気色悪い独占欲だぜ 06

 FPアーカイブスが手配した宿は安宿も良いところの寂れた内装だった。

 まるで倉庫を改修したかのような小さな空間に2団ベッド。コインを入れることで電源が時間制限性で復旧する粗末な一部屋だった。

 唖然とするクガツ。


 「上にしようか? 下にしようか?」


 サラクにそう言うクガツ。対してサラク。


 「いや、ここはムリ。マジで」


 じんわりと肌に染み付くシャツをはためかせて一帯を2人は後にする。

 宿を出た周囲は雑居ビルと汚いコンクリート壁に囲まれた一帯だ。茶色く色のついたロープが周辺に張り巡らされ吊るされたシャツが陽の落ちる暗い空に沈んでいる。


 「ホントにここ管理区画内かよ?」

 「趣があっていいじゃないか」

 

 クガツのやや先を歩くサラクが足を止めたのはデカい硬骨魚類の看板が掲げられた酒場だった。


 「2人、いけます?」


 サラクが細い指を2つ立てると、中の従業員は未成年は……とモゴモゴと口内を動かし言葉を選んでいる様子だ。クガツが切り出す。


 「炭酸水2つと、サシミの盛り合わせ2人分。宿泊先の目星が付けば出ていきますよ」


 店内は煙たい大気が渦巻く木製づくりの庶民派酒場だった。自分よりいくつか年上の男女グループが大声を上げていたり、おじさんに片足突っ込んだ男性のみの集団が下品な笑いを上げている。

 冷えた2つの炭酸水がさしだされ、クガツはそれに手を伸ばしながら端末の操作を開始した。


 「ツインでいいよな?」

 「は? なんでアンタみたいなキモいのと一緒にならなきゃいけないわけ?」

 「……別室高いんだよ。悪かったな」

 「……差額は?」

 「これくらい」


 クガツは端末の画面をサラクに見せつけた。拳を口元に添えて思考するサラクは数秒沈黙した後に言った。


 「しゃーねーな」

 「当日料金は高いな。アレだったら外の休憩所のソファで寝るから、俺」

 「いいよ別に」

 「じゃあ、このまま予約取るから」


 そう言って再度炭酸水を呷ってからクガツは黙って端末の操作に取り掛かった。

 退屈そうに内唇を噛むサラク。その鼓膜には、ラジオの音が響く。陰謀論めいた内容や、鉄道の運行状況についてが主だ。


 「実際中央管理って何してるわけ?」

 「……」

 「ほら、なんか忙しそうに中央は人手が足りないとか言うけどさ、やってること一切わかってないじゃん? ウチら一般生徒はさ」

 「……」

 「ちょっと今の笑うところだよ?」

 「古い端末でタップが暴発するから神経使うんだよ。で、なに?」

 「なんとも?」

 「……中央管理のやってることか?」

 「聞いてんじゃん!!」


 クガツは得意げにピースサインをサラクに見せつけた。


 「うざ」

 「ジョウトウは非バリアントに向けた兵器開発をやっていてな。ホワイトフロントなんかは共同開発で送ったりもしてたよ。そっちは? 西櫻会と中欧管理の関わり」

 「あー。特に無いかな」


 サラクも炭酸水を飲んでから宙に視線を移す。


 「なんかあったかな~。薬剤開発? 膵臓の代謝系に関するカピパラの変異体のデータとか送ってた気もするケド、もう半年前だったかな」

 「それの技術情報を本土に還元してる、とか」

 「まあ、そうだよね。結局知ってること以外でてこないな」


 二人の前に並べられた赤身と白身の生魚の皿には刻まれたワサビと生姜の盛り合わせがあった。

 サラクはそれらを手元の小皿につまんで移し醤油と混ぜるが、クガツはそれに箸をつけようとはしない。


 「あんたワサビ苦手なんだ」

 「肉料理も魚介も何もシンプルな味付けに限るぜ」

 「案外おこちゃま舌なんだ~。かわい~」

 「そうだろ?」

 「きっしょ」

 「……」


 クガツが白身に醤油をつけてそれを頬張った。


 「やっぱジャンクな油飯とか、保存食に火通しただけの飯とは風味が違うな。腹には貯まらないけどさ」

 「軽食程度で済ます予定だったし、こういうのがピンズドだったよ」


 2人が会話をしている最中、ラジオは次の話題へと切り替わっていた。


 『では、次の話題。下がり続ける欧州の時価相場ですが、本日も前日と同様のラインを推移。原因と考えられるのは欧州一と語られるジンク・ホールディングスの信用低下でしょうか──』


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