第50話 決断
私はどうしたいのか……。
その答えを決めかねていた。
そして、一人部屋に閉じこもった。
「どうすればいいのか……、それはもちろん自分で決めないといけないけど」
このままアローニにいるままでももちろん良い。
ロニーたちが優しいから。
でも、自分のことを知りたい。
体もどうなっているかわからなくて、不安ばかりが募る。
それに……。
「もし元の世界へ帰ったら、ここには戻って来られるのかな?」
私はつい不安を吐露する。
それでも、時間は刻々と過ぎていく。
決断は明日の午前中までに決めなくてはならない。
戻るかどうかは、一旦おいておこう。
記憶を思い出したいか、思い出したくないか。
私はそこを一番に考えることにした。
その方が、気持ち的に一番整理がつくと結論が出たからだ。
『マリ』のまま、何も知らずいるのだって良いのかもしれない。
それでも、自分の中で本当の名前とか、家族の事とかを思い出したい気持ちはある。
前に進みたい、そう思った。
「よし、ここは決めた!」
私は、一旦記憶を取り戻そう、と決断した。
もしかしたら、アローニの記憶は失うのかもしれない。
そんな不安は一瞬よぎる。
それはもちろん怖いけど。
それでも、前を向こうと私は思った。
一方、シーナは……。
「マリにはなかなか苦渋の決断を迫っているのは分かるけど、あの子が本当に望む道をと思うとこうせざるを得ないわよね……」
大きなベッド上の機械を整備する。
彼女はそれを望むのか……、シーナさえ分からない。
「アローニの記憶、これがどうなるか私も分からない……、それでも、もしマリが記憶を戻すことを望むならやるしかないもの」
「あの子は意志が強そうだから、きっと自分が望む道をはっきり選ぶはず。そこまでできたら、私ができるのは手助けだけ。それはちゃんと分かっているわ」
誰に言うわけでもない。
自分に言い聞かせているだけだ。
シーナは整備を終えると、自分の部屋に戻る。
「明日は朝が早いわね……」
そう言って苦笑いした。
翌朝。
シーナは予定通り、ロニーの家へと来ていた。
「マリ、昨日の事で話を聞きたいのだけど」
「……一晩考えてみました。」
「どうしたいの?」
私は一呼吸置いた。
「……記憶は取り戻したいです。でも、アローニの記憶はどうなるか、教えてください」
「……アローニの記憶はどうなるか分からないわ」
「えっ?」
「今まで、アローニの人が対象だったから……。あなたみたいに異世界からの人を被験することはなかったの」
「そもそも、異世界から来た人もさ、言うほど多くなかった。さらに記憶を失っている人も滅多にいなかった。それも理由の一つでもあるし、記憶がなかった人たちはアローニで普通に暮らしているっていうのが現状なんだ。シーナさんみたいに研究している人に出会えなかったっていうのが大きい理由だろうけど」
「そう……なの?」
「ええ、ロニーの言う通りよ。研究している人間も多くはないの」
私はそれを聞いて、頭がパニックになる。
それでも……!
「シーナさん、お願いします」
「わかったわ。これからやるとなっても多少の準備が必要だから、今夜迎えに来るわ。一日泊まれるだけの準備をしておいて」
「はい!」
私は、立ち止まっていられないと改めて思った。
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