「次はどうするよ?」


 二つの主砲を失った巨大なエビ。その頭部と背部の甲殻が開く。中身から姿を現すのは人型の影。人間ではない。無数の回虫が束になったような全長2メートルほどの物体が飛び出し、クガツの前方へと着地する。


 『……』

 「……行くぞッッ!!」

 

 クガツは駆け出し回虫人間と衝突する。サバイバルナイフで触手を斬り落とし、別の角度から繰り出される殴打を手刀と肘による打撃で迎撃。回虫の塊が重心を崩した所に黒い力の塊を数発叩き込んだッッ!!

 絶え間ないラッシュ。だが、回虫人間も動きを衰え指すところが無い。クガツの連撃に生じたわずかな隙に、数本の回虫が呼吸器系に侵入したッッ!!

 内側の粘膜を食い破り、喉笛と胸郭から回虫が内側から勢いよく飛び出したッッ!! 恐怖ッッ!!


 「ちょっとサァ!!」


 ミザリは携えた大型ショットガンを回虫人間へと放つ。虫の塊は吹き飛んでいったが、クガツの内側の虫らは呼吸器系から消化器系へと移るろうとしているッッ!!

 恐怖におののくミザリ。その背後に影──


 「どいて」


 サラクはミザリの肩に手を当てそれを引き、一気に飛び出した。激痛の中、宙を仰ぐクガツと視線を合わせて目配せするサラク。同時に、白金のような光の塊を上空で集中させ、クガツの方向へと叩きつけたッッ!!


 圧倒的なエネルギーの奔流に飲まれるクガツと回虫。肩から頭部だけになって砂場に撃ち捨てられるクガツに近寄り、サラクは髪の毛を鷲掴みにして拾い上げる。


 「痛ェ! 丁寧に扱いやがれ!」

 「はいはい、早く再生して早く」


 肩の部分から胸、腰、脚へとクガツの身体は再生していった。骨が伸びて、臓器や血管、最後には筋組織と表皮がそれらを包む。


 「お前、遠距離系の技も使えたんだな」


 肩と首の関節を鳴らしながらクガツは付近のボロ布を拾い上げ、フルチンの身体を覆う。


 「例えば2つ目、3つ目の肉体らがあったとして、その代謝エネルギーのみを顕現させて集中させれば、アレくらいはできたっぽい」

 「退屈しなさそうじゃん、その体質」


 クガツはショットガンの直撃を受けた回虫の塊を確認する。わずかに動きはあるが、もう人に襲い掛かる勢いはない。おそらく、この炎天下の中では湿潤環境をベースとした生命体には限界があるのだろう。

 頭と背部をL時に割って沈黙する巨大なエビも微動だにしない。


 「ミザリ、狂暴化した原生生物ってのはコイツらで全てだよな?」

 「え、ええ」

 「だったらこの先……ちゃちゃっと旧FPアーカイブス復旧に取り掛かろうぜ」


 三人が視線を移すのは不自然な平面をした砂と砂利の一帯。わずかに継ぎ目があった。

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