お前もブレインの使用権を求めて 08

 「西櫻会が会議の場所と日時の変更を申し出た」

 

 屋上に一人佇む男装の女。彼女がクガツにそう言った。

 

 「おいどういうことだ。現場はアイボリーBOXビルだったんじゃないのか?」

 「そう──だった」

 「だった?」

 「西櫻会も一枚岩ではない。ジョウトウグループ内の親・西櫻会派が漏らしたか、あるいは中立派の情報屋の小遣い稼ぎが途中で噛んでいたか」


 すかさずクガツは一歩踏み出し、女に冷たい睨みを浴びせていた。


 「そういうとこキッチリやんのがアンタの仕事じゃねえのかよ」

 「最もだ。言葉もない」

 「……で、変更された日時と場所はどこだよ」


 呆れたもんだ、と吐き捨てクガツは女から視線をそらす。同時に金網に体を鎮めるようにして女の横に並ぶ。

 初夏を前に汗ばむインナー。それが肌に張り付く嫌な感覚を感じ始める頃、女は口を開いた。


 「今日の19時。場所はジョウトウ第13ビル45階。西櫻会、クラウドノース、ジョウトウグループから中央爆心地センタークレーターの調査指定学生らが中心となって招集される」

 「おいおい! 高層区の人口密集地じゃねえか! 第13ビルってよ。それに調査指定学生って……」

 「今日の不自然な中央爆心地センタークレーターからの帰還はそういうことだ」

 「何が狙いだ……?」

 

 クガツの中で予感があった。形にはならない煙のような輪郭。


 「もうわかっているだろう。厄介事を起こせば街中に被害が出る。それに調査指定学生っていう人質も取られた。こちらの武闘派な動きが抑制され、西櫻会の都合の良い条件を作り、例の”金の鉱脈”の扱いが決まってしまう」

 「クソが……依頼内容がまるで違うぞ」

 「ちゃんと承諾書を読んだか? 有事の際には内容の変更がされることは記してあるぞ」

 「なんで偉そうなんだよ」


 女は内ポケットからタバコを一つ取り出す。妙な薬臭さのある煙を出すトリップ素材加工の銘柄だ。


 「臭い。目に染みる」

 「こっちも焦っているんだ。可能な限りバックアップはするさ」

 「……兵器開発部に指定の額を用意してくれ。オレは今から早退して、準備から見直す」

 「可能な限り対応するよ」

 「それじゃあ、16時までには連絡を出す」

 

 クガツはそう言ってから校舎から跳躍した。方向は昨晩の研究棟。

 トマホークミサイルの再調整だ、と言って大気を裂くように街に駆り出す。


 「元気なもんだ……ん? これは?」


 女の足元に落ちた紙。メモ用紙には早退の手続きを代行してほしいという旨の文章が刻まれていた。

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