お前もブレインの使用権を求めて 06

 商業区地下を抜け出して、クガツは研究棟に来ていた。

 生体認証を超え、配線むき出しのエレベーターを用いて地下の一室へと向かう。


 「頼みがある」


 書類の散らばった机の上に、クガツはK3を鎮めるための作戦をまとめた書類を投げる。


 「ん」


 机の前でキーボードを叩く少女。


 この情報化社会において、セキュリティ面で信頼できるのは案外アナログなやり方なもんだ。

 緻密に記載された”作戦”の舞台となるマップ。中央の巨大ビルと一帯の間取りは丁寧に定規と鉛筆で書き込まれている。


 「よくやるもんだ」


 そういったのはジョウトウグループの兵器開発部の一人。顔に傷を残したライトブルーの髪をした少女だ。白衣をまとっており、手元にはトリップウォーターの注がれたジョッキを持っている。


 壁にもたれ掛かるクガツは、少女と同じように関心する。


 「精巧なアナログマップだろう。世の中変態はいるもんだ」

 「ああ。で、どうするわけ? どういう任務?」

 「西櫻会の精鋭部隊3人の無力化。中央のビルから左……あー西側のマーカーがあるだろう」


 中央の大型ビル側壁西に①と記載がある。別紙には①の詳細としてK3の戦力とその分布が記されいた。22Fに九条Cアイカ……長身の少女。23Fに藍河サラク……中背の少女。24Fにオクサル葉宮……低身長の少女が配置されてある。


 「首脳の会議室は?」


 白衣の少女が疑問を口にした。その頬はトリップウォーターの魔力に焼かれ、赤く火照っていた。それに対するクガツ。


 「22F、23F、24Fいずれかからも入室可能だ。どういうカラクリかはわからんが、この3名が会議室付近で護衛として残るという流れになっている」

 「なるほど。そして、君はこの3名の無力化をジョウトウグループのウラの人間に任されたと」

 「そんなところだ。まずは、俺の案からいいか?」

 「ああ」


 クガツはビル西側のマップ、①の北東方向に3つのコインを置いた。


 「起動兵装を3つ用いたい。1つは22F、2つ目は23F、3つ目は24Fへ向かって高速追突する。対人戦闘用の自動化プログラムを組んで、同時に機体がビル付近へと到着した際には脳波を狂わす生体用脳波電磁パルスを発生させるようにプログラムを組む」

 「……なるほど。超常者バリアントが個人に持つ能力を発揮するには脳波の特殊なパターンが関係すると言われ、実際に脳波パルスはその妨害に有効とされている。で、君はどうする? 相手を封じても自分もそれを食らうことになるぞ?」

 「頭にアルミホイルでも巻くか……あるいは別口から侵入する」

 「例えば?」


 少女の問に、クガツはマップ上を指差す。ビルの東側側壁に②の記載があった。


 「ジョウトウグループの首脳は、ここから会議室へと入室する予定だ。俺はその23Fのポジションで入室の護衛を行う。同フロアへ回り込めばK3のいずれかと接敵が可能だろう。起動兵装が脳波パルスを撒いた頃には、その混乱に乗じてこの身一つで制圧する」

 「なるほどね。でもそれじゃちょっと希望的観測がすぎるかな?」

 「なんだと?」


 少女は大型のビルに対してペンを突き立てる。その後、一度トリップウォーターを呷ってから口を開いた。


 「アイボリーBOXビルだろココ。もともとは本土の軍事企業が連絡と物資の仲介のために用いるための施設だったが、現在はユニオンムーの企業へ吸収されたビル……ただのビルじゃない」

 「ただのビルじゃない?」

 「いくつか型落ちはするだろうけど索敵のための兵器や何かがあるはずだ。起動兵装の推進力じゃ、簡単に見つかって撃墜されるだろうね」

 「ビルそのものの兵力はあまり考えたことはなかったな」

 「そこで、私の新しいカワイコチャンを使うわけだ」


 白衣の少女は、デスクから一つファイルを取り出す。


 「ジョウトウグループ特注のトマホークミサイルだ。ジョウトウグループの傘下の人間に空力操作系の超常者バリアントが発見されてね。それの技術を応用した超高速巡航ミサイル。これなら、いくつか世代の低い索敵兵器が追いきれない速度を出せる」

 「……感知できたときには、ミサイルがビル壁へとドカンってか」

 「ああ。でも、この案じゃクガツくんの目的一つが使えない」

 「……起動兵装の対人戦闘プログラム」

 「そうだ。ミサイルは変形できないからね」

 「どの道、相手は西櫻会の精鋭部隊だ。時間稼ぎ程度にしか考えていないさ。脳波パルスの影響時間内にどれくらい俺が動けるかどうか」

 「友達でも雇ったら?」

 

 白衣の少女は、クガツに仲間を雇うことを勧めた。


 「極秘らしい。それに、これに関しては報酬を分け与えたくない」

 「何々? 金に興味ないクガツくんが独り占めしたいって女かな?」

 「まあ、そんなところだ」


 無表情を繕ったクガツ。無意識に内頬を奥歯で噛んでいた。


 「嘘付いてるでしょ。キミそういうの下手くそなんだからしないほうがいいよ」

 「……ともかく、ちょっとした一大プロジェクトなんだ。誰にも渡せない」

 「ふ~ん。まあ、深くは聞かないけど……ちょっと胡散臭い話って感じにしか私には思えないな」

 「一人の学生に託す仕事量じゃないのはわかってるさ」

 「それもそうだけど、作戦が失敗したときのリスクもね。非正規の子供ひとりに任せるにしては、ちょっと歪かな? やっぱり」

 「ともかく、クリアさえしたら何も問題はない。特注トマホークミサイルの配備を頼むぜ。予算は半分ジョウトウの裏バンクから出る。例のカードから引き出してくれ」

 「あいよー」


 デスクに向かい、作業に手を出し始める少女。10数秒後の沈黙の後に、少女はそれにしてもと切り出して部屋を後にするクガツに言う。


 「何がそこまでして君を突き動かす訳?」

 「……」

 「行方不明の彼、そんなに特別な男でも無いでしょ」

 「生死をハッキリさせたいって言うオレのワガママかもな」

 「変なの。もっと人生面白いことあるぜ」

 「……」



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