お前もブレインの使用権を求めて 11

 夕暮れを背後に行われるハリウッド映画のようなスタント! コンバットシーン! その十数分前に打ち上げられた謎の花火が、ジョウトウグループ区域のSNSでは話題が沸騰していた。


 雑居ビルの頂上。柵に両肘と背中を当てる白衣の少女が居た。そして、それに近づこうとする男装の女。


 「急な予算変更があったから間に合ったよ」


 白衣の少女はそういう。


 「花火は久住アイツの指示か?」

 「うん。アシがつかないやり方で、ぶっぱなした。その後のミサイルと生体パルスも全部」

 「なるほど」

 「それにしても……」


 少女は一度柵から体を離し、反転させてから両肘をついた。目線は柵の向こう側、浜辺の方向だ。


 「会談の場所と日時か急な変更をされたのはなんでなの?」

 「詳しいことは言えんが、爆心地センターの調査の人員配置の問題で今日のほうが都合が良かった……とか、あるいは今回の会談で我々の知らない”情報”をダシし新しい取引を持ちかけたか」

 「……一番の目的は?」

 「それは、久住クガツ彼そのものの対策だろう」

 「アイツそのもの」


 男装の女は指を交互に絡め、柵の方へと肘を落とす。視線の先は浜辺、似たようなポーズをしている。


 「やつは獣の超常者バリアント

 「よく外部移植されるやつじゃん。金の無い孤児ガキがウラでやっていくために」

 「そうなのだが、彼自身の因子か器質かなにかがあったのか、実に馴染んでね。クガツと作戦対象……2つのバイタルの反応的に、そろそろだろう」


 ────

 ──

 ─


 片腕を失い、片足は開放骨折。ナイフを握る手も震え初め、クガツは限界に近い状態になっていた。


 対して藍河サラク。数秒前に脳天を黒いレーザーで貫かれ呼吸器中枢を機能停止に持ち込まれていた。

 ──が、浜辺の居住区側のコンクリート壁にはピンピンとした健康な状態となったブロンズボブの中肉中背の少女が腕を組んで、ズタズタになっているクガツを眺めていた。値踏みするような視線だ。


 「運動能力をそがれても、黒レーザーだけで一定以上の立ち回りはできるとは恐れ入るな」

 「うるせえ!!」


 黒い閃光が夜闇を裂いて複数本、音もなく射出される。

 少女はそれを最低限の体捌きで回避。足場が砂場ともいうのにその身のこなしは凄まじい速度だ。


 横方向へと跳躍し、膝蹴りをクガツの頸部へと叩きつける。凄まじい速度だ。その一瞬で、クガツはナイフを捨てなければ防御に間に合わないと判断し、片腕に握ったサバイバルナイフを投げ捨て、腕を畳んで頸部へのモロをカバー。

 前腕の中心が開放骨折し、クガツは海の方へとぶっ飛ばされた。


 「勝負あったな」


 少女が独り言の様にそう言い、続けていう。


 「任務内容の変更が通達されて、詳細を聞いたときにはビックリしたよ。なんたって特別強い【獣の超常者バリアント】だとか言うから、それを拘束する目的で現場を移すってんだもん。でも、もう見る影も無いね。1on1だったらいつでもぶっ殺せるし、そもそもアタシはタフだからね」


