お前もブレインの使用権を求めて 02

 屋上の施錠を解放した。端末に送られた無機質な文章を見て、久住クガツはジョウトウ学園第13高等部西棟へと歩を進めていた。

 扉を開ければ夏を目前とした分厚い待機が頬と白髪をなびかせる。普段は教員や学園生徒の踏み込まない一帯だが、黒の礼服を着た人物が柵もたれかかるようそこにいた。


 「報酬だ」


 男装の麗人という身なりをした人物は手袋をした右手で封筒を差し出す。報酬金の為のキャッシュカードだ。クガツはそれを受け取って、ポケットへと仕舞う。


 「非正規の依頼を請けてみるつもりはないか? 人手不足なんだ」


 女が言う。一帯を後にし、背を向けるクガツに向けて。


 「どこの業界もそうだろう」

 「請けるつもりは無いと」

 「変な経歴がついてしまうからな。ジョウトウグループの派閥に属してある程度安全な依頼だけしてりゃ生活費には困らない。それに差し障ることはしたくない」

 「安定思考だな。そんなにあの男の死が胸に燻るか?」

 「人のことを勝手に調べるな気色悪い」


 逃げるように足先を校舎内へ続く扉へ向けるクガツ。それに一つ大きなため息をついて男装の女は言った。


 「報酬は、ハイパーブレインの使用権だ」

 「なんだと?」


 クガツは歩を止めて首だけを女の方へ向けた。


 「どういうことだ? ユニオン・ムー随一のスーパーコンピューター……あれを使用するとなるとセントラルの重役か、何かしらの組織のトップでないと使えないのでは?」

 「席が空いたんだよ。野暮用でオダブツになったジョウトウのトップが居てね。兵器開発部も今は安定期みたいでね。特殊な演算が必要な事情じゃない」

 「キナ臭すぎるぜ。そこまでしてそこらの男子学生一人にあてがうには異質だ。学生を雇うなら金だけでいい」

 「3年前の事件……機体のスクラップを貸出コンテナに保管し、事件の周辺情報の3Dマップ、その他もろもろのデータを持ち、今もなお亡霊を追う男を”そこらの男子学生”とは言わないよ」

 「……内容は」

 「いい返事だね」

 「追って送ろう。マッチングが大切だからね」


 そう言って、男装の女は黒煙が霧散するように姿を消した。


 「お、オイ!」


 素早く逃げるような身のこなし。クガツは安全フェンスの側面をぶん殴って悪態をつく。


 「クソったれ。内容次第ってのに請け負うことにされちまうぜ。バックレも手だけど何かしら陰湿な根回しをされる。これだから非正規は嫌なんだよ」

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