第3話「失われた属性」
「この亀裂のように伸びた淡い紫の光を放つ模様…、儂の知りうる限りじゃと、この子は、”失われた属性”の素質を持っているようじゃ」
(――失われた属性?属性なんかあるのか?ゲームみたいな?)
――失われた属性。
その言葉が大司教の口から聞かされると、父であるシリウス、母のセレナは理解するまで幾分の時間を要した。
「――失われた属性…?聞いた事がありません。確かこの世に実在する属性は火、水、氷、岩、風、神聖属性、闇属性の7系統ではないのですか…?」
(火、水、氷、岩、風、神聖属性、闇属性…なるほど…ファンタジーじゃん)
ここでもう一度、手に入れた情報を材料に脳を稼働させる。そしてようやく答えが導かれた。
(―――俺、転生した?)
大司教はシリウスの質問に答えた。
「ああ。確かに現存する属性は今、お主が挙げたものであっておる。しかし、かつてはもう一つの属性があったのじゃ」
「もう一つの属性ですか?」
その場で話を聞く3人は失われた属性についての理解を深める為、一言一句を聞き逃すまいと大司教の話に意識を集中させる。
しかし、大司教は肩をすくめると、低い声でその期待を打ち消した。
「お主はこの”失われた属性”に興味がある様じゃが、儂もこれ以上の知識は持ち合わせておらん。王国の最奥に保管されておる八色原典の文字が古く、損傷も激しくてな。すまん」
(出たよ、1番大事なとこが分からないとか、よくあるやつじゃん。お爺さん、その髭引っ張っていい?)
シリウスとセレナは肩を落とした。
「まぁ、そう落ち込みなさるな。もし、さらに詳しいことを知りたいなら北の果てにある古い国、コーランド連合王国に行けば何かわかるかもしれんが…」
と言い尽くす前に言葉に覇気がなくなる。
コーランド連合王国は500年前の世界大戦を生き抜いた大国であり、今では東半分世界の支配者的側面を持ち合わせている。入国するどころか近付くことさえ容易ではない。
「コーランド連合王国ですか…。私達には厳しい提案です。大司教様、今回は私たちに大変有意義なことを教えて下さり、深い感謝を申し上げます。」
シリウスは瞳に光を取り戻すと、大司教に笑顔を向けて深く頭を下げた。
肝心な所が明らかにならなかったとは言え、腕に現れた紋様の正体を看破しただけでも御の字と言えるだろう。
同時にセレナも頭を下げ、感謝の意を示す。
「気にするな。儂は古い知識を当て嵌めただけに過ぎん。その子を立派に育てなさい」
「――無論、誇りを抱けるように育てたいと思います」
(うん。この世界の理解に少し助かったよ。サンキュ!サンタのようなお爺さん)
そう心の中で呟く。
大司教はセレナを見据え、柔らかい口調で話しかける。
「セレナさんと言ったかな。シリウスは大変世話が掛かるじゃろうが、しっかりと面倒を見ておくれ。」
「もちろんです。シリウス、アルタイルをしっかりと見守っていきます」
セレナは笑顔を浮かべ最後にもう一度、頭を下げる。
そして、アルタイル(仮称)を含めた3人は大聖堂を後にする。
再び、陽光が3人を照らした。
◆
一方、アルタイルは大司教の話を脳内で整理しつつ、自分の考えをまとめていた。
(まず、俺は世界を転生したに違いない。恐らく、前の世界で雷を喰らった時に転生してしまったのだろう。そして、この二人は今までの俺の扱いからして…この世界で俺を産んだ父と母に間違いないだろう。ちなみに俺の名前はアルタイルと何度もよばれていたから、「アルタイル」だな。)
「アルタイル」として、この世界で上手く生きていこうと、決心する。
しかし、どうしても疑問に残るのが、
この”失われた属性”だ。
何故、自分だけこんな特異な属性素質が付与されたのだろうか。
異世界に転生して来た者に与えられた特権と考えるのが普通だが、過去が気になる。
(そもそもこの”失われた属性”って強いのか?弱いから消滅したんじゃないの?)
そんな疑問が脳裏を駆ける。
同時に期待を膨らませる。
(前に聞いたけど、火属性は聖騎士に多くて強い的なこと言ってたな。でも、唯一無二の属性か…。なんかこう胸が躍るな。最強の属性だったとかならどうしよう…ぐへへ)
そんなことをぼんやりと考えていた。
転生前の世界では、自分だけが特別な存在になるというシチュエーションに憧れたものだ。それが今実現しているのだ。
3人が聖堂から出ると、外に3人の聖騎士が正面に立ってシリウスを睨んでいた。
何事かと思い、シリウスに焦燥の目を向ける。
だが、シリウスは笑顔だ。
(あ…俺の父親やばい奴だったか)
心の中で呟いた。
聖騎士は王国の秩序を保つ番人だ。
それらが今、転生世界で父に該当する人物を敵視するかの様な態度を示している。
それを笑顔で迎える者など、常人とは言えないだろう。
すると、左側の騎士は一歩前に出て、シリウスに声をかける。
その口調は緊張しているのか堅い声音だ。
「シリウスさん、騎士団に戻ってくるつもりはありませんか?」
(―――騎士団?どういうことだ?)
「おいおい、しつこいぞ。この前の決闘で白黒はっきりつけたじゃないか。お陰様で俺は衛兵に王都から追い出されたんだぞ」
そう言うと、シリウスは顎を手で触る。
「そうだろうと思って、今回は衛兵達に話をつけてあります」
そう言い放つと2つの棒――では無く木刀をシリウスの眼前に持って来る。
「木刀です。模擬戦で私たちが勝ったら騎士団に戻ってきてもらうということでいいですか?」
(何だよ、いきなり。迷惑にも程があるだろ)
どういう風の吹き回しか知らないが、突然現れて木刀で勝負しろと言われても納得する事は難しいだろう。
だが、シリウスは無言で木刀を手に取る。
聖騎士側からは真ん中の人物が出てきたが騎士団の副団長らしい。横の騎士団の合図と共に開始でお互い息を張り詰める様子がわかる。いや?シリウスはそんなことないような雰囲気だ。
―――始め。
その言葉と共に、両者は体を動かす。
だが、勝負は一瞬だった。
シリウスは足に重点を置き、地面を蹴ると一気に相手の元まで移動する。隙と判断して横へ一閃した副団長の一撃をシリウスは空中で体を捻らせて回避。そして一回転することにより、強烈な攻撃を首に当てたのだ。
そして、意識を失った副団長は地面に力無く倒れた。
(すごい。ほとんど一撃だ。この父から剣術習ったら凄く強くなれるんじゃないか。)
一瞬の戦いから確信した。
この父は強い。
「さ…流石です。元団長…。それゆえあなたの力が惜しい」
掛け声を担当した聖騎士はそう口に漏らすと、悔恨の表情を見せる。その後、2人の聖騎士は倒れた副団長を肩に抱き、シリウスに別れの挨拶を言って去っていった。
(元団長…って言った?まさかこの人は元々、王国の騎士団長?意外と凄い人だったりする?)
父親が騎士団長だとすると先刻の強さを納得する事が出来る。
そう考えをまとめると、
この父親に対する見方が変わった。
それにしても、この世界に転生してから少ししか経っていないが、驚くような事の連続だ。
(これからどんな世界が待ってるんだ)
不安はある。
だが、未知の世界に対して興味が湧いてきた。
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