第53話 記憶の旅路へ
「……か姉さん……」
やはり、名前の部分が聞き取れない。
だが、確信した。
私は……、最後が「か」で終わる名前なのだと。
ゆさぶられる感覚に、私はゆっくり目を開ける。
「……眩しい」
「おはよう、マリ」
そうだ、私はシーナさんの研究所に泊まった!
私はようやく事実を思い出す。
「おはようございます、シーナさん」
「調子はどう?」
「大丈夫です」
シーナさんはホッとしているようだ。
「それならよかったわ。朝食を食べてから、部屋を移りましょう」
「はい」
いよいよ、記憶を取り戻す被験だ。
私は少し気が引き締まった。
朝食の後片づけをして、いよいよ部屋を移った。
リクライニング機能付きのベッドがある。
「マリ、そこで横になっていて」
「はい」
私は言われた通りに横になる。
シーナさんはなにやら、ラベンダー色の小さな粉が入った袋を持っている。
まさか……!?
「あ、これは胃薬よ」
「胃薬……」
思わぬ言葉に呆然とする。
「薬で胃が荒れるってデータがあるから、一緒に服用してもらうわ」
「そうだったんですね……」
小さな淡いオレンジの飲み薬と、胃薬を一緒に飲む。
胃薬を飲んでいるのに少し胃がむかむかするような感覚がした。
「少し薬の副作用で一時的に胃が荒れるかもしれないけど、胃薬も飲んでいるから多少はマシなはずよ……」
「胃薬がなかったら凄い荒れ方してそう……」
私は苦笑いして答えた。
私はベッドの上で妙に眠たくなってきた。
視界がぼんやりとしてくる。
「マリ、あなたの記憶を探るのは、あなたの夢の中よ」
シーナさんの顔がぼやけて見えた……。
次に視界に入ってきたのは、どこか懐かしい場所。
私はそのまま少し歩いてみる。
「……か姉さん! 図書館行くの?私も一緒に行きたいなぁ」
「え?」
大事なあの子だ。
「……か、由佳、図書館行くの? なら、お母さんの頼んだ本が図書館に返却されたみたいだから、一緒に借りてきて」
「いいよー。じゃあ、行こっか、姉さん」
由佳、と呼ばれた女の子は腕を引っ張ってくる。
「図書カード、忘れてないよね?」
「ええ」
私はなぜだか返事ができた。
「それじゃあ、早く行こう! あの本が借りられちゃう!」
どうやら、由佳はお気に入りの本があるようだ。
そういえば、由佳と私とは似ている部分が多く感じる。
バサリ、と音を立てて、カードが落ちる。
うっかりカードを収納したケースを落としたからだが、一体どこにケースがあったのだろう?
私は慌ててカードを拾おうと手を伸ばす。
カードの表には
『島里 楓香』
と記されていた……。
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