去年のクリスマスの朝
ヘレン、どうしたんだろう……サンタはぼんやりとあの日の事を思い出していました。
それは去年のクリスマスの事。
25日の朝、サンタはプレゼントを配り終えてプレゼント工場に帰るため、ソリを走らせていました。その朝はとても寒く、雲はどんよりと。その上、雪も降り始めたので早く帰らなければと急いでいた所、突然の風に。
びゅうううっと吹き飛ばされてしまったサンタはソリから投げ出されてしまいました。
ぼふんっっっ……
深く積もった雪と
あぁ……こんなところで死んでしまうのか……
サンタがそう思ったとき。
「サンタ……さん……? 」
頭の上から女の子の声が。
「動けないよぅ……たすけて……」
人に見られてはいけない、そんなサンタの掟も忘れて女の子に助けを求めてしまいます。女の子は一生懸命、サンタを引き上げてくれました。
「ありがとう……」
「大丈夫? 」
「うん、おかげで助かったよ。何かお礼をしなきゃ。でも……」
きょろきょろと辺りを見回しても乗っていたはずのソリはどこにもなく、トナカイもいつも持っている大きな袋もありません。サンタは何も持っていなかったのです。
「ごめんよ、あげられるものが何もないんだ」
トレードマークの赤い服も真っ白な髭もびしょ濡れのしょんぼりサンタ。その姿が面白かったのか、女の子はふふっと小さく笑います。
「サンタさん、寒くなぁい? 」
「うん、僕は大丈夫だよ。こんなのへっちゃらだ」
「じゃあ……少しお話しない? 」
「僕はいいけど……」
サンタは女の子を見て気づきます。しんしんと降り積もる雪の中、女の子はまるで暖かい部屋の中にいるような格好をしていたのです。マフラーも、手袋も、冷たい脚を守るようなブーツも身につけていない女の子に初めてサンタは自分から、何かあげたいと思いました。
「その……君は寒くないの? 」
「ヘレンよ。私、ヘレンって言うの」
女の子はサンタの質問に答えないで笑いかけます。
「こっちにね、景色のいい所があるのよ。よくそこで星を見て過ごすの」
ザクザクと歩いていく女の子を放っておけず、サンタも後に続きます。本当はソリを探して救難信号を出さなければいけないのですが、そんな事も頭から消えてしまって……サンタは女の子の事が気になり始めているのかもしれません。
「ここなの。ほら、街も空もよく見えるでしょ? 」
「うわぁ……」
灰色の空、おもちゃみたいな小さな家々の屋根に白い雪が降り積もっていく……こんな景色をサンタは見た事がありませんでした。
「こんなの僕、初めて見たよ」
感動するやら驚くやらのサンタの隣で、女の子はまたふふっと笑います。
「よく来るんだね。近くに住んでるの? 」
「うん……」
二人は近くの木陰に腰を下ろし、話し始めます。
「私ね、この下にある森の奥のお屋敷に住んでいるの。お部屋から見えるのはいつも真っ暗な空ばっかりで、お星様が見たくて外に出て、ここを見つけたの」
「そうなんだ。お星様が好きなの? 」
「うん、暗い中でもキラキラしててきれいでしょ? サンタさんは? お星様きらい? 」
「ん……わかんないんだ。あんまりちゃんと見た事がなくて」
言葉を重ねていく二人、時々ちらっと横顔を見て。
いつの間にか雪も止んで雲の割れ目から陽が射している。
「サンタさんって、ほんとにいるのね」
「うん。誰にも見られちゃいけないんだけどね」
「大丈夫、誰にも言わない。二人だけの秘密ね」
「うん、秘密だね」
指を立ててしーっとして、笑い合う二人に近づく別れの時。
「そうだ! 」
「なあに? 」
サンタはポケットを探って、手のひらサイズのカードを取り出すとヘレンにあげるよと差し出した。
「ヘレンの一番欲しいものをここに書いてよ。これは、サンタに願いが届く特別なカードなんだ。欲しいもの何でもひとつもらえるよ」
「ありがとう……でもね……」
ヘレンは言います。
「私が欲しい物はサンタさんにお願いしてもだめだと思うの」
その微笑みが、サンタにはとても寂しそうに見えてしまったのです。
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