お前もブレインの使用権を求めて 09

 PM 18:54 ジョウトウ第13ビル45F。

 大きなガラス窓から覗く眼下には、広がったビル群と、むき出しの配管から蒸気が空へと登る。その宇宙も、茜色に染まって暗く夜の色に染まりつつあった。


 「いやぁ、悪いね。急に招集して」

 

 顔の前で片手で手刀を作り、苦笑いをするのは無精髭の青年、塵躯ファレド。ジョウトウグループの大学から調査隊に指定された男でもあり、その周りに消臭された少年少女もそうだった。


 「いつものことじゃないですか! それよりもウマくやってくださいよ~? 僕ら何も知らされてないンスから」

 「ハッハッハ!」


 緊張感の無い雰囲気だ。いつもこんな学生の延長で緩んだ空気で、爆心地の調査とやらをしているのかと思うとクガツは少し腹が立つ感じがした。それを噛み締めながら、周りに染まる様に──違和感を出さない様にクガツも釣られて頬を緩ませる。


 「君ィ……久住クガツくんだっけ?」 

 「え? あ、ハイ」


 肩を組む様に塵躯がクガツに距離を詰めていた。


 「作り笑いかな~? 自分に嘘つくのは疲れるから、自然体でね」

 「え、ええ。こういうの初めてでして。おもったよりも成績上位者の方らって砕けた雰囲気なんだなって」

 「おいおいおい、インキャのガリ勉かなにかと勘違いしてた?」

 「正直」

 「いいねぇ。素直じゃないか。もっとそういうところ出さないと」


 人差し指と中指を立てて、塵躯は宙を切る。

 掴みどころの無い男だ。こういった腹に何を抱えてるかわからない飄々とした男は警戒を怠らない。クガツが心得ている自衛の手段だ。


 PM 19:00──ジョウトウ陣営の入室口が無機質にスライドして開く。重々しい分厚い木製の扉の先に、塵躯ファレドが踏み出しそれに続くように白衣の生徒らが続いていった。


 「──時間か。この瞬間だ」


 時計に目を落としてからクガツは歩を進めた。自然でありながら、やや早めの歩調。


 同フロアの廊下の先に向かいながら、周辺に視線を配る。円形の廊下の先に黒いスーツを着た長身の少女が居た。

 九条・C・アイカだ。


 クガツがそれを視界で認識したと同時に、胸に響くような音が轟く。窓から先に続く浜辺の先に花火が夕暮れに咲いている。

 突如身構える九条・C・アイカ。だが、その視線の先は花火の中心だった。


 クガツの背後には黒い力が音もなく渦巻いていた。圧縮された黒い力線──。力を圧縮した高出力のレーザーは九条の脳天を貫き、大脳から後頭葉を一直線に貫いた。


 (損傷は軽微だ。再生には苦労せんだろう)


 クガツは足早に駆け出した。それは、九条・C・アイカのバイタルサインの消失が何らかのサインをお越し、他のK3の戦力に伝わるのを予期したからだ。


 「!!」

 「ッ!?」

 

 次にクガツが捉えたのは中肉中背のブラウンボブの少女、藍河サラク。素早くサバイバルナイフを取り出しそれを逆手持ちにしながら接敵する。


 先手を取ったのはクガツ。素早い体捌きと肘、ナイフを使ったラッシュで藍河サラクを圧倒する。


 「チッ!!」


 藍河の上腕中心に、分厚い刀身のナイフが沈み込む。熱が伝わる頃にはいくら洗練された戦士であれ、隙が生じる。

 クガツはその瞬間を見逃さず、肘による鋭い打撃で藍河サラクの顎から頸部にかけてを叩き込んだ。


 「2人目」


 背後に浮かべた黒く渦巻く力が解き放たれる。無音を響かせ、黒い力が針のように藍河サラクの頭部を捉えた。

 脳症が飛び散って、藍河サラクは沈黙した。


 「アンタら!」


 低身長の少女、オクサル葉宮が現場へと駆け出した。同時に、ビル壁を通り過ぎる素早い影──ジョウトウグループ特注のトマホークミサイル。時限発動式の生体脳波電磁パルスがビルに接近した座標で炸裂したのだ。


 「うぐ!」


 オクサル葉宮に、とめどない頭痛と嘔吐が襲う。眼球が膨張し、眼下から飛び出すような疼痛の中、モロに露出する隙にクガツが駆け出す。


 「シッ!」


 右肘、右手刀、左手に握った逆手ナイフの刺突。その左腕を手前に引きいて裂くような腕の動きと同時に右手刀、追撃に左逆手ナイフッッ!!

