元からチート「同化侵食」を持った奴が異世界に行った話。

ヤマタケ

元からチート「同化侵食」を持った奴が異世界に行った話。

 気が付くと、知らない場所にいました。


「……はて」


 僕こと、安里修一あさとしゅういちは、首を傾げます。何か身に覚えがないか、昨日の記憶を探ってみましょう。


「確か、僕は普通に仕事して、姪っ子とフォー●ナイトやって、それで寝たはずですけど」


 ここはどうやら、見る限り森の中のようです。ざわざわと風で、木の葉が揺れる音がします。

 もちろん、昨日の記憶で最後にあるのは、自分のベッドで眠りについた記憶が最後。


「ははあ、いわゆる異世界という奴ですね、これは」


 こういう話、最近アニメでよくやってますもんね。見てないけど。

 どうでもいいですが、おじさま方とお仕事をすると、話をするときに、「何かアニメ見てないの? リ●ロとか、ダ●まちとか」って大体言われます。あれ、そういうのしか見てないとでも思われてるんでしょうかね。残念ながら、僕が語れるほど見たのはこ●亀とかゴ●ゴなんですよね。


 ともかく。異世界に来てしまった。とでも言っておかないと、自宅のベッドから森にいる意味が分からないですしねえ。


「さーてと、どうしましょうか」


 そう言いながら、近くの木にペタリ。ただ寄り掛かっただけではありません。


 実は僕、安里修一には特殊な能力があるのです。いわゆる「チート」ですが、神様からもらったものではありません。


 それが「同化侵食どうかしんしょく」。触れたものに「自分がなり」、触れたものを「自分にする」能力です。これがまあ使い勝手がいいんですよね。


「ふんふん、なるほど。ここから西に人間の集落があるみたいですね」


 僕がやったのは、木を「侵食」して、そこから根を伝って森全体と「同化」しました。これで、森の中と近隣に何があるかを把握できます。


「あ、そうだ。僕、パジャマのままだった」


 ふと気づいて、僕は自分の服をいつもの、黒ワイシャツのスーツパンツに変えます。僕にとっては、これが正装です。


 そして諸々の準備が済んだ僕は、森を歩き始めます。

 足場が悪いので、気を付けないと転んでしまいます。少し歩いたところで、魔物に襲われている女の人に会いました。


「あksfじゃljふぁskljf;あsk!!」


 何を言っているのか、さっぱりわかりません。この世界の言語なんて知らないんですから、当たり前ですね。


 彼女を襲っているのは、巨大な二足歩行の豚のような男でした。いわゆる「オーク」という奴なのでしょう。


 オークは僕のことなど目もくれず、彼女しか見ていません。そして股間のふくらみを見るに、勃起しているのでしょう。

 そういえば、エッチな本でオークやゴブリンが人間やエルフの女性と性行為をするのはよく見受けられますが、実際どうなんでしょうか。


 オークに触り、ちょっと事情を聴いてみます。


「すいません、ちょっと聞きたいんですけど」

「ああん? なんだ、お前。俺らの言葉が喋れるのか」

「ええ。この女の人を今、犯そうとしているのですか?」

「あ? そうだよ。なんだ人間、お前、こいつの仲間か?」

「いえ、知りません」


