お前もブレインの使用権を求めて 12
ゴジラVSキングコング。それがトレンド入りする頃、2つの巨人は大気と大地を揺るがして攻防を繰り広げていた。
浜辺とその波打ち際はグチャグチャだ。
黒い巨人が大口を開け、物質同士の連結をバラバラにする高エネルギーレーザー砲を噴出し、白の巨人の上半身を見事に貫く。
その次の瞬間には、白の巨人の肉体は再生しその美しい白い巨体を駆り、黒い巨人へとヘッドバッド!!
その隙きに乗じ、白の巨人は怯んだ黒い巨人の背後に周った。胴部を両腕でつかみ込み、背筋の力で身体を反らしてバックドロップを繰り出した!!
宛ら犬神家のように静止する黒の巨人は、その体制から触手を伸ばす。白い巨人の肉体を貫き、それらを破り散らす様に引き裂く。
だが、その次の瞬間には白の巨人は再生して、黒の巨人へとつかみかかる。
黒の巨人を下敷きにする白。マウントポジションだ!!
RASH!! RASH!! RASH!!
神殿の主柱のような太さの両腕から繰り出される渾身のストレートの乱打!!
「うおおおお! なんだアレ!」「マイク=タイソン!?」「これはキビシイ! 早く抜け出したいところダァ!!」
熱狂する野次馬。それらを吹き飛ばすほどの地ならしが巻き起こるッ!! 白の巨人の渾身の一撃が、黒の巨人の肉体を捉えた──その瞬間だった。
黒い巨人のズタボロになった創部が再生し、それはあの異形めいた複眼の頭部が浮き上がったのだ!! 大口を開けた頭部が黒いの極太レーザーを噴出し、白の巨人の上半身を消し飛ばした!!
身体を跳ねさせるように跳躍し、上空で身体を翻して体制を整えた。
着地。その眼前には、再生した白の巨人。
しかし、白の巨人の再生も鈍り始めていた。3対の翼は、もはや右腰部の1枚だけとなっている。
『限界みてェだな……!!』
『アンタもな』
対する、黒の巨人も限界だった。先の超速超質量災害級ラッシュをモロに浴びて、全身複雑骨折の開放骨折。タールのようなドロドロとした体組織が滝のようになって海へと落ちている。
それでも、黒の巨人には片腕と、両足が残っている。空間をグズグズに崩れさせるような力の集中が、片腕へと流れ始めていた。
『終わりにしよう。藍河サラク』
『同感だね。久住クガツ』
白い巨人も、残り僅かな力を振り絞り……生物に本能的なエデンを感じさせる陽光を片腕へと集中させていた。
2つの巨影。その足元の海水が、津波のような飛沫を上げた。力と力との衝突が巻き起こり、重低音の大気が潰れる物音と、海と浜辺を割って、黒と白の旋風が夜空の雲を巻き込んでいく──!!
吹き飛ばされた野次馬が、ビル壁にもたれ掛かるようにして倒れ、ずぶ濡れになっている。ひっくり返った自動車が車道を滞らせて当たりからはクラクションが鳴り止まない。
グチャグチャになった砂泥と海水の中心で、二人の少年少女らが空を仰いで横たわっていた。
「……生きているのか?」
先に上体を越したのはクガツ。弱々しい挙動で、今にも倒れそうだった。
「殺すのか?」
その姿を見て、サラクはそう言う。
「……」
クガツは震えた指をポケットへと運ぶ。だが、その中にはサバイバルナイフはない。
一度、バツの悪い顔をしてからクガツは一帯から抜け出す方向に足先を向けた。
「……待っていろ」
そう言われたサラクは、そのまま動かないでいた。全身筋肉痛を超え、魂のレベルで存在が軋んでいた。
「負けたのかアタシ」
星空がキレイだった。特別大きく輝く3つの星の名前が脳裏に浮かんでこない──そんな疲労感だった。
「ほらよ」
帰って来たのはクガツだった。胸部か頸部へとナイフが沈み込むかと思えば、無機質な冷たさが頬をなでている。缶コーヒーだ。
「飲めよ。それとも、ここでフタを開けて上から口元に注いでやろうか?」
「自分でやる」
頬に当てられたそれを奪うようにして手に取るサラク。品のないゴシック調の文字で微糖とプリントされてあった。
プルタブを立ててから倒し、それを喉へと流す。
「今回はオレの勝ち……それでいいな?」
「ああ!?」
「よせよ。今回だけはオレの勝ち。オレの勝ちにさせてくれ、そうさせてくれ」
「なんでだよこっちも任務なんだよ!!」
「……疲れたんだよ」
少女の横へ腰をおろし、水平線の向こうへと視線を送る少年も、微糖のコーヒーを喉をならすように呷っている。
「この微糖らしからぬ甘ったるさ。友達……みたいなやつが好きでいてさ。いいもんだろう?」
少年の問に、少女も答える。
「ちょっとうまいけど……だけど」
「……んじゃ、今日はもうお開きにしようや。もう悪いことそんなよ」
クガツは腰を上げて、一帯から去ろうとする。
「ちょ、待ってよ!!」
「なンだよ!! オレは帰るぞ! 汗と海水でグズグズなんだ。シャワー浴びてェんだからガタガタ言うな!」
「それはアタシも一緒でしょ!」
「知らねえよ。もしかして雇い主からなにかペナルティがあるから、オレに負けてくれってんのかよ」
「そ、そう! ソレ!」
クガツはやっぱりそうだよな、とぼやいてから顎に指を当てる。
「お前さんも同業者でしょ。もしなんか面倒なことになったら協力してやるから、今回だけはオレの勝ちで帰らせてくれ! コーヒーもおごっただろ!」
「何一方的に言うだけ言って! ちょ、オイ!!」
街の喧騒の方へ歩を向けるクガツ。サラクは切り出した。
「じゃあ協力しろ。この私の
「お前もブレインの使用権を求めて……」
振り返るクガツは、顎に指を添える。深く思考を巡らせるためか、やがて口元付近を掌で覆ってから沈黙する。
「また今度な。長話を聞く余力もうねえんだわ」
そういって久住クガツは一帯を去った。
藍河サラクは沈黙する。一度、甘ったるいコーヒーを呷ってから沈黙し、ただ水平線と空の星々を眺めてから眠った。
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