気色悪い独占欲だぜ 07
眉にしわを寄せて、民宿1階のエントランスでトリップウォーターをすするのはクガツ。夜風も湿度を多く含み、頬を伝う汗も噴き出しつつあった。
ことは数時間前。
シャワーで一日の汗を洗い流し一息ついたところのクガツに、ケツ目掛けて鋭い蹴りが叩き込まれる。
「イテッ! テメェ!!」
「エントランスにソファあったでしょ! そこでアンタは寝んの!」
サラクは扉の外を指さし、クガツの背中を押し出して扉をロックした。携帯端末を取り出し、連絡をしても既読スルー。
「あの女、良い根性してやがる……」
じっとりとした大気の中、新しく瓶を空けたクガツの携帯端末に振動が伝わった。端末の画面には部屋に来い、という簡素な一文だった。
扉をノックし、ぶっきらぼうな足遣いでクガツは扉を開いた。
「オイ、どうした?」
大きく開いた窓と、二つ並んだベッド。片方のベッドは未使用でシワ一つ無いが、もう片方の人一人分がくるまれたそれには暗い染みが広がっていた。鮮血の香りと、月明りに照らし出される赤。
「おい、お前? お前大丈夫かよッ!!」
駆け出したクガツがシーツをはぎ取ると、腹部をパックリと裂いて臓器をむき出しにする少女の遺体があった。
特徴のないダークブラウンのセミロングをした少女──藍河サラク以外の何物でもない。
「マジかよ……。どうするか」
親指の皮を噛むクガツ。独り言は続く。
「一旦ポリに連絡入れるか……いや、この宿の責任者か……」
「焦ってるの?」
「そりゃ焦るぜ。同年代が死ぬんだもん」
「アンタ、何回もアタシ殺してたってのに焦るんだね」
「あ? ああ。そりゃあ。ええッ!?」
クガツの横には、自分の死体に視線を落とす少女の姿があった。遺体の少女と姿が何一つ変わらないセミロングの姿だ。色気のないパジャマ姿だ。
「言ったでしょ? あたしは輪廻の超常者だって。これも何かの手がかりにでもなるかな~って一回殺されておいたの」
サラクは遺体に近寄って腰を下ろす。白の薄手の手袋をしてバックリと傷を開き臓物を露出させる部分へ指を伸ばした。
「結構思い切った手口だねコレ。少なくともそこらの包丁じゃムリだ。対超常体ブレードか何か……だとすると結構大きな柄物になる。それを音も立てずに持ち運んで瞬時に姿を消すだなんてかなり絞られるだろうな」
ぼやくサラクにクガツは腕組みをして言う。
「なんだよそれ、一回殺されておくって……マジでビックリしたぜ」
「でも意外。あんなに取り乱して、あんたにも結構可愛いところあるんだね」
茶化すようにそう言ってサラクは顎に指を添えて思考を巡らせた。
「アタシのやろうとしてることが何者かにバレて、それが気に食わなかった……とか?」
「やろうとしてること? そんなこと言ってもなぁ」
クガツも少女と同じしぐさをして考える。
「今俺らはFPアーカイブスに協力して、膨大なデータの復旧をやろうとしている」
「そうだね」
「例えば、以前FPアーカイブスと関わりがあり、その頃の”以前の経歴”が弱みとなっている人や組織が居る……とか」
「それなら、あの黄仙が言っていた”旧FPアーカイブス”そのものを破壊しない? あの胡散臭いおっさんの情報が遅くない限りさ」
「それも……そうか」
考えても仕方がない。そういってクガツは少女の死体の方へと歩を進める。苦悶の表情一つを浮かべておらず、まるで初めからそういう作り物とでも言って違和感ない死体のオブジェのようだ。
「そういやコレ、お前どうやって消してるの?」
「こう、ピって」
サラクは自分の死体に指を二つ向け、それを払った。同時に、少女の死体は蛍の光のように発光し、光が弱まった頃には肉体は世闇の中へ溶けていった。
「便利なもんだな」
「シーツの汚れは取れないけど、まあ誤魔化しが効く範疇でしょ。アンタが血尿のおもらしをしたとか」
「しねーよそんなの」
「ともかく、翌朝から昼にかけてだっけ? 地帯偵察兼制圧の応援。一応アタシ、その旧データの中に不眠症を解消できる医師期待してからさ」
「とりあえずシャワー浴びていいか?」
「ええ。終わったらエントランスのソファ行っててね」
「チッ」
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