 僕が首を横に振ると、オークさんは少し考えて納得してくれました。


「……まあ、それもそうか。オーク語が話せる人間なんぞ、人間社会じゃ生きていけないよなあ」

「そうですとも」


 そう言って笑っているうちに、女の人が逃げようとしていました。

 なので、オークさんが捕まえます。


「どうするんですか、それ?」

「種床に連れて行くんだよ。はあーあ」

「おや、あまり乗り気ではないようですねえ」

「お前、人間の女なんて抱きたくねえよ本当はよお」

「でも、思いっきり勃起してますけど」

「これからこ人間の相手しないといけないんだぜ? 今からでもエッチな気分になっておかないと、やってらんねえのよ」


「kfじゃlkdfじゃl;skfjl;fじゃおえjがえろjこの汚らわしい豚め!! かfjldかsjfじゃ、かdsfj@ヵjfぁsf私は辱めには屈しないぞ!!」

「うるさいなあ、黙らせられねえかな?」

「放っておきましょう。今のうちに叫ばせて喉を涸らした方が本番静かですよ?」


 オークは女性を担いでいってしまいました。どうやら、人間の女の人とエッチをするのは、内心嫌みたいですね。

 まあ、オークからすれば言葉通りの雌豚とエッチするみたいなもんですもんね。


「……異種間交配なんて、幸せになれる確率は低いんですよねえ」


 オークさんから人間の集落の道を聞いて、僕は森を出ました。


「頑張ってくださいねー」

「お前もなー」


 互いに手を振って別れました。言葉が通じれば、分かり合えるものです。


************


 森から出たあたりで、空から声がしました。


「ちょっとおおおおおお!! なんであの女の人助けないんですかあああ!!」

「おや、あなたが僕をこの世界に呼んだ人ですか?」

「そうですよ!! あの女の人は「聖女」!! この世界の闇を祓う力を持つ人物の一人なんですって!!」

「そうなんですか。気の毒に」

「いや、そうじゃなくて!! 何で助けてあげなかったんですか!! 同じ人間でしょ!?」

「いや、誰を助けて誰を助けないなんて、それは僕の自由でしょ。むしろオークさんの方が気の毒ですよ、あの聖女さんとやらを抱くために無理やりエッチなこと考えて気分を盛り上げてるんだから」


 僕の答えに、天の声はクソでか溜め息をついていました。何なんですかね。この人。


「と、ともかく。私があなたを呼んだのは、この世界の闇を祓ってもらうためで……」

「ええ―――」


 僕は心底嫌そうな顔をしました。何を勝手な。神っていうのは、本当に人の都合というものを考えないんだなあ、とつくづく思います。


「あなた以外にも、何人か転生していますよ。あなたには付けていませんが、チート能力を付けて」

「何で僕にはつけてくれなかったんですか?」

「当たり前でしょう!! ちょっとこれ見て!!」


 そう言うと、僕の前に数字とテキストの羅列された文章が出てきました。僕はもうげんなりしてしまいます。


「これ、ゲームのステータスですよね。いわゆる「お約束」だとは思いますけど、何でもかんでも数字やテキスト化するのは良くないですよ。本物のファンタジーなのかゲームのファンタジーなのか、わかんなくなっちゃいますからね」

