第58話 帰宅
電車やらバスに揺られてロニーの家に戻った後。
私は、記憶の旅の事を二人に話す。
家族は母、双子の妹、そして仕事が多忙で不在がちの父がいること。
本名も思い出すことが叶ったこと。
「そういえば、本名ってどんな名前なの?」
「
「楓香、か。良い名前だね」
「マリと楓香、私たちはどちらで呼ぶべきかしら?」
「やっぱり、楓香の方が良いんじゃない?」
ロニーはレイチェルの疑問に考えることなくさっくりと答えた。
「私は、どっちでもいいよ。どっちも大事な私自身だもの」
「そうね」
レイチェルは笑って言った。
マリ、と呼ばれてアローニで暮らしていた記憶もちゃんと維持されているのは、私も本当に嬉しかった。
「それにしても、マリ……、楓香の決断でこんなに前進できたんだね」
「うん……。私も結構大胆に判断したなぁ、って今更思っているよ」
「けど、それは凄いことだと僕は思う。必ず決断はしなきゃいけない時があるからね。進むもよし、下がるもよし、ってね。僕も同じ状況だったら、下がるって判断をしたかもしれないし」
「そうかも」
レイチェルも同意した。
私はミーシャや、祭典で友達になったセラピストたちにもその事情を伝えることにした。
どうしようか、そう悩んでいたけれど、やはり取った手段は手紙だった。
「みんなに手紙で伝える?」
「うん。手紙の方が残るし。読み返したくなったら読めるじゃない?」
「確かにそうだね」
私は一枚ずつ丁寧に手紙を書いていった。
さすがに人数が多くて、一日で書き終わらず、二日間に分かれてしまったけれど。
それでも、友達には全てかけたと思う。
ポストに投函した後。
「マリ!あ、いや楓香!」
「どっちでも構わないけど……、血相変えてどうしたの?」
「キミに王宮の入場命令が届いていたんだ!」
「え?」
王宮?
何でそんなところに?
私はしばらく思考停止する……。
「……、……、王宮……、……、え? えぇえー!?」
「アローニは王制国家だからね。じゃなくて!」
「王様に入場命令状を出されるなんて、何をしたの!」
それは私が聞きたい……。
戸惑っていると、来客がある。
「は、はーい!」
レイチェルが出て、すぐにレイチェルは一緒にお客さんを連れてくる。
「シーナさん!?」
「あら、先に届いていたのね……。王宮入場命令状」
「私に? 本当、私が何をしたんですか!?」
「違うわよ。むしろ、アローニとあなたのいた場所を繋ぐための手続きの為よ」
しばらく室内の空気が止まった……気がする。
「あ……!」
ロニーは思い出したように声を出す。
「そっか、転送された人が元の世界に戻るには、王室を介するんだったね」
「私たちも直接立ち会うのは初めてだから驚いちゃったわ」
「そういうものだったのね」
私は苦笑いするしかなかった。
「期日は明日の朝10時。あなたはアローニを出て、本来の世界へ戻るのよ」
シーナさんははっきりと言った。
「そして、また戻れるかどうか、その時に王様から話があるはずよ。……忘れていなければ、ね」
「え?」
「今代の王様ももう年だから、忘れっぽくて。王子も多忙で不在がちだから、いるって保証もないから、最悪あなたから切り出しなさい」
「は、はい……!」
思いがけず、今日がアローニ最後の夜。
私はレイチェルを手伝おうとするが、止められてしまった。
「今日くらい、ゆっくりしてちょうだい。荷造りしないと」
私は頷いて、リュックに自分の私物の数々を詰めた。
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