あの子の欲しいもの


「大丈夫だよ。このカードはね、魔法のカードなんだ。書いた事は何でも叶えてくれるんだよ」

「ほんとう? 」

「ほんとだよ! どんな事でもいいんだ。サンタにできない事はない、きっとヘレンのクリスマスを素晴らしくしてくれるよ」


 不安げなヘレンをサンタが一生懸命励ますと、だんだんヘレンも笑顏になっていきました。


「ありがとう。必ず書くね」

「うん……じゃあ、僕はソリを探さなきゃ」

「また会える? 」

「うん、きっとまた会えるよ」

「じゃあ、約束ね」

「うん……約束」


 きっとまた会える、願いを込めてふたりは小指を絡ませ、そして、さよならをしたのです。



 そして今年のクリスマス、サンタはプレゼントリストが出ると真っ先に事務局へ見に行きました。でもそこにヘレンの名前はなく……それからずっと、サンタはヘレンの事がとても気になっていた、というわけなのです。


 サンタの様子を見兼ねた仲間達は相談に乗ってあげる事に。仕事を終えた朝、眠る前にベッドの中でこそこそと話します。


「そんなの無理に決まってるだろ!? 」


 サンタから、ヘレンの話を聞いた仲間達は驚きました。


「俺達にできるのはプレゼントを届ける事だけだ。形のない物はあげられないよ」

「でもあのカードは、何でも欲しい物が手に入る魔法のカードだって教わったろ? サンタが困った時に助けてくれた人に渡すものだって。あの子は僕を助けてくれたんだ。あのカードに欲しい物を書けば叶うはずだよ! 」


 サンタがこんなにも一生懸命なのを、仲間達は見た事がありません。


「でもリストには載ってなかったんだろ? 忘れてるんじゃないか? それか、もう叶ってるとか」

「それで、見に行ったのか」

「でも……だめだったんだ」


 屋敷の外から見たヘレンは、ママに厳しく叱られていて声をかけられなかったのだと……思い出したのか、サンタは今にも泣きそうです。


「なんてひどいママだ!! クリスマスの前に子供を叱るなんて」

「そうだそうだ、ブラックサンタの所に行って言いつけてやろう」

「まぁ、待て。会えなくてよかったじゃないか。会っていたら今ここにはいられないぞ」


 仲間達の中で一番古くからここにいる髭長サンタは、囃し立てる仲間達とサンタもなだめます。


「なぁ、元気を出せ、その子の事は忘れるんだ。何にしろ、その子がカードに書かなければ俺達に出来る事はない」

「でも……」

「俺達は、誰か一人のサンタじゃない。みんなのサンタなんだ。みんなに夢と希望を配ってる、大人になっても信じる心を忘れない為だ」


 工場長のお説教よりずっと重みのある言葉に、みんな黙ってしまいます。自分達の仕事は……それぞれがベッドの中で、サンタになった日を思い浮かべているのかもしれません。


「さぁ、明日も仕事だ。早く寝よう」

「おやすみ……」

「おやすみぃ」


 仕事の疲れも手伝って次第に眠気が降りてくる朝。


 やがて、ぐーぐーすーすーと寝息が聞こえるその中で、サンタはひとりごとのようにつぶやきます。


「叶えて……あげたいなぁ……」

「やめた方がいい」

「え? 」


 返事が来ると思ってなかったサンタは驚きます。その声は、仲間達の中で一番古株の髭長サンタの物でした。


「方法がないわけじゃない。峠を越えた先にあるホワイトサンタに会って直接頼めば何とかしてくれるだろう。彼等があのカードのプレゼントを用意する係だ」

「ほんとに? じゃあ、そこに行って」

「そんな事をすれば永遠に生命を奪われる。生まれ変わる事もサンタを続ける事も出来なくなるんだ。南国でのバカンスも、みんなとこうして仕事する日常も。正直、俺はお前を失いたくない。みんなもそう思っているはずだ」


 サンタは何も言うことができず黙ってしまいます。


「それにな、峠を越えるのは並大抵の事ではない。無事に辿り着けると思わないほうがいい」


 ヘレンの願いとみんなとの日常と。ここには二度と戻ってこられない、サンタの心は揺れ動きます。


「じゃあ、また明日な」


 そう言うと、髭長サンタも寝てしまいました。


 また明日、その言葉には願いがこもっている……それはサンタもわかっています。


 眠れない朝。


 “家族で楽しいクリスマスを過ごしたいの”


 ヘレンの言葉が頭から離れないサンタは、そっと布団から出ます。

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