お前もブレインの使用権を求めて 03
ジョウトウ学園第13高等部1年。総勢1024名。午後13時の炎天下ジャージ姿で浜辺に連れ出されていた。
「お前らァ! 今日は本土からの修学旅行で同じ高校生が32校がこのビーチに来ている! ゴミ清掃から道案内、海の店のサポートから人生相談までなんでもやれイ!」
熱血生活指導員の咆哮に、生徒らは散り持ち場へと移っていく。久住クガツは海の家班として浜辺北側の店へ向かっていく。
「
クガツの横へ並ぶのは坊主頭の少年。クガツはその妙に一回距離感に一度息を飲んで答える。
「ま、まあ。こっちは単位貰ってる身分だし、それに眠くなる座学よりは課外授業のがいいかな」
「嘘でしょ~。暑苦しいしそりゃねえぜ! エアコンかかった部屋で世界史の時間にする居眠り! これが一番気持ちいんだ!」
「ははは」
クガツの作り笑いを尻目に、ピアスの少女と眼鏡の少女が少し後ろで並ぶ。
「まあまあ、顔良いよね久住クン」
眼鏡女に対し、ピアスが言う。
「いや、私は無理。何考えてるかわからん」
「うそだ~!」
「特にあの作り笑い。詐欺師みたい。隠しきれてないよアレ」
「詐欺師って」
眼鏡女が語気の強い単語に笑う。そこまで言う? と眼鏡は半笑いで言うが、ピアスはしぶしぶとした口調で語りだす。
「開発区に出入りしてるの見たし、私」
「開発区……反社共の勢力争いの一員ってこと!?」
店に到着した時には観光客でごった返していた。ヘルプヘルプと大きな声で呼びかける店員に引き込まれるようにクガツらは店内へと移った。
「君はデリバリーね!」
クガツに任された仕事は食事を店外の客へ届けることだった。購入者は電波を流す端末を受け取り、店員は専用のサングラスを装着する。専用のサングラス越しの景色では、電波を放つ端末付近に番号が浮かび上がる仕組みだ。
客は店付近の人込みで食事を待つ不毛な時間を避け、パラソルの下で悠々自適に過ごしながら出来立てのフランクフルトやヤキソバを頬張ることができるというシステムになっている。
(なんて悪魔的な発想だ。人件費のことをまるで考えていない。開発者はニッポン人か?)
クガツが担当する食事はノンアルコールのレモンモヒートと浜焼き牡蠣のシーフードカレー、それと205を丸で囲ったレシートだった。
サングラス越しには無数のローマ字と番号が浮かび上がっている。
「205、205、205」
独り言のようにそう言いながら、クガツはその番号の浮かんだパラソルを見つける。オレンジと白の2色をしたやや小さめ、少人数用のものだった。
「お待たせしました。こちらぁノンアルレモンモヒートと牡蠣カレーです。205の番号札よろしくおねがいします」
パラソルの下を除くと栗色の髪をした少女が居た。白いカッターシャツとネイビーを基調としたチェックのスカートという出で立ち。妙に深く青い色をした瞳孔が特徴的で、何よりクガツにとって印象に残ったのは泣き腫らしたかのように赤ばった目尻だった。
(本土からの修学旅行生か? それにこの目元……さては旅行中カレシか何かにでも振られたか何かだろうか……)
クガツが手渡すプラ容器2つ。
「ありがとうございます。ほんとに私らと変わらない学生がボランティアしてくれているんですね!」
妙にひん曲がった根性をしたユニオン・ムーの学生とは違う純朴な笑顔だった。
「え、ええ」
「わあ! おいしそう。これ、番号札です」
「ああ、あ。ハイ」
機械の様にぎこちない動きでクガツは番号札を受け取った。細く白い綺麗な指だった。
クガツは何か気が利いたことを言いたい気分になっていた。なにか、こう。ボキャブラリーと胸にガツンと刺さるようなセリフが言いたい──!!
「え、あ。良い……良い旅を!」
まくしたてるようにしてクガツはそう言い、逃げるようにパラソルの外へ頭を出した。
「慣れないことをするもんじゃないな」
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