お前もブレインの使用権を求めて 13

 巨人同士の大激突から3日後。学園の昼休憩にクガツは屋上に呼び出されていた。黒い男装をした女の前に、クガツは正対する。


 「例の夜の取り扱いはどうなる? 失敗か?」

 「いいや。K3と正面を切れる武力があることをジョウトウグループはアピールできた。会談はジョウトウにとっても良い落としどころに取引をすすめることはできた」

 「なるほど。だったら──」


 クガツが上ずった口調で切り出すところに、女は静すように割り込んだ。


 「でも、優良可で言えば、可ってところとなる」

 「なんだと?」

 「そもそもK3を完全鎮圧できれば、もっと会談は優位に進んだだろう。それに、あの大激突だ。裏の人間だけでなく、一般市民も巻きこむほどの規模。死人は出ていなかったが、セントラルが知らないわけではない」

 「……ともなれば、報酬は取り上げと」


 口をわずかに尖らせて言うクガツ。


 「そうとも言ってないが、結果的にはそうなってしまった」

 

 淡々とした口調だったが、男装の女は申し訳なさそうにしている。


 「ハイパーブレインの破壊が確認されてな……」

 「なんだと……!?」

 「何も隠そうと、ハイパーブレインが破壊されたとしか言いようがないんだ。ジョウトウとしても今回は君に世話になったんだ。何かしら根回しを行って、使用権を渡したいところだが、ぶっ壊されたんならどうしようもない」

 「何を目的に破壊したんだ? まるで意味が分かんねえぞ!!」

 「私も何もわからん。でも、一つ仮説を立てるなら──」


 男装の女は細長い指を一つ立てて言う。


 「元々、『ハイパーブレインがあると面倒な何か』の様なものが出来てしまった。例えば、超難解なパスワードをした金庫とか。それと同時に、ハイパーブレインを破壊するだけの猶予をもたらす”何か”が起きたら都合がよかった。例えば、秘密裏に動くため、陽動として動いてくれる目くらましが欲しかった……とか」

 「その陽動が俺と、あのサラクの衝突ってわけか?」

 「どうだろうね。でも、君のブレインを求める欲求。セントラルに厳重に管理されているハイパーブレインの破壊……いずれを十分に把握している人員ともなれば、中央管理局セントラルの一員か何かって線が妥当なところだろう」

 「……まあいいや。アンタらジョウトウの下っ端は雑な仕事しか寄越さない。それが分かった」

 「すまないね。軍用費は可能な限り補填するよ」


 男装の女に背を向けて去ろうとするクガツに、礼服の女が封筒投げつけた。

 一度、女の方を睨むクガツ。足元のそこへ落ちた封筒を手にするクガツは言う。


 「金か?」

 「せめてもの気持ちだ。内容は、4世代型起動兵装、ホワイトフロントのロットナンバーだ。5世代型の実践投入がされる現代でも、広い状況下で採用されるジョウトウグループの傑作機」

 「知ってるさ。それも既に掴んでいる」

 「……それの開発中、悔しくも製造工程で失敗した破棄。番号を持たない機体についてだ。言うならば破棄機体。それはクラウドノースを経由して違法整備され、ある戦いに投入された」

 「それって──!!」


 クガツは封筒から書類を取り出す。数枚の書類に細かく英数字が書き記されている。


 「機体番号04-WF0504。その機体は、ジョウトウが正規生産した物と……キミの追っている機体と2つあった。クラウドノースを経由して捏造された亡霊の機体」

 「……ッ!!」

 「呉土シラタカの駆ったホワイトフロントの育ちの地についてだ……!!」


 午後の授業を告げる予鈴が鳴った。それを聞いたクガツの前から、女は姿を消していた。

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