第59話 謁見

翌朝。

私はロニーとレイチェルに付き添われ、王宮へと来ていた。

正直、無茶苦茶怖い……。


「緊張してる? 王様は穏やかな方だから落ち着いて」

「そりゃ緊張もするよ……」

私は苦笑いするしかない。


やがて、重厚な衣装に身を包んだ高齢の男性が姿を見せた。

「ほほう、キミがマチか」

「マリでございます、王様!」

レイチェルはすかさず言い返す。

それもそうだ、レイチェルは私の仮名であるマリの名付け親でもあるのだから。


「ほうほう、マルだったな。さてと、ゲートをくぐるには真名が必要だが……?」

「マリですね。大丈夫です。真名は覚えています」

「そうかね……」

王様の隣に若い男性がいる。

彼は、そっと王様に耳打ちをした。


「フム、またアローニに戻ることをしたい、と」

「彼女はセラピストの資格も有しております。更新も必要でございましょう?」

「その通りだな、ローラン」

「ロニーです」


王様はなぜか名前をいつも間違って言う。

私たちはそのたびに訂正をした。


「よろしい。マヤとやら……」

「マリですってば!」

レイチェルはややうんざりした口調で言う。


「この鍵をあなたにお渡しします」

私はラグーンブルーの装飾が付いている鍵を受け取った。

「この鍵は……?」

「それがあれば、いつでもアローニに戻ることができます。ただし、一緒にアローニに入れるのは、あなたとあなたの血の繋がっている人物二人までです。それ以上は弾かれますのでご注意を!」

「そんな規則があるんですか!?」

「ええ。アローニの歴史の中で、転送者による侵略未遂事件が起きたことがあり、こう言った規則となったのです」

「そんなことが……?」

私は思わぬことに驚く。


「そして、アローニの者に連絡をしたい時はこれをお使いください」

私は淡い色の紙束を受け取る。

パラパラめくると、四季折々の花が彩られていた。

「アローニの誰宛、と書いて適当な封筒で封をし、鍵を上に置いてくだされば手紙が送れます。鍵によって手紙が転送されると考えていただければよろしいでしょう。アローニの人物から返事を受け取ることもできますが……、恐らくそれは普通に配達される、という形になるはずです」

「わかりました。ありがとうございます」


「そろそろ刻限じゃ。ゲートを開くぞい!」

王様がゲートを開いた。


「ロニー、レイチェル、お世話になりました!」

「こちらこそ、本当に楽しかったよ。ありがとう!」

「また必ず会いに来るから……!」

「ええ。待っているわ!」


ゲートに吸い込まれていく。

あっという間にロニーやレイチェルの姿は見えなくなった。


「……げほっ!」

私は思わず咳をする。

「姉さん! お母さん、姉さんが!」

「うっ……、由佳……?」

「良かった、よかったよ、姉さん!」

由佳が全力で抱き着いてくる。

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