第2話 第一の町


「確かあったはず……あ、ありました!!」


 護衛依頼を受けさせる為に、メイはオティリーをエサで釣ろうとフルーツタルトを取り出した。


「ふむ……見た目は普通だな」


 見た目はNPC売りのフルーツタルトとさほど変わらないので顔を暗くすが、味見をしてから護衛依頼を受けるかの判断とする。


「確かに店の物よりは味がいいが、ユラ殿から貰ったフルーツタルトのほうが格段にうまいな」


 味にうるさいオティリーだったが、その顔は幸せに満ちた顔をしていたので、メイは脈アリとみた。


「ユラって人の事はわからないですけど、料理スキルが高い人が作った物だと思います。私ももっと練習して、美味しいフルーツタルトを作りますから、今日のところはこれで守ってください!!」

「……わかった。護衛依頼を受けてやろう」

「本当ですか!?」

「その代わり、フルーツタルトを持っているだけ出せ。ケーキもな」

「は、はい!!」


 交渉成立。メイはありったけのフルーツタルトとケーキをオティリーに前払いで渡すのであった。



 オティリーとメイは隣り合って歩き、第一の町に向けて進む。しかしオティリーは無口で、フルーツタルトを食べる時以外は顔を緩めないから無言に耐えかねたメイは一人で喋り続けていた。


 メイは、デリングでは花を育て、料理を作ったりなんかしていたこと。しかし戦闘が苦手でお金が稼げず、一向にホームを持てなかったこと。本当はテイマーになってモンスターをモフモフしたかった等々。

 最底辺ゲーマーの日常を聞かされていたオティリーは相槌すら返さなかったが、テイマーという単語に反応する。


「そのテイマーとやらになれば、我でもモンスターを飼えるのか?」

「はい。スキルをセットすれば誰でも。ただ、多く飼うにはホームか牧場がないとダメで、買うには高いんです」

「そういえば、ユラ殿も牧場を持っていたな。なるほど……あの数を揃えるには、牧場が必要なのか」

「そのユラって人……ひょっとしてトッププレイヤーの人じゃないですか? 一人で理不尽姫を倒したって掲示板で見たことありますよ」

「ふむ。我も一目置く男だ」


 ようやく二人の話が弾んで来た頃に、PKが現れる。


「ひゃっは~! 有り金置いてけ~~~!!」

「「「「「ぎゃははは……ぎゃああぁぁ~!!」」」」」


 しかし一蹴。オティリーに斬り殺されて死に戻りとなる。それから町に近付けば近付くほどPKが増えて行き、40人ほどのPKを斬り捨てた頃に、ようやく第一の町に到着したのであった。



「オティリーさん凄いです! まるで理不尽姫みたいでした~」


 理不尽姫とは、デリングで最強を誇る裏ボスの女騎士の事だ。


 理不尽姫に挑戦する前に、恐ろしく強い深淵竜を倒さないといけない。それをなんとか倒して出て来た理不尽姫は、感謝の言葉を贈りながら握手を求めるのだが、手を伸ばした者は首を落とされる。


 理由は、深淵竜を狙っていたのは自分だと逆ギレされてのこと。


 戦えば深淵竜よりも倍も強いので、30人で挑んでも倒すまでには一時間を要する。ここでレアアイテムでも貰えたら理不尽姫と呼ばれなかったのだろうが、何も無し。全員でゲーム内通貨2万モンを貰って、ボス部屋から追い出される。


 初見殺し、強敵、戦えば赤字。この三点から最後の女騎士が代表で「理不尽姫」と呼ばれ、プレイヤーからそっぽを向かれる事となったのだ。


「みたいも何も……我がその理不尽姫だ」

「見た目も一緒ですもんね! もう本物と言っても過言じゃないです!」

「だから本物なのだが……」

「キャーキャー」


 テンションの高いメイに何を言っても通じず。オティリーはため息を吐きながら歩き出すのであった。

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