 頸動脈と胸郭の呼吸系、循環器系を的確に突いて生体活動の継続を断ち切る。

 ズタズタになった少女がふらついた足取りで転倒する前に足払いを浴びせた。眼前にくたばるそれに、クガツの背部で黒く渦巻く力を浴びせる。

 的確に脳天を貫き、脳症と脳皮質が炸裂した。


 「K3、三名を無力化。帰還するぞ」


 耳元に指を添え、インカムにそう呼びかけるクガツ。


 「生体反応の沈黙を確認。よくやった。助かったよ。素早く現場から離れてくれ」


 通信機の先からは男装の女の声だった。


 「そっちが手間を取らせた分、報酬を上乗せしてもうぞ」

 「そこは要相談だな」

 「クソが。まあ、何も問題なく終わっただけマシか」

 「……いや、まだ終わっていない」

 「は?」

 「所属不明の生体認証が接近中。これは……」

 「……!?」


 インカムから不穏な声を聞き取ったクガツは、素早く体を反転させて尺骨で──”防ぐ”

 その先には、少女が居た。中肉中背の少女──藍河サラク。彼女はカランビットナイフを握り、その先端をクガツの頸部に向いている。間一髪で頸部の動脈に食い込む前で静止していた。


 「ラァ!!」


 空間をグズグズにするような黒い正気をまとった荒削りなフック。少女はそれを翻して回避した。


 成人男性2名分の距離。クガツは再び分厚い刀身をした重々しいサバイバルナイフを取り出し、サラクもまたカランビットナイフを握り直しにらみつけるよう距離を見計らっている。


 「さっき殺したハズだぜ。どういうタネだ?」

 「……」

 「ダンマリかよォ!!」


 駆け出したのはクガツ。黒く渦巻く力の球体をいくつも纏い、更にその体から繰り出される無数の攻撃のラッシュ!! なにかが掠るかモロに入れば空かさずナイフが動脈系を捉え、ダメ押しにあらゆる物質を押しのけて貫く漆黒の閃光ッ──!!

 肘、膝、右手刀、左ナイフ、頭突き、レーザーッ!!


 秒間に十数回繰り出されるラッシュに対し、少女も肘、手刀、カランビットナイフで応戦ッ! 目まぐるしい攻防の中、クガツの一撃が突き刺さる!!


 黒い閃光だ。それは少女の脳天は貫かなかったものの、左胸部から右背部にかけて貫いた。呼吸器系への甚大なダメージ!!

 少女の身体に熱を帯びた疼痛が伝うッ!!


 「オラァ!!」


 その隙を逃すクガツではない。大きく振りかぶった蹴り上げが少女の鳩尾を捉え、吹き飛ばす!!

 ガラス窓を粉砕し、少女は中空へと身を投げ出さた。クガツもそれを追う──!!

 落下中、クガツは鍛え上げられた体幹をバネに腕による打撃と、ナイフ、蹴りを繰り出す。それは絶え間なく少女の身体に浴びせられた!!


 ズタズタになった少女の頸部を膝が捉え自由落下運動へと移る。高度250m──コンクリートの地面とクガツの膝関節が、細い少女の首をギロチン!!

 ドドドドと絶え間ない泉の様に鮮血が一帯に咲く──宛ら、彼岸花!!


 「フゥーフゥーフゥー……こんなに心拍を上げたのは久々だぜ」

 「そう。それは良かった」


 首を落とした少女の死体を眼下に、クガツは答える。耳元にささやく声に。


 「ああ……あ。ああ!?」


 耳元で囁いていたのは中肉中背の少女。ありふれたブラウンボブカットの少女、藍河サラク──!!

 なんで生きて──そんな現実を振り払いたい衝動に任せ、サバイバルナイフを薙ぎ払った。


 「茶化すんじゃなかった。さっきのでトドメしとくんだった」

 「ハァ……ハァ……気持ち悪い……どういうタネだよ。クローン人間か?」

 「ひとまず決着したのなら、気分次第で答えてあげるよ」

 「上等だァ!!」


 

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