お前もブレインの使用権を求めて 10

 『なんだよアレ!』『映画!?』『あのチョー可愛くね!?』『あの坊っちゃんも素敵だわぁ~』


 ビルの屋上から大通り、場所を選ばす久住クガツと藍河サラクは絶え間なく攻防を広げていた。

 ときには上空へ跳躍し距離を離そうとすれば片方がビル壁を蹴って追撃に入る。


 お互いがお互いの退路を断つように、今ココで制圧するという研ぎ澄まされた殺意を握りしめナイフはそれに答えようとする。


 「ラァ!!」

 「うぐぅ」


 クガツの振りかぶったナイフが、重々しく宙を切ってサラクの片腕を分断した。同時、サラクも刺し違うような行動選択でカランビットナイフをクガツの喉笛へと叩きつけた。


 「あがァ」

 「フゥーフゥーフゥー」


 クガツの首からカーテンの様に溢れ出す鮮やかな流血。宛らナイアガラの滝。サラクはうずくまるクガツを眺めなら、カランビットナイフを強く握りしめる。


 「終わりだァ!!」

 「ッ!!」


 トドメがそこだと、飛びかかった少女。その脳天に対し、黒い閃光が突き刺さる。朦朧とした意識の中、クガツは力を練ることを怠らなかった。


 (短気で助かったぜ。でも、これで殺したのは何回目だ? ビルでの不意打ち、ビルの落下と同時に首と飛ばしたとき、そして今回で3回目……意識が飛びそうだぜ)


 クガツは上着の裾を首巻いて止血を行う。周囲は大通りの広場だ。噴水付近の石造りの段差にクガツは腰をおろして、耳元に指を添える。通信用インカムで連絡を行うためだ。


 「が、アア。藍川サラクを3度殺した。生体反応は?」

 「アタシは今あなたの隣にいますよ」


 今にも倒れそうなほど消耗したクガツ。彼が座るその横に、藍川サラクも並ぶように座っていた。傷一つ無い珠のような柔肌を半袖の制服から露出させて。


 「あ、アア!?」

 「ラウンド4。途中休憩はナシだぜ!」


 サラクはカランビットナイフの先端をクガツの腹部へと深く沈めた。吐血する頸部に対し手刀をぶつけ、よろめいた身体に向かい大きく振りかぶった蹴り上げを叩き込む!!

 クガツは上空の満月へと吸い込まれるように吹き飛んだ。流血と朦朧とする意識。空の中で不快感の海に沈み込んでいた。

 サラクは駆け出す。段差に力を込め、一度ビル側壁へと飛び出す。それを蹴って、クガツの方向へと飛び出した。


 打撃、ナイフ、打撃、ナイフ、打撃、ナイフ!!! とめどないラッシュが上空のクガツを襲う!!

 再び大きく振りかぶってサラクは横方向へとクガツを蹴り飛ばした。

 ビル側壁のコンクリート素材を割り、ガラスを割り、街路に植えられた樹木を叩き割りながら水平方向にカッ飛んだ!!


 「まだ終わりじゃねえぜ」


 藍河サラクは自身が握ったカランビットナイフの先を己の頸部へと付きたて、エグるように喉笛から咽頭、咽頭から上顎、その先へと向かって押し込んだ。

 絶命──


 次の瞬間、運動エネルギーに身をまかせボロボロになってカッ飛ぶクガツの頭上にサラクは出現した。その膝をクガツの頸部へと叩きつける。


 自然落下運動に任せ、ゆるい角度で車道に滑り込む。宛ら人肉サーフィンッ!!

 

 文字通り首の皮一枚でギリギリ人型の形状を残しているクガツに、サラクは力のこもった拳を低めに構える。アッパーカットだ。コンクリートの地面をえぐるかのような軌道でそれをくり出した。


 放物線を描いて、クガツは商業区から浜辺の方へと向かっていく。


 (オレは……死ぬのか?)


 味わったこと無い時間感覚だ。1の次に3があるような、3の次に4があるときにはまだ1秒も時間が経過していない……生命活動レッドアラームの時差酔い。


 「なるほど。君の能力はだいたい分かったよ」


 軽い足取りでクガツに近寄る藍河サラク。


 (苦ッ! 来るんじゃねえッ!!!)

 「まずは近接戦闘能力。柔軟さと鋭さもそうだけど、場馴れしていて行動選択が速い。次に、物質を押しのけて放射される黒いレーザー。指から出さなくてもどの位置からどんな方向、角度へも射出が可能な特徴がある。これらを同時併用された場合には、生身じゃ捌ききれない。当然カスるか、致命傷を受けるのは時間の問題だ」

 (……ッ!)

 「そして──」


 少女は自分の首元へと人差し指を突き立てる。サラクの目に映るクガツの頸部は、肉芽が盛り上がって癒合していた。


 「超再生。これは、一体なんの超常者バリアントだろうね」

 「お前も似たようなもんだろ」


 血の混じった痰をクガツは吐き捨て、戦いの構えを取って吠える。


 「第5ラウンドだ。かかってこいよ屍体女」

 「……まだ、第4ラウンドの最中だよ」


 藍河サラクもナイフを固く握って、脇を締める。

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