第5話 最終話
オティリーは何事かと振り返ると、そこには死に戻りから戻って来たセグメトが、メイを後ろから羽交い締めにしている姿があった。
「他の奴らはどこに行ったんだ!?」
ポータルの近くでしばらく待っていれば死に戻り集団に出会えただろうが、すぐに走り出したセグメトは、誰も居なくなった訓練場を見て声を荒らげる。
オティリーはこのまま外に出てしまおうかとも考えたが、メイを無視するのもかわいそうかと思い、二人の立つ観覧場に飛び乗った。
「なんてジャンプ力してるんだい……バグ技か何かかい?」
「しらん。それより、まだ我に用があるのか?」
「ほ、他の奴らは……」
「全員斬った」
「有り得ない……これじゃあ、まるで理不尽姫そのものじゃないか……」
「そのものも何も……」
「オティリーさんは、理不尽姫のロールプレイが完璧なんです!」
オティリーが答えようとしているのに、何故かメイが誇らしく答える。しかしそのせいで、セグメトは人質をとっていた事を思い出してしまった。
「いい事を教えてやるよ。観覧場は戦闘NGだけどね。バットステータスなら殺す事が出来るんだよ」
セグメトは、アイテムボックスから毒々しいフルーツタルトを取り出して、メイの顔の近くに持って行く。
「ネタ技だけど、ケーキなら町中でも顔にぶつけることが出来るんだよ。それも猛毒のりんごやぶどうを使った毒5のケーキだ。5分もしない内に死に戻りだよ!」
「フルーツタルトに、毒だと……」
まさか自分の好物に毒を仕込んでいると聞いて、オティリーは怒りの表情に変わる。しかしセグメトには、メイが殺されるからの焦りと受け取っていた。
「何も全員分の金を返せってわけじゃないよ。あたしから奪った金を返してくれたらいいんだ。それだけでこの子は解放するし、今後一切あんたらにちょっかいかけないと誓うよ」
破格の条件を出したセグメトだが、オティリーには通じず。オティリーは剣を抜いた。
「わからないヤツだね。ここでは攻撃は通じないんだ…よ。えっ?」
その瞬間、セグメトの毒フルーツタルトを持つ腕は、二の腕辺りからポトリと落ちた。
「なんだ。当たるではないか。HPも減ってるぞ?」
「な、なんでここで……」
「さあ? 我が理不尽姫だからではないか?」
「待った! もう金を返してくれと言わないから逃がしてくれ!!」
オティリーが剣を振り上げると、また全財産の半額になる事を嫌ったセグメトから泣きが入るがお構いなし。オティリーはセグメトの頭に剣を突き刺して終わりとするのであった。
「終わったぞ」
へなへなと腰を落としたメイに、オティリーは声を掛けた。
「あ、あの……オティリーさんは、実は本物の理不尽姫ってわけじゃありませんよね?」
さすがにプレイヤーでは有り得ない戦闘を繰り広げては、メイもロールプレイだけでは片付けられなくなり、オティリーがAIだと疑い出した。
「最初からそう言っているだろう。いや、貴様は我の話をまったく聞いていなかったな」
「で、では、オティリーさんの目的は……」
「いまのところ、美味しいフルーツタルトを食べる事だ。あとはモンスターもモフモフしてみたいな」
恐る恐る目的を聞いたメイは、キョトンとした顔になる。
「悪いか?」
「い、いえ……てっきり、ゲームをめちゃくちゃにする事が目的だと思ったので……PKさんも殺しまくっていたし……」
「おいおい。ずっと我の事を見ていただろう? 我は降り掛かる火の粉を払っただけだ。こちらに来る前も、真っ当に金を稼いでいたぞ。攻撃して来るヤツからは貰っていたがな」
「よかった~~~」
どうやらメイは、アナスタシス社が送り込んだ刺客としてオティリーを見ていたらしい。だが、オティリーの目的を知ってホッとしたようだ。
「よかったとは?」
「だって、初めてできた友達ですも~ん」
「プッ……あはははは」
突然大声で笑うオティリーを見て、メイは頬を膨らませる。
「もう~。どうして笑うんですか~」
「ははは……いやなに、貴様は人間というヤツだろ? 我をゲームの中の住人と知ってなお、友達で居続けるとはな」
「AIと聞いて驚きましたが、オティリーさんは人間と変わらないですよ。こうやって会話もできるんですからね」
「貴様も変わっているな」
「貴様って言わないでください~。私はメイ。友達なんですから、名前で呼んでくださいよ~」
「ふむ……たしかに失礼か。わかった。メイだな」
自分で言わせておいてメイは何故か照れるが、頭を振って気を取り直して握手を交わす。
「それじゃあ、これからもよろしくお願いしますね。オティリーさん」
「うむ。よろしく。メイ」
こうしてバルドル・オンラインに移住した理不尽姫ことAI『オティリー・ブリュレ』は、大好きなフルーツタルトを美味しくいただきつつ、様々な問題を起こしてゲーム内を騒がせるのであった。
おしまい
理不尽姫は我が道を行く @ma-no
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