 波打ち際でうつ伏せになるクガツ。潮が満ちて引いて……海水に顔を沈めているときにはわずかに水疱が沸いていた。


 「諦め悪いじゃん。でも、ガッツある男はちょっと好みかな」


 少女は死にかけの少年の方へと地下より、かがみ込む。


 「じゃあね。アンタ、強かったよ」


 手に握ったカランビットナイフの先が月明かりで光沢を放ち、次の瞬間にはクガツの頸部へと振り下ろされていた。


 グサリ、と手に伝う肉を裂く感触。少女がそれを感じた時、同時に違和感も伝わっていた。


 刺突された頸部から黒い肉芽がボコボコと再生しており、宛ら沸騰したタールのようだった。

 次第にそれらは筋組織のように組織の質感を変え、ナイフごと少女を飲み込もうと超速再生を行った。


 「なっ!!」


 一瞬の隙に餌を飲み込む底生生物魚類の様に、黒い筋組織は少女の体を飲み込み、バキバキと骨と肉を砕いて引き裂く音を上げた。


 台風のように渦巻く筋組織。漆黒の竜巻を眼前に、腕組みをした少女がそれを眺めている。ブラウンボブの中肉中背の少女だ。


 「なるほど。さっきのはアタシが迂闊だった。まだこんな手札ものこしていたとは」


 落ち着いた口調でそう言って居たが、突如、黒い竜巻から影が伸びる。

 それは凄まじい速度だ。警戒を怠らなかった藍河サラクの頸部、右胸部、下肢の複数を貫いている。しばらくしてから、串刺しになったそれらを取り込んで、台風はより一層力を増していく──!!

 

 『グガァアアアアアア!!』


 旋風が晴れた時、竜巻の中心に居たのは体長50m前後の巨体を持つ黒い異形。大型霊長類のような体躯とシルエットをしているが、表皮はなく筋組織がむき出しだ。いたるところから複数の触手を生やして、それがゆらゆらと夜闇の風を浴びるようにして揺れている。

 頭部。爬虫類のような骨格をしているが、複数の眼球がギョロギョロと動き回りあたりの動きを確認している。


 「まずッ!」


 付近にすでにそこに居たかのよう現れる藍河サラクを確認すれば、秒を数えないほどの速度で触手が伸びる。彼女の脳天を貫き、その後触手はブブブと振動するようにして串刺しになった肉体をバラバラにした


 少女がバラバラになる次の瞬間には、また別の位置にいる少女がバラバラになる。

 少女がバラバラ担った時には、次の数秒後に次の少女が鋭く伸びた触手によりバラバラになる。バラバラ事件の連鎖ッ!!


 『グガア!!』

 「うぐっ!」


 何十人目かの藍河サラクが、体に突き刺さる触手を両腕で握りつぶやく。


 「ようやく動きには慣れてきたぜ。でも、近づけそうにないや……」 

 『ウガアァアア!』


 絶命する少女。その影から、また同じ様相の少女が現れるも、彼女も胴部を触手に貫かれ吐血した。


 「埒が明かねえや。教えてやるよ、久住クガツ……アタシは【輪廻の超常者バリアント】だ」


 浜辺に散らばった少女の肉体が、一点へと集中していく。黒い巨人の内部からも肉体が体を破って飛び出して、その中心点へと引き込まれていく!!


 「半永久的に蘇生する肉体と生命エネルギー。次の転生先のパワーを前借りしてフィジカルを強化していた。だが、それだけじゃこの体格差は埋めきることはできない……」

 『グガァ……』


 黒い巨人の眼前、少女の肉体を取り込んで渦巻くのは純白の旋風ッッ!!

 まるで天国を思わせるような暖かな光が夜闇を引き裂き、竜巻の大きさは黒い巨人にまさるとも劣らない規模へ──!!


 『超えてみせる。超常者バリアントとして、己の限界を超える試練……。藍河サラクは、久住クガツを倒す』

 『ググガァ……』


 現れたのは3対の純白の翼を生やした白い巨人。ギリシア彫刻のような美しい白い体躯をした節々から、いたるところに眼球が点在している。

 黒の巨人の眼たちと、白の巨人の眼たちが睨み合っていた。


 『む、ムチャクチャじゃねえかよ……!』


 地獄の門が開くような低音で、黒い巨人はぼやく。


 『喋れンのかよォ!!』


 白い巨人が、その巨体と見合わぬ速度で踏み込み、頭部へフックを繰り出したッッ!!

 黒い巨人はぶっ飛ばされ、浜辺に身体を打ち付けるたびに地ならしを起こす!!


 『最終ラウンドだ!! かかってこいよゾンビ野郎!!』

 

 白い巨人は中指を立てて咆哮を上げる。対する黒の巨人。頬を拭ってから膝をついて立て直す。


 『上等だクソ女ァ!!』

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