気色悪い独占欲だぜ 04
久住クガツはホワイトフロントの廃棄ナンバー0504を追ってジョウトウグループの地帯を離れたところだった。
陽が頂点手前に昇り始める正午少し前、ジョウトウグループとクラウドノースの中間の駅で電車が緊急休車した。
『線路で原生生物の
下唇を噛むクガツの顔を覗き込むのは横に並ぶ藍河サラク。
「あらあらどうしたのクガツちゃん。ゴキゲン斜めだねえ!?」
「このままだとタクシーか、最悪徒歩だ」
「えぇ~!? それは困るよ!!」
「だから困ってんの! もう……ちょっと足探すわ」
クガツは携帯端末を使い移動手段の検索を始めた。ユニオンムーで観測される超常物は人と無機物に限らない。火を噴く巨大カエルも居れば、空を泳ぐ電気ウナギも居る。
「
サラクが問い、クガツが端末に視線を落としままいう。
「暴れてる生き物1匹始末しても、安全確認の遅延も長引く。さっさと切り上げるに限るよ」
「それもそうか」
「これとかどうだ?」
クガツがサラクに見せる端末の画面にはワイルドな武装車両の画像だった。サスペンションをむき出しにして沼地を翔る躍動感の凄まじいイメージで、こうみえてもタクシーとして使われている。
ユニオンムーでフィールドワークをする学生や学者の利用するポピュラーな移動手段だ。
「あーもしもし、タクシー2名お願いしたいんですけど……はい……分かりました。駅は──」
不服な感情が駅のホームからあふれてにじみ出る頃、改札の外にいるクガツとサラクの前に装甲車が1台現れた。中から姿を見せるのは黒のタンクトップ姿をした女性だ。ブロンド髪をしていて20前後といったところ。クガツやサラクよりも2まわり年上ぐらいの背格好をしている。
「いやーこの度はありがとね! さっ。乗って乗って」
快活な表情でブロンド女は車両の中へ案内し、クガツとサラクはそれに誘導されるよう歩を進める。
「アタシはミザリ=グランバーグ。クラウドノースのぉ……便利屋みたいなモンをしてる! 兄ちゃんらは何処へ?」
「ノース港の中華街へ向かってます」
クガツは作り笑いをして答えた。
「へえ~中華街はノースの観光スポットだしね~」
「レモン果汁のトリップウォーターとアツアツカリカリのエビチリを食べ歩きしたくて」
「何件くらい回るつもりだい?」
「4件」
「やっぱりアンタら”同業者”だね?」
揺れる車両の中、ミザリと名乗るブロンドの女は静かで座った声色でそう言った。
対するクガツ。
「ええ。自分もジョウトウでちょっとした小遣い稼ぎをしています」
「そっちの嬢ちゃんは? アンタの女ってワケでもないだろう」
腕組みをして呆けた顔をするサラクも、その声色にハッとして答えた。
「付き添いだけど、不眠がすごくて。良い医者が居れば相談したくて来てるよ」
「なるほどな。お盛んなワケだ」
「同性とはいえ初対面の相手にセクハラはどうかと思うよ」
「ハッハッハ」
一つ大きな岩に右側のタイヤが乗り上げ、大きく揺れた後にミザリは言った。
「あらためてだけど、キミらが寄りたいのはどこ?」
「市内南ゲート手前のグレー区画で降ろしてもらいたい。そこからは自分らでどうにかするよ」
「なるほど。お節介だったら悪いけど、FP《ファジー・フィールド》アーカイブスにも掛け合ってみようか? ここら付近の情報屋ともなればアレ以外思い浮かばん」
言葉を詰まらせて硬直するクガツ。
「丁度そこへ行くつもりだったんだ。手間が省けて助かるよ」
「いいのいいの」
軽快に笑うミザリと、砂利と礫と岩石の乾燥地帯が車内をせわしなく揺らす。
(大丈夫なの? 今回は一流の情報屋からアンタの兄貴分に関連する情報を聞き取りだすって話だったけど)
クガツに耳打ちをするサラク。潜めた眉が警戒アラートを上げている。
(とんとん拍子すぎるってか?)
(なんか裏があっても知らないよ私)
(まあ、なんとかなるでしょ)
オフロードタクシーに乗り数十分が経過した頃だ。出発地点の方から大気を震わせるバーナー音を上げて機影が空を切り裂く。
3機の起動兵装が、線路上に出現した問題源に対して武力制圧に向かう道すがらを3人は窓越しに目の当たりにした。
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