「うるさいなあ、どっちもファンタジーなんだしいいでしょ!! それよりほら、この固有スキルの所!!」


 僕のステータスは軒並み一ケタで、レベルは1。そして、固有スキルのところに表記してあったのは、「同化侵食EX」でした。


「何だよコレ!! 触れたものを完全コピーし、触れたものを「安里修一」にできるって、そんじょそこらのチートよりチートじゃねーか!!」

「しょうがないじゃないですか、そういうものなんだから」

「とにかく!! 闇を祓うまで、この世界からは帰れないですから!!」

「ふーむ……」


 それは困りましたね。仕事があるのに。もし仕事をサボったら、バイトの怖いお兄さんや事務の怖いお姉さんに殺されかねない。


「……この世界の座標ってわからないですか?」

「え?」

「いや、だから。この世界の座標ですよ」

「座標? い、いや。分からん」

「神様的なポジションなのに?」


 天の声は黙ってしまいました。


「まあいいです。分かってそうな人を探すだけなので」


 取りあえず、座標さえわかれば帰れますからね。


 方針は決まりました。じゃあ、あとは実行あるのみ。


 僕は地面を「侵食」して、さらに視野を伸ばすことにしました。


************


 結果、世界は「安里修一」になりました。

 どういうことかって? 簡単です。


 この世界の舞台となる惑星そのものを、まず「同化侵食」します。

 そこから、地上、地下にあるものすべてを「同化侵食」します。


 はい、おわり。


「ちょっとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 天の声が、ものすごい勢いで叫んできました。


「お、お前、な、何してんのおおおおおおおおおおおお!!」

「いや、地上にこの世界の座標がわかる人がいないかと思って、探してました」

「だからって、こんな、こんなああああああああああ!!」


 ちなみに、この天の声さんの名前はパウエル。らしいです。魔王らしき人が対立している神のようでした。


「どーすんだよこれ、チート能力者たちも、その嫁も……みんな、お前に「侵食」されちゃったよ!!」

「まさかほかの人たちも、こんな形で攻撃されるとは思ってなかったでしょうねえ」


 そんなことを言っていると、何かが接近してくる気配がしています。


「おや?」

「て、転生者だ!! 生き残った転生者がいたんだ!!」


 着地してきたのは、黒いローブを纏った、個性の薄い男の人でした。


「……お前か!」

「はあ、何がです?」

「アーリャも、イーファも……」

「ああ、ウレアさんにエイラさん、オリガさんもみんな僕になっちゃいましたもんね」


「貴様ぁ!! 地獄の業火ヘルフレイム!!!」


 間髪入れずに、巨大な火の玉を放ってきます。嫌だ、おっかない。


 大きな炎の柱が上がりました。


「やったか!?」


 それを言う時は、まずやっていません。お約束ですね。


「あ、ああ……カイル……」


 カイル、と呼ばれた男の人は、その声にひどく狼狽していました。

 なぜなら、炎の柱の中に、さっき言っていたアイウエオさんたちがいて、現在進行形で燃えているんですから。


「あ、あああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 カイルさんは絶叫して、涙を流していました。確か、奴隷からお嫁さんにしたんだったけ。全員。そりゃあ、お嫁さんが燃えてれば泣きますよね。


「み、みんなあああああああああ!!!」


 そんなカイルさん、完全に動揺していたみたいです。僕に触られたことに、気づいていませんでした。まあ、僕はこの世界そのものなので、世界の気配を探る方が難しいですけどね。


 気付いたようですが、もう遅い。


 カイルさんは僕に「侵食」され、最後の転生者も僕となりました。


「お、この人、賢者って呼ばれてたんですね。……ああ、でもこの世界の座標は知らないや。なんか高威力の魔法使ってただけで賢者って言われてたみたいですねえ」

「お、お前は、一体何が目的なんだ!?」

「だからあ、ずっと言ってるじゃないですか。この世界の座標を教えてくださいって言ってるんです」


 そこで、僕はふと思いつきました。


「じゃあ、こうしましょう。そっちは座標を調べる。僕はその座標をもとに元の世界に帰る代わりに、この先を開放する。そう言う取引をしましょう」

「……そんなの、取引でも何でもないじゃないか」

「どうします?」


 パウエルの答えは一つだけです。すぐに、この世界の座標を教えてくれました。


「やっぱり知ってるんじゃないですかー」


 僕はその座標から元の世界の座標を計算して、僕をワープゾーンに変質させます。


「じゃあ、僕は帰りますね。今度から何か頼みたいときは、ここに連絡してください」


 ワープゾーンに入る直前、僕は名刺を世界に置いていきました。「安里探偵事務所」と書いている名刺です。


「……この世界に現れた闇は、お前だったよ」

「そうですか? じゃあ、僕をこの世界に連れてきたあなたのミスですね」


 僕はそう言って、ワープゾーンに入ります。

 世界は開放しましたが、一応ちょっとだけ、世界に僕を残しておきました。


************


「はー、異世界っていうのもたまには悪くないですね」


 そう言って、意気揚々とワープゾーンから出ます。そこを出れば、僕の住む元の世界。


 ワープゾーンから出ると、やけに黙々と湯気が立ち込めています。

 何事かと思ったら、そこには裸のバイトさんの姿が。


「……何やってんだ、テメー」


 シャワーを浴びていた、紅羽蓮あかばれんさん。どうやら、ここは蓮さんの家のお風呂だったようです。突然現れた僕に、彼は拳を握ります。


 しばらく考えた後、僕は言いました。


「きゃー、蓮さんのエッチ!」

「逆だ、バカヤロー!!」


 思い切りぶん殴られて、僕は空の彼方へと吹き飛びました。


 僕はもう、異世界には行きたくないと思いました。


 


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

元からチート「同化侵食」を持った奴が異世界に行った話。 ヤマタケ @yamadakeitaro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