鳥籠 

狛犬

第1話 牢獄

ランベルク帝国の東に位置する、島々。

青い海に似合わない無骨な建物が建っていた。


その、冷たい灰色の鉄で囲まれたアルカトラズ牢獄地下3階にて。

一人の少年は、刑務作業を行っていた。


“刑務作業を行なっている”と言っても、彼は冷たい壁に固定されていて動けない。

動けない様にしてあるのだ。

何重にも重なった鉄の鎖を体に食い込む程巻き付けられ、壁に固定されている。

だから唯一動く事の出来る指先を動かして魔術を使い、箒で床をはいている。



彼の名はイブリアス•フェル。

彼は無期懲役なので、この監獄からもう出る事は無いだろう。

歳の頃は16かそこら。犯罪歴は、殺人罪。


茶髪の髪を乱雑に後ろで括っている。

金色とも取れる重罪を犯した様には見えない澄んだ瞳には、只々揺れる箒が映っていた。


此処に二年間もいた彼は、別に壁に固定されて動けないのは気にならなかった。

ただ少し…グギュルルルとお腹から抜けた音がする。


「お腹、空いたな…」彼はボソッと呟いた。


ずっと硬い黒パンしか口にしていない。

しかも一日、二食だ。

だからフェルは、四六時中お腹が空いていた。

そんな時だった。


ダンダンダンと誰かが此方に向かってくる音がした。

作業をやめて、箒を掴む。

目を伏せて、前を見ないように頭を下げる。

多分、刑務官だろう。

どうやら今日の気分は最悪で、大変機嫌が悪いようだ。


「B -25番。返事をしろ。」


面倒くさい…と、彼は思う。

B-25 は此処での彼の名だ。一応、品行方正な囚人の一人だし、何かお咎めは無いだろうと考えつつも返事をした。


「はい。」


ちらりとフェルを睨む刑務官。


「お前に新しい刑務作業をやる。ついて来い。」


その言葉を聞き、フェルの口元は歪む。


「ついて来いと言われましても。壁に固定されて見ての通り身動きも出来ません。それに檻の中にいるので此処から出る事も出来ませぬ。私にどうしろと?」


戯けた様に笑うフェル。


チッと苛ついたように舌打ちをして刑務官は檻を蹴った。


ガンッッツと鈍い音が反響して響きわたる。


「こんな脆い鉄の塊なんざお前は直ぐに破る事が出来るだろうイブリアス・フェル。

さっさと出て来い。」


「良いのですか?刑務官様。私の名前はB-25 ですが。」


肩をすくめるフェル。


「その刑務官様から命令だ。有り難く聞け。さっさと出て来いB-25。」


面倒くさそうにのろのろ指先を動かすフェル。


はいはい分かりました…と言いかけつつもフェルは魔術で脆い鉄の固まりとやらを断ち切った。


「では行きますか。刑務官様、案内お願いします。」


腕に鎖を巻き付けたまま足だけ動かせる様にしてフェルは檻から出てきた。


フンッと満足気に鼻を鳴らすと、刑務官は踵を返して歩いていく。


フェルはその背中を追いかける様にして歩いて行った。


コツコツコツコツと2人分の足音が静かな檻の中に残って消えた。

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鳥籠  狛犬 @komainutokarugamo

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