第22話 新星セラピスト
ミーシャと私は、ドキドキしながら見守った。
どんな人が作った物も、やはりとても癒される香りになっていたからだ。
「こちらのカードからは……、ロニー! そして、新進気鋭のセラピスト、ルイ!Congratulazioni! 」
ルイ、と呼ばれた若い男のセラピストは、驚いたように立ち尽くしていた。
ロニーはそんなルイに近寄った。
「おめでとう、ルイ! 次の時も、僕は容赦しないから、全力で立ち向かっておいでよ」
「あ、ありがとう、ロニーさん」
戸惑っていたルイも、ロニーの背中を追って舞台裏へと去っていく。
「凄いルーキーが現れたものね」
ミーシャは興奮したように言った。
確かに、新人だとは思えない。
それだけレベルの高いセラピストがいるんだと、私は驚いた。
「ルイ、か。覚えておこう」
ミーシャは笑って言った。
一方で舞台裏。
レイチェルはロニーが戻ってくるのを見つけた。
「さすがね、ロニー」
「負けるわけにはいかないだろう? 」
ロニーは不敵に笑った。
ルイは心細そうに物陰にいた。
「胸を張りな! 君が実力で勝ち取ったんだ。素晴らしいことじゃないか」
ロニーは明るく声をかけた。
「あ、ありがとう、ロニーさん」
「お互い、次も頑張ろうじゃないか! 」
「素敵な作品だったわ。才能が羨ましく思うわ」
レイチェルもルイに話しかける。
「れ、レイチェルさん……! ぼ、僕なんて、そんな……」
「大丈夫よ。あなたの作ったものは優しい空間の演出によく合っていたわ。ラベンダーとカモミール、そしてネロリ。どれも花の中で穏やかな香りの物だから」
ルイはポッと頬を染める。
「あ、ありがとう、レイチェルさん……! 」
「当たった時は、お互いライバルよ。頑張りましょう」
「はい! ロニーさん、レイチェルさん、ありがとうございます! 」
ルイは少し誇らしげに歩いていく。
その姿を、二人は微笑ましく見送った。
残りのカードは2つ。
誰が出るのだろうか……。
ロニーはそう思いながら、舞台裏のモニターを見、アナウンサーの声に耳を傾ける。
『Congratulazioni!』
「えっ!? 凄いな……! 」
「まさか、ここで高等セラピストまで落とされることがあるなんてね」
「いや、それは本当に分からないよ。シードみたいなサービスはない、よく知っているよね? これは本当に、セラピストとしては正々堂々真剣勝負だからね」
敗れた高等セラピストはカルという女性だった。
舞台裏に戻るなり、ひっそりと物陰に隠れてしまっていた。
「これが、祭典の恐ろしさだよ。でも、実力を認めて欲しいから僕は進み続けよう、って決めているんだ。レイチェル、君もそうやって挑むことはできるかい? 」
「ええ! 私だって、いつだって生半端な気持ちでセラピーをやっているわけじゃないわ! だから、挑み続けていこうって思うもの」
ロニーはその言葉にうなずいた。
「立ち止まるな、レイチェル。僕からの助言はそれだけさ」
「大事な言葉ね、ありがとう」
レイチェルは不安とワクワクとした気持ちが入り混じる。
じっとモニターを見つめていた。
ミーシャと私は、次から次へと出てくるセラピストたちのすばらしさに魅了されていた。
どの人も、まるで魔法のように香りを作っていくのだから。
「しっかり修行したら、あんなふうになるんだろうなぁ」
「その前に、資格を取らないとね」
ミーシャは笑って言った。
「次が予選最後です! 」
その言葉に、私たちもなぜか背筋が伸びる気がした。
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