サンタさんの初恋
クリスマス6日前のぼんやりサンタ
やってくるよ やってくる
クリスマスがやってくる
あの子のとこには赤い箱
あの子とこの子に青の箱
寝たふりははだめ
ちゃんと眠ったよい子のとこに
サンタはそっとやってくる
リルロッ ホーイ
リルロッ ホーイ
どこからかそんな歌声が聞こえてくる寒い冬の夜。
「おうい、クリスマスまであと6日だ。みんな急ぐぞぉ」
「おー!! 」
ここは深い深い雪山の、ずっとずーっと奥深くにある谷間の洞窟のそのまた奥深くにあるプレゼント工場。蝋燭の灯りがたくさん灯るあったかい場所で、サンタ達はよい子のみんなのプレゼントをせっせせっせと準備しています。
「ふあ~ぁ、眠いなぁ~」
「お前、まだ夜型の生活に慣れてないのか」
「さては休みの間にちゃんと夜更かししておかなかったんだな」
「うん……」
仲良しサンタ4人組は、流れてくるプレゼントにリボンを掛けながらそんなおしゃべりを。
「さてはまたあの子のこと考えてたな」
「ま、まさか、そんな事ないよ」
「何だよ、あの子って」
「お前、知らないのか」
「こらっ、そこの4人組。おしゃべりしている暇はないぞ。ラインがつっかえているじゃないか」
今にもはち切れそうな大きなお腹をゆさゆさ揺らしてやってくるのは、ここのサンタ達をまとめる工場長。
「おい」
「は、はい……」
「ちょっと来なさい」
工場長は仲良し4人組の中からあのぼんやりしていたサンタを呼んで連れていってしまいました。
「大変だ、連れて行かれたぞ」
「どうなるんですか」
「そうか。お前、新入りだから知らないんだな」
「工場長に連れていかれるってのはな、何かとんでもない事をしでかした時か」
「昇進する時だが……奴に限って昇進はないだろうから、何かとんでもない事をしでかしたんだな」
そんな風に仲間に噂されているサンタは、工場長と話している間もずっとうわの空。バカだとかのろまだとか言われても気にする様子もありません。
「聞いているのか。まったくこんな時までぼんやりしおって」
工場長のお小言はいつも以上にぐだぐだと続きそう。長くなるかもしれない、そんな事さえぼんやりサンタにはどうでもよさそう。
突然、デスクに置かれた電話がリンリンと騒ぎ出す。
「あぁ、あぁ、そうだ、俺だ。えっ? トナカイ達の具合が悪い? で、大丈夫なのか……」
トナカイとその電話に救われたサンタは、しっしっと手で追い払われてまだぼんやりとしたまま、製造ラインに戻っていきます。
「おい! 今度抜け出したらクビだからな! 」
後から追いかけてくるその声は、サンタに届いているのでしょうか。
「おい! 大丈夫だったか? 」
「こってりしぼられたか」
「あぁ……そうでもないよ。今度抜け出したらクビだって」
『クビ!? 』
思わぬ言葉に他のサンタはびっくり顔。それでもぼんやりサンタはずっと夢の中にいるようです。
「抜け出したってお前」
「あぁ……仕事終わったら話すよ」
そしてサンタはまたぼんやりと仕事に戻っていってしまいました。
「おい……やばいんじゃないか」
「クビってどういう事ですか? 生まれ変われるとか? 」
「アホか!! 最初に説明受けたろ、サンタの秘密を知る者は簡単に生まれ変われない。まして罰を受けてクビになるなんて、永遠に生命取られるぞ」
「そんなまさか。俺らが悪さしないようにそう言ってるだけじゃないすか? 」
「昔……いたんだよ。俺は見た。好きな女に会いに行ってた奴が拷問されてな、サンタにも戻れず魂取られるのを……なんでもプレゼントを渡しに行った先に美人がいてな、一目惚れしちまったんだと」
「え~~~! それヤバいじゃないですか」
「ヤバいだろ? 人間に見つかるだけでも……ヤバい事になるんだからな」
ぼんやりサンタは何を考えているのか、それは誰にもわかりません